ユダを探せ

「ユダを探そう」
「ユダ?」
「あぁ」
「ユダって?」
「裏切り者だよ。これだから学のないやつは」
「それは知ってる。裏切り者なんかいるのかって話」
「いるだろう? 寝ぼけてんのか?」
「君が起こしたんだろ。今日はどうせ雨だから、もう少しゆっくり寝てもよかったのに」
「何を呑気な…」
「呑気で結構」
「バカは死ななきゃ治らないという」
「ひどいなぁ」
「ユダを探せって」
「探す必要ある?」
「あるだろ」
「別にいいじゃない。誰が裏切ったとかそういうの。裏切られたと考えること自体野暮だよ」
「俺たちの命がかかってるんだぞ」
「ユダ、ユダねぇ…」
「心当たりがあるのか」
「裏切り者なんか、そもそもいるわけないんだよね」
「はぁ?」
「君って優しいよね」
「なんだ急に」
「そうしてバカだ」
「おい」
「裏切りってさ、前提として仲間なわけでしょ。同じ志を持って、同じ方向を向いて、だけど邪魔をするようになるから裏切り者だ」
「あぁ」
「僕たちは誰ひとり仲間ではなかったよ。君がそう信じていただけで、仲間だと思っていたやつはきっとひとりもいなかった。裏切り者なんかいるのかって話。仲間もいない、人を信じることもできない僕たちは、ユダにさえなれないんだ」