毒の味
「それを飲んだら死んでしまうと言ったら、君は飲むだろうか」
「え?」
「僕の淹れた紅茶、好きでしょう?」
「えぇ」
「今日はとても上手に淹れられたんです。君と出会ってから、一等美味しくできたかもしれない。…飲んでくれますか?」
「毒を?」
「紅茶の香りも味も損なわないよう、無味無臭なものを入れました」
「用意がいいんですね」
「知っているでしょう?旅行の準備だっていつも僕がしていたんですから」
「行ったことないじゃないですか、旅行なんて」
「僕は計画を立てていましたよ。国内も、海外だって行きました」
「それは楽しそうですね」
「さぁ、冷めては味が落ちてしまう。どうしますか?」
「そうですね…」
「…」
「…」
「…ふふふ」
「何がおかしいんですか?」
「君はそういう人だと思いました。それでは僕が飲みましょう」
「え?」
「君に飲んでもらいたかったけれど」
「だめ!」
「……あぁ、もったいない。ケガはないですか?」
「ごめんなさい…」
「いいえ、分かっていたことです。君はそういう人です」
「…」
「僕が片付けます。ケガをしてしまう」
「…」
「……もう二度と、あんなに美味しい紅茶は淹れられないかもしれない」
「…」
「どうして飲んでくれなかったんですか?」
「だって…もう飲めないじゃないですか」
「えぇ、こぼれてしまいましたから」
「あの紅茶を飲んだら、もう、飲めなくなってしまう」
「…あぁ、なるほど」
「あなたの淹れてくれた紅茶が好きなんです。これからも飲みたいんです」
「でもそれは普通の紅茶だ。最高の一杯ではなく、なんの面白みもないいつもの紅茶。それが、僕の味になると」
「それじゃだめですか?」
「…………紅茶を淹れましょう。次こそは飲んでくださいね」