ピエロ/パターンB

「パンパカパンパンパーン!!」
「なに!?」
「おめでとう!ピエロ!」
「何よあんたどこから来たの!?」
「おめでとう! ついに1万回だ! いやよくぞここまで! 飽きもせず、諦めもせず、何もせず! ただ思うことだけを続けたよ! ピエロ、君は本当にすごい! ………って何してるの?」
「警察呼ぶのよ。ピエロ姿の不審者がいるって」
「やめておいた方がいい。イタズラ電話だと君が怒られるだけだ」
「はぁ? わけ分かんない」
「ほら」
「え?」
「見えるだろ? 僕の後ろのカーテンが」
「透けてる…」
「僕は君以外に見えない」
「幽霊…?」
「ちょっと違うかな」
「じゃあ何…」
「そんなことよりもだよ! ねぇ本当、ここまでくると尊敬に値する! いいかい? 君は気づいていないだろうけど、ついさっき、やっと、なんと、1万回になったんだ!」
「…」
「何がって聞かないの?」
「…」
「うれしすぎて声も出ない?」
「…なに…」
「震えてる。…あぁ、怖すぎて声が出ないのか。怖がらなくてもいいよ。僕は君の願いをかなえに来たんだ。カボチャの馬車の魔女。君がずっと欲しがっていた物をあげるって考えればサンタクロースでもいい」
「…」
「ねぇ、ピエロ? そろそろ何か言ってくれないと寂しいなぁ」
「…」
「まぁいいや。だってせっかくのお祝いの日だもの! 僕まで黙ってしまったらつまらない。にぎやかに盛大に君を送り出してあげよう!」
「送り出す…?」
「そう。だってそれが君の願いだろう? 君はもう1万回も『死にたい』と思ったんだ」
「なに、それ…」
「覚えがない? そんなはずはないだろう? 1万回だよ、1万回。1日1回にしたっておよそ27年だ。生まれた赤ん坊も立派な大人になる」
「…」
「いいかい? 君は『死にたい』『死にたい』と1万回も思ったんだ何もせず! 何もせずだよ1万回も! 1万回も死にたいと思いながらよく生き続けたよ。本当にすごい! だからさ、僕からのとっておきのプレゼント! さぁ、好きな死に方を選ぶがいい。僕が殺してあげる」
「わたし、そんな…」
「あぁ今度はうれしすぎて声が出ない? 分かるよ? みんなそうだったもの。同僚にさ、すっごい悪趣味なやつがいて、そいつは『死にたい』って言ってるやつを生かし続けるんだけど、ねぇそれってとってもひどいことだと思わない? 1万回も願ったんだもの。その執念に免じて、きちんとかなえてあげなくちゃ。殺してあげなくちゃ」
「いや…いやよ…わたし…し、しぬなんて…」
「どんな希望もかなえてあげる。さぁあなたのお望みを! その命をかけて、僕を笑わせてくれよ、なぁピエロ?」