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第六夜

 こんな夢を見た。
 頭のてっぺんからつま先までピンクのコスチュームに身を包み、右手には光線銃を握ってティラノサウルスを追っている。走るたびにピンクのヘルメットがぐらぐら揺れて、邪魔になることおびただしい。今更ながらにナマクラ博士に悪態をついたが、通信機がオンになっていたせいでブルーに聞き咎められてしまった。
 スーパー戦隊の一員になって初めて、幼少の頃憧れていたこのコスチュームはなかなかに動きにくいということを知った。足元を固めるピンクのブーツからしてヒール付である。どこが戦闘仕様だ。体に密着した戦闘服も、なんだかぴらぴらした布地で出来ていてとても衝撃に耐えうるようには見受けられない。熱や冷気にも弱そうだ。
 極め付けがこのヘルメットだ。視界が悪い。そして重い。真っ直ぐ立っているだけでも至難の技だ。だから初めて光線銃を持たされた時には手元が定まらずにたまにレッドやグリーンに当たったりしていた。解禁してもらえたのはつい最近である。
 博士から緊急出動の連絡が入ったのは先ほどのことだ。巨大ティラノサウルスが町を破壊しているので取り押さえて欲しいと言う。ここのところつまらない事件が続いていたので、五人は勢い立った。イエローなどは、ツナギの戦闘服に慌てて足を入れ危うく破いてしまうところだった。そう、このコスチュームは全て手動装着なのである。どうせならボタン一つで変身させてくれればいいのに、そこがナマクラ博士がナマクラたる所以だ。
 どこかの水道管でも破られたのか、足首まで来ている水をばしゃばしゃとはね散らしながら馬鹿でかい恐竜を追う。道のそこここに、踏み潰されてぺしゃんこになった車の残骸が散らばっている。通信機から雑音とともに、ブルーとグリーンが逆の方向から回り込んでいることが告げられた。先を行くレッドとイエローはもう攻撃を始めたようだ。銃を構えなおし、足を速める。恐竜の咆哮が町に響き渡った。

 無事に任務を終え、町の復旧作業も始まったところで、自分は本部と呼ばれているナマクラ博士の研究室に赴いた。光線銃で痺れさせたまま放ってあるティラノサウルスの処置も相談しなければならない。
 狭くて汚い部屋の中には、変わらず訳の分からないガラクタが所狭しと積み上げられていた。黒焦げになっているロボットらしきものもある。何に使ったんだろう。ふと、片隅にある大きな檻に目がとまった。中はからっぽだったが、隅のほうに卵の殻らしき破片が散らばっていた。ずいぶん大きい。隣にある袋には、成長促進剤:暴君トカゲ用とかいう文字が見えたような気がする。
 脱隊を決意したそのときに、そういえば自分はまだこの戦隊の名前すら知らなかったことに気がついた。

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