恋を知らない人
「また会えるなんて、思っていませんでした…」
「薄情な人」
「だって…あなたが急にいなくなったんじゃないですか」
「また会える、会いたいなと思って待つのが恋人でしょう?」
「そういうものですか?」
「そういうものよ」
「どこに行ってたんですか?」
「内緒」
「別の人のところ?」
「そうだと言ったら…」
「…」
「嫉妬する?」
「…でも、僕と恋人だったときも他の人と会ってましたよね?」
「まだ恋人でしょ?」
「誰がですか?」
「私たち」
「そうなんですか?」
「別れるなんて言った?」
「言われてないですけど…」
「なら恋人同士よね」
「何年いなかったと思うんですか」
「2年くらい?」
「4年と2カ月です」
「あら、そんなに」
「僕に新しい恋人がいるとは思わないんですか?」
「いるの?」
「いないですけど…」
「なら問題ないわよね」
「…」
「いても気にしないけれど」
「僕の気持ちはどうなるんですか」
「気持ち?」
「あなたが急にいなくなって、4年2カ月もひとりで過ごした僕の気持ちです」
「ひとりでいてなんて言ってないわ」
「……」
「何をそんなに怒っているの?」
「……」
「私はあなたの怒らないところが好きだったのよ」
「じゃあもう嫌いでしょう」
「それがね、そうでもないのよ。怒らないでほしいとは思うけれど、それは私の好きなあなたじゃなくなるからってわけではなくて。なんなのかしら、これ。分かる?」
「分かりませんよ。僕に聞かないでください」
「ねぇ、怒らないで」
「…都合の良いように捉えますよ」
「何を?」
「あなたが分からないと言う感情を」
「いいわよ。都合の良いようにして」
「そうやってあなたはいつも僕の心をぐしゃぐしゃにする」
「ねぇ。今日はとっても寒いから一緒に眠っていいかしら。私がいない間、あなたがどうやって過ごしていたのか知りたいの。寝物語に聞かせてちょうだい。どんな時に、どのくらい私のことを思い出してくれたのかしら」
「……いいですけど、それを聞いて満足したら、またあなたはどこかへ行くんでしょう?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「なら交換条件です。僕のこれまでを教える代わりに、あなたの心のもやもやに名前をつけさせてください」
「いいけれど、どうして?」
「あなたのそれを恋と名付けたら、僕の側にずっといてくれますか?」