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メイクの授業を

   学校には、どうしてメイクの時間がないんだろうって思う。

 今日の1限目は数学、2限目は、現代文、3限目は理科、4限目は体育。明日の1限目は日本史・・。明後日の1限目は漢文・・。どんなに探してもメイクの時間はない。国語を学ぶことで話す能力、聞く能力、書く能力、読む能力がつくだとか数学を学ぶことで論理的思考を身につけるなんて先生は言っていた。てことは学校は、あたしたちが世の中に出ていくときに武器を持たしてくれる場所ってことでしょう?だったらメイクの授業だって必要よ。数学なんかで身につけた知識が頭のなかという内側をまもる武器ならメイクは顔という外側をまもる武器。2つでワンセット。

   社会人になってから、いきなりメイクをしろなんていうのはヒドイと思う。先生も親も、メイクは社会人になってからでいいと言う。けど学校から放り出されて、はい社会人です。メイクして仕事しなさいなんて無慈悲。だってあたしたちはそんなこと教えてもらっていない。むしろ先生だって親だってメイクすんなって言ったじゃん。それなのに手の平を返して、はい、メイクはマナーですって。矛盾しすぎてる。

 同世代で自然なメイクをしてる人を見ると尊敬すらする。高校を卒業してすぐに就職した同級生と久しぶりに会った。ゴールデンウイーク初日。『ずるいよね』彼女はため息をつきながら言った。そのメイクは素人目にもうまいとは思えなかった。アイシャドウの色が色黒の彼女に似合ってなくて、チークの場所が耳ではなく鼻に近かった。『同期の子がね、女子高校を出てるのよ』『うん?』『先生も親もメイクをするなって言わないし、むしろすすめてくれてるの。クラスの中には中学生のころからメイクしてた子がいて、メイクの仕方を知らないって言うとみんな教えてくれるんだって。メイク道具を貸してくれたり、一緒に買いに行ってくれるって』こんどは大きなため息をついた。あたしも卒業をきっかけにメイクをはじめた。メイク雑誌を買った。見よう見まねでメイクをした。似合ってるかどうか分からない。アイシャドウの色だって、チークの色だって、リップの色だって、雑誌と同じ色のものを買った。なのにどうして似合わないの?

 メイク道具が悪いのかなとデパートに行くことを決めた。プチプラコスメでもそれなりのメイクはできるけど、デパコスを一度は使ってみたいし。ネットで値段を調べたら思ったよりも高かった。デパコスを買うのを目的に夏休みにはアルバイトをがんばった。45日の夏休みの間のうちの30日。海の家だとか、テレビ局なんかがやっている夏のイベント。とにかく時給のいいものを探した。そうやって苦労して手に入れたお金を持ってデパートにのりこんだ。『お客様はええと・・イエベですね。』カウンターの向かいに座ったお姉さんは、どこかのサイトを開きアイパッドを触りながら質問をいくつかした。『はあ・・』『イエベのかたは、アイシャドウはアップルグリーンやアクアブルーが似合いますね。マスカラはバーガンディで、チークはパンプキンオレンジがおすすめですよ。リップはコーラルレッドやブライトレッドが・・』どこの国の言葉?それともおまじない?誰かを呪ってんの?ちっともわかんないな。いわれるがまま、あたしはメイク道具を買った。お姉さんとの会話に出たものをぜんぶ。アルバイト代はほとんど飛んでいった。いいカモになったかもしれないなあ。つかいかたも丁寧に教えてくれた。まあいっか、もし売り上げのノルマというものがあるならばお姉さんは上司にほめられるし、あたしは欲しいものが手に入った。

 あたしが何年もメイクをし続けたってメイクが上手くなるとは思えない。だってメイクってイコールセンスだと思うから。あたしにはセンスがない。たくさんのものを見てきたけど審美眼は身に付かないし、流行に振り回される。ダメダメ人間だって自覚してる。

  ああ、メイクがじょうずになりたいなあ。今日もあたしはメイク雑誌を読みながら鏡を見る。メイクが嫌いってわけじゃない。自分が綺麗になっていくのはテンションがあがる。プラザなんかでメイク道具なんかを見てるのはたのしいし。でもめんどくさいなあと思うこともある。メイクが全部してあるパックかなんかないかなあ。それともお面とか。ぱっとつけてぱっと取れる。そしたらクレンジングだってしなくてすむ。メイクを落とさずに寝ちゃって、起きてカピカピの顔を鏡で見て自分を殴りたい衝動にかられなくてすむから。


❇️読んでいただいてありがとうございます。本当にそうです。メイクの授業を作ってください。就職してからいきなりはできません。メイク道具を選ぶ店を探すことからはじまり、メーカーを選ぶ、色を選ぶ。それを道具ごとに繰り返す。はー、めんどう。誰か、これでヨシ!と言って。そしたらそのまま買うからさ。