かぎしっぽの猫
「かぎしっぽの猫を知っているかい?」
「知らないよ。あっちへ行って」
「そうか、ありがとう。…あぁ!君!待って!ねぇそこの君!ちょっと聞きたいことがあるんだけど、かぎしっぽの猫を見たことがあるかな」
「かぎしっぽ?そんなのもういるわけないじゃない。みんな連れて行かれちゃったもの」
「そうか…。見かけたという話を聞いたんだけど」
「嘘よ嘘。かぎしっぽが幸福の証なんて言われてからこっち、毎日のように知らない人間が来て島中を踏み荒らしていったもの」
「それは災難だったね」
「あんたも気を付けなさいよ」
「僕はほら、かぎしっぽじゃないから」
「違うわよ。人間じゃなくて猫。仲間をなくした猫は他所者を追い出すってこと」
「あぁそういうことか、心配してくれてありがとう」
「おい、黒猫」
「…ん?僕に何か御用かな?」
「かぎしっぽを探してるんだってな」
「ほら言わんこっちゃない。私は関係ないわよじゃあね」
「あぁさようなら親切なお嬢さん。さて、その通り、僕はかぎしっぽの猫を探している」
「なぜ」
「かぎしっぽの猫は幸福を運んでくれるというじゃないか」
「…」
「僕もぜひその恩恵に預かりたいと思ってね」
「お前もあいつらとグルか!」
「あいつら?」
「人間だ」
「あぁ!違うよ、僕はただの猫だ」
「証拠はない」
「僕は人間と取引できないからね。その証拠に、ほら。肉球が柔らかくない」
「…それの何が証拠だ」
「知らないの?人間は猫の柔らかい肉球が好きなんだ。あとお腹のにおい」
「ふざけるのも大概にしろよ」
「ふざけてなんていないよ、大真面目さ。真面目に、僕はかぎしっぽの猫を探している」
「なぜ」
「幸せになりたいからね」
「だからそれは…」
「かぎしっぽの猫は幸福を運んでくれる。友だちになれば幸せになれそうな気がしないかい?」
「猫のくせに、人間たちのくだらない話を信じるっていうのか?」
「良い話だと思っているよ?幸福を運ぶ猫、僕も一度呼ばれてみたいもんだ」
「…狂ってるのか?それで何匹の仲間が連れて行かれたと思ってる」
「猫の楽園といわれたこの島で、見渡してもそれほど見かけないところを見ると相当な数だったんだろうとは思う。それともみんな隠れているのかな。ほら、あの草陰からもこっちを見てる」
「47だ。47匹の仲間がいなくなった。まだ生まれてまもない赤ん坊もいた」
「それは大変だ」
「ふざけているなら噛み殺すぞ」
「君が噛んだのは自分のしっぽだろう?」
「!」
「あぁ違うか。噛んだんじゃない。自分で自分のしっぽは噛めないものね。んんん…うん、どうやっても届きそうにない。噛んでもらったのかな?それとも何かに引っ掛けた?」
「…」
「形が不自然だなと思っただけさ。ただの勘だよ。“噛んだ”だけに」
「…」
「ごめん。面白くないことは自覚してるんだ」
「…殺す」
「待ってって。本当に、僕はただ友だちになりたいだけなんだよ。君と」
「俺は友だちになんてなりたくねぇ」
「それはほら、まだ僕のことを知らないからさ。あんまり面白いことを言えないのは残念だけど、友だちからは『案外いいやつだ』って言われるよ?」
「イカれたやつはイカれた連中と付き合っていればいい。俺は違う」
「そうやってよく知りもしないうちに判断して線引きするのはよくないよ。僕から言わせてもらえば、君だって十分イカれてる。かぎしっぽを捨てるだなんて。そんなんで大事な仲間は返ってこないよ」
「…お前、何を知っている」
「これから知っていくんだよ。僕も、君も。これから互いを知っていくんだ。はじめまして、僕は君と友だちになるためにやってきた。これから末永くよろしく。元かぎしっぽの白猫さん」