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あたし死ぬかも
あたし死ぬかも。パパ、ママ、先立つ不幸をお許しください。
昨夜の寒さのせいか、クリニックの待ち合い室は患者があふれていた。ハアハア言いながら、あたしは胸もとを押さえながら順番を待っていた。1ヶ月くらい前から胸のなかがざらざらする。息が苦しい。息を吸っても肺にぜんぶが行かないかんじ。せきがでて、のどにたんが張りついている。頭がいたい。喘息かもしれない、ううん、肺炎かも。順番まだなの。こんなとこで死ぬのはいやだ。どうせ死ぬなら家で死にたい。カバンからスマホを取り出した。ユビーAIに診断してもらおう。年令打ちこんで、女性をタップ。気になる症状は、っと。胸もとが痛い、息が苦しい、咳が出る、頭が痛い。いつからかには、1ヶ月前、1ヶ月前、1ヶ月前、最後は3ヶ月前から。診断をはじめて3分もしない間にユビーちゃんはあたしに告げた。≪放置すると危険な症状があります。すぐに病院の受診を考えてください≫って。気管炎、気管支炎、咳ぜんそく、気管支喘息、肺炎。え、肺炎っ!!やばい、やっぱりあたし死ぬかも。どうしてママはあたしをこんなに弱く産んだのよ。もっと強く産んでくれたらよかったのに。診察室からギャアギャアと甲高い泣く声が聞こえた。目を向けた。背中がぞくぞくする。風邪もひいてるかも。『大丈夫、もう終わったよ』お母さんと思われる女性に抱かれた赤ちゃんは大泣きしながら待合室にやってきた。注射きらい。注射器を想像するだけでストレスなのよ。うう、胃が痛い。胃腸風邪もひいてるかも。
「44番さまあ」診察室から看護師さんが出てきた。あたしは、胸もとあたりをさすりながら立ち上がった。先生は口を開かせ、舌を出させて、のどの奥を見た。胸と背中に聴診器を当てた。「胸もとが痛いってのは、ストレスの可能性もありますね」胸のなかがざらざらするとかいろんな症状を事細かに話したあと、先生は言った。ストレス。あたしの頭にはいろんなストレスが浮かんだ。あたしの顔を見るたびにママは勉強しなさい勉強しなさいっていう、でもどんなに勉強しても成績は上がんない。だからストレスはもっとたまる。付き合っている彼はちっとも遊んでくれない。あたしたちより男を取ったんでしょって友だちは言って、ランチに誘ってくんない。あまいものを我慢してるのにちっともやせない。寒いから学校に行きたくない。眉はうまく書けない。ぜんぶストレスだ。「狭心症じゃないですか?」まくし立てたあたしに先生は言った。「狭心症は、煙草を吸っていて血圧が高くて糖尿病で太っているかたが多いんですよ」いっこも当てはまんないじゃん。「レントゲン撮ってください」あたしは大声を上げた。「ここに白い影があったら肺炎の可能性があるんですけどね」診察室に戻ってきたあたしに先生は口にした。レントゲンの写真に白い影はなかった。「うーん。ストレスでもあちこちが痛くなるんですよね。不定愁訴って言うんですけど。とりあえず様子見をしましょうか」こんなに痛いのに理由がわかんないってどういうことよ?「口の中を乾燥させないようになるべくしゃべらないこと、部屋を加湿してくださいね」厄介払いをされたってこと?あたし。なんなの、あのやぶ医者。ぶつぶつ言いながらクリニックをでた。原因不明の病気であたしはきっと死ぬのよ。みんな、いままでありがとう。
『あんた大げさなのよ。人なんて簡単に死なないのよ。いたい、いたいって思ってるから痛いの』もう死ぬかもとソファーで、ううううとうなっていたあたしにママはそう言った。『クリニックの帰りに、りんごの木でアップルパイでも買ってきなさいよ。食べたらすぐに忘れちゃうって』悔しいけど、さすが親だ。「3つください」支払いのため、レジでスマホを差し出した。『病は気からとも言うしさ』パパはなぐさめるように言った。『娘が死ぬかもしれないのに、ママはほんとに親なの?』あたしは胸を押さえながら、大声を上げた。
夕食のテーブルには、チーズハンバーグとエビフライとロールキャベツと中のタマゴがとろとろのオムレツが並んでいた。ママは料理があんまり上手じゃないけど、あたしのために作ってくれたらしい。 ごちそうとアップルパイを食べ終わったころには、痛みはすっかり無くなっていた。病は気からね。胸のなかもざらざらしないし、息も苦しくないし、せきも出ないし、頭も痛くなくなった。友だちとかのストレスもどうでも良くなった。
痛みなんて美味しいもの食べりゃ治っちゃうのね。え?あたしだけ?
✴️読んでいただいてありがとうございます。首から喉のあたりが苦しくてあちこちの病院まわりをして、様子見しましょうとあちこちの医師に言われて、やぶ医者めっと恨んでました。でも好きなもの食べてゴロゴロしてたら治ってました。まさに病は気からです。単純なのかな😰