変わり者
あの子、ほんとに変わってる。
「この子、食パンの白いとこからしか食べれないんだって」会社のロッカールームで同期の彼女がそう言った。「子供のころからなんですよ。母には行儀が悪いから直してっていつも言われてるんですけど、直らないんです」新入社員の彼女は軽くためいきを吐きながら言った。「カフェとかで耳のついたサンドイッチとかメニューにあるでしょう。そういう時はどうするの?」「うーん。なるべく選ばないようにしてるんですけど、そういうメニューしかない店をともだちが選んだときはむりやり頼むんです。もちろん耳から食べるんですけど、なんだかむずがゆくって」変わった人。変な癖を持っていてかわいそうね。まあでもなくて七癖っていうし。彼の前でもそうするのかしら。変な目で見られそう。でももちろんそんなこと言わない。「おつかれさまです」終わりそうもないおしゃべりに付つきあいたくない。手早くきがえ、あいさつだけしてその場を離れた。
今日の夕ご飯はサンマにしようかな。給料が入ったばかりだし。自宅アパートの近くのスーパーに入った。サンマと大根を買った。ごはんを作る前にシャワーを浴びよう。ドアを開けた。目の前にはシャンプーやコンディショナー、ボディーソープが置いてある。それらの入ったましかくのボトルが。その隣には、カッターでましかくに切った固形せっけんがある。手早く体を洗いバスルームを出た。サンマサンマっと。筑前煮も作ろうかな。冷蔵庫からレンコンとニンジンとゴボウ、コンニャクをとりだした。ニンジンやゴボウやコンニャクをましかくに切るのは簡単だけど、レンコンを四角くするのは難しい。グリルでサンマを焼きながら、大根おろしを作った。ぎゅっと絞り、ましかくに形どった。食器棚からましかくのお皿をとりだし、端に大根を置いた。
リビングに行き、クローゼットの引き出しから分度器と虫めがねをとりだした。再びキッチンに戻った。昨日四つ切ったリンゴの一つは最悪だった。よっつの角度うち、ひとつは92度だった。分度器を使ったのに。今日はもっと注意深く切ろう。リンゴに分度器を直接あてて、虫めがねを使いながら包丁で少しずつ切りすすめた。よし、完璧。満足、満足。サイコロ状のリンゴにはほれぼれする。みっつのリンゴが犠牲になったけど。柿も梨もスイカも、ハンバーグもその付け合せのニンジンもましかくにしないとムカムカする。そうしないと食べることができない。あ、サンマ。忘れてた。お皿に放置していたサンマから湯気はすっかり消えていた。
それにしても、あの子、ほんとに変わってる。あんな変なこだわりがあったら彼にふられるかもね。
✴️読んでいただいてありがとうございます。変なこだわりがあります。洗濯物をかけるハンガーをカゴに収納するとき、右からじょうぶなピンク色青、もう少しやわな青緑、それよりやわな黄色白緑・・と並べます。そうしないとイライラするので。おかしな子どもだと親からはしょっちゅう言われますけど、どうしてもやめれないのです。