ファン第一号のおもちゃ
「こんな安物で殺される人生か…」
「ご愁傷様です」
「誰だ?」
「天使です」
「真っ黒なくせに?」
「天使が白い服を着た子どもだと考えたのは天使を見たこともない人間でしょう?つまらないことを言わないでください、あなたともあろうお方が」
「知ってんのか?」
「もちろん。あなたに会いに来たんですから」
「人違いじゃないか?俺はこうやって死ぬのがお似合いな底辺の人間だ。天国になんかいけるわけないだろ」
「えぇ」
「あぁ?」
「あなたは天国にはいきません。現世に残っていただきます」
「はぁ?」
「神さまはあなたの目をとてもお気に召していらっしゃいます」
「神?」
「様をつけなさい」
「まじでいんのかよ」
「天使がいるんだから当たり前じゃないですか。神さまはあなたの目をとても高く評価されている。正確に言えば目と頭脳、嗅覚と聴覚と触覚…、あなたが五感で感じたすべてと、それをもって巡らせた思考」
「全部ってこと?」
「えぇ、あなたのすべてを神さまはお気に召していらっしゃるのです」
「気に入られるような覚えないけど」
「神さまですよ?あなたがどういう人でどういう人生を歩んで何を考えているかなんて、すべて知っておられるに決まっているじゃないですか」
「そういうもの?」
「そういうものです」
「こんな死に方した人間のどこがいいんだ?」
「死に方など問題ではありません。それはただの事象。あなたの人生の最終評価ではありませんから」
「天使がそれ言うのかよ…」
「そういう固定概念、この際捨ててみてはどうでしょう?せっかくですから」
「死んだのを機に?」
「えぇ」
「そう簡単に受け入れられるかよ」
「そうですか?冷静そうに見えますけど」
「興醒めしてるだけだ。一周回って頭が冷えた。怒りようもないだろ。あっけなさすぎるし、アホらしすぎる」
「ご自分の死をそんな貶すものではありません」
「……俺にどうしろって言ってるんだ、神さまは」
「今まで通り生きてほしいと」
「は?」
「生きて、人間の営みを感じてほしいと仰せです。あなたの目で見て、耳で聞いて、心で感じて、頭で考えて」
「そんなこと?」
「あなたのファンなんですよ、神さまは」
「急に俗っぽいな」
「ですから、これまで通り生きていただければ問題ありません。私はあなたが寿命を全うできるよう近くにおりますが、あなたを助けたりはしない。もちろん神さまもあなたの味方にはならない。ひとりの人間として、生きて、死んでいただければ」
「その結果がこれなんだけど」
「あまりにもあっけなさすぎるので。延長戦とでもお考えください」
「軽すぎねぇか」
「そうですか?」
「神さまの勝手で生かされるわけだ」
「勝手も何も、私たちは生まれる前から神さまのものですよ」
「……」
「もっと胸を張ってください。言ってしまえばあなたは小説家であり、芸術家であり、映画監督なんです。それも、ファン第1号は神さまですよ?」
「なりたいと思ったこともねぇよ」
「なりたくてもなれない方がいるんですから、そうおっしゃらず」
「断るって言ったら?」
「もちろん、できるはずないでしょう?」