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ウシュアイア(アルゼンチン)からプンタアレーナス(チリ)まで国際バスに乗る

0.はじめに

 南米、パタゴニアの方を周遊する方にとっては、恐らくアルゼンチンとチリの両国間の移動で頭を悩ますことになるのではないかと思われる。勿論、ブエノスアイレスとサンティアゴの間とかであれば頻繁に航空便があるが、地方都市間の交通はそんなに充実していない。勿論、航空便も船も多少はあるだろうが、事実上はほぼバス一択になるように思われる。
 アルゼンチンもチリも当然ながら国内移動は国内線が割と飛んでいるので航空便を使ってしまえば良いのだが、南端部(それはアルゼンチン、チリ両国においても辺境となる)同士の移動で飛行機を使えるケースは驚くほど少ない。
 日本からだと航空券であればかなりの辺境でも日本語で何とか予約できるのだが、バスだとそうは行かない。また、国際バスとなると航空機とは流儀が異なるため、備忘録として記事を起こすことにした。

1.スケジュールの把握ととチケットの確保

 2024年10月に往訪した際は、パタゴニアの山々を歩く…と言うことまではしなかったものの、アルゼンチン南端の都市であるウシュアイアと、チリ南端の都市であるプンタアレーナス間の移動でやはり上記のようなジレンマに陥った。航空券は慣れたもので、いつもの Sky Scanner で探せば良い。あとは Trip.com とか、Expedia とかにリダイレクトされて、そこで購入手続を行えば完了するのだが、そもそもバスチケットはどこで買えば良いかわからない。いや、それ以前に希望する日、時間に便があるのかも判然としない。大体、そもそも日本から予約できるのか…。
 お約束で、ネットで情報を集めてみるのだが、日本語では何名かの旅行者の先輩がブログ等で旅行記を残されているくらいで、チケットの入手経路は判然としない。「現地で買った」というのはあったが、流石に現地に行ってみて「その日は走っていません」とか「満席です」とか言われてしまうと後のスケジュールが崩れてしまう。今回、航空券もホテルも出発前に帰国分まで全行程分を押さえることにしたので、この部分がクリアにならないとうかうか予約もできない。
 結論から言えば、英語でバス便の検索をかけたところ、「busbud」(busbud.com)というサイトがあり、ここでスケジュールも把握できるし、クレジットカードでチケットの購入もできた。
 ちなみに私が乗車した日はウシュアイア午前8時発、プンタアレーナス午後7時着。バス会社は Bus-Sur というチリの会社でチケット代は64.44米ドルだったから、概ね1万円弱というところか。預託荷物は1個27㎏まで無料(実際はあまり五月蠅いことを言わず、ウシュアイアのターミナルで係員がバシバシ積んでいたようだが…。)。
 11時間も乗車するのだから、日本の夜行バスと同等と考えれば、まぁ、安くはないが異常に高いと言うほどでもない(車中でパンとミネラルウォーターボトルの無料配布もあった)。なお、手元の予約確認メールの写しを見ると、72時間前までであれば予約変更は無料と書いてあるようだ。払戻は72時間前までであれば手数料15%を差し引かれた残額が戻ってくるようだ。

2.バスに乗車する

 バスに乗車するにあたって気になるのは、ウシュアイアの何処からバスが出発し、プンタアレーナスの何処にバスが到着するか…というところだが、これは予約確認メールのリンクをクリックするとGoogle マップに遷移して地図上で示されるので、予め、ホテル等からの交通手段に目処をつけられる。
 具体的には、ウシュアイアのバスターミナルはビーグル水道に面した観光地でもある「Fin del Mundo」と書かれたモニュメント(…というか、看板というか)からすぐのところにある。プンタアレーナスも市内の中心部に近い場所にバスターミナルがある。(どちらも「ターミナル」というほど大層な場所ではなく、ウシュアイアはロータリーという感じだし、プンタアレーナスはバスが2台くらい入るような小さな車庫のような風情の場所だ。)
 因みに、ウシュアイアもプンタアレーナスもそんなに大きな街ではなく、バスターミナルから徒歩圏内でそれなりに希望に添った宿は見つけられるだろうと思う。余談だが、プンタアレーナスはUberが使えるのでまだ市内交通は何とかなるが、ウシュアイアの宿が歩いて行かれない場所で且つタクシーが見つけられないと厳しいことになる気がする。(一応、両方とも市内バスは走っているが…。)
 何にせよ、チケットを確保したら、当日は早めに指定された乗車場所に行くのが良いだろう。長距離ということもあり、恐らく出発30分前には黄色い「Bus-Sur」と書かれたバスが待っているはずである。私が乗車したときは先着順で好きな席に座れたので、良い席を確保するなら先手必勝だと思う。これが幸いして、私は最前列の「かぶりつき席」を確保することができた。
 なお、預け荷物は日本の高速バスと同様、係員にチケットを示して荷室に入れてもらう。ただ、このバスはウシュアイアから他の停留所等での乗降扱いを行わず、そのままプンタアレーナスまで行くので、「何処で降りる」とかは言う必要がない。乗車している全員がプンタアレーナスまで行くのだ。なお、渡される引換証は無くさないように。

プンタアレーナス行きバス(ウシュアイアのバス乗り場にて)

 あと、為念で書いておくと、長旅なのでお菓子や軽食、ジュース等を車内に持ち込みたくなると思うが、チリの入国審査をスムーズに通過したいと思うならば、チリに入国(概ね午後1時頃だと思われる)するまでに食べきれる量に留めておくのが賢明だ。チリ入国後は乗務員からパンとミネラルウォーターが配布される(そんなに多くはないが、プンタアレーナス到着までだから我慢はできるだろう)。あと、同じくチリ入国後の渡し船の乗船場や船の中でもちょっとしたスナックの販売はある(但し、チリペソが必要なので、予めウシュアイアで両替しておく必要があるが)。
 乗車して良い席も確保できたとしよう。車内は長距離の移動に耐えられるよう、リクライニングする椅子と、フットレストもある。但し、大きなバスだが4列席なので一人旅の方は隣に誰かが座る可能性はある。また、車内にはトイレも設置されている。割合きれいだった。
 出発時間が来れば概ね正確にバスは出発する。私が乗車したときそうだったのは勿論だが、チリの人達(バス会社はチリの会社だ)は比較的おおらかな南米の中では真面目な人が多いようで、割と几帳面に時間は守るようだ。

3.乗車した後のもろもろ

 最初の1時間ほどは北欧かスイスか…という感じ(行ってもらえればわかるが、ウシュアイアも雪山と海に囲まれた北欧のような風情の街だ)の風景の中を走るが、山越えをしてフエゴ島の北側に入っていくと、今度は見渡す限り何もない荒涼とした草原の中を疾走する。途中(出発後3〜4時間くらい?)、この地域としては比較的大きな都市(ウシュアイアと同規模)であるリオグランデの市街や空港の前をかすめていくが、バスはここでは停車せず淡々と通過していく。

大西洋を望む

 リオグランデから1時間ほど走ると、バスは国境であるサンセバスチャンに到着する。先ずはアルゼンチン側のゲートに到着して、バスから降車して出国手続きを済ませる。ブエノスアイレスの空港でもそうだったが、アルゼンチンの出入国係官は鷹揚な印象で、手続きはすんなりと終わる。ついでにトイレを済ませて、喫煙者の方は(車中禁煙のため)煙草を吸ったりもできるだろう。なお、念のために書けば、両替、免税店は勿論、売店の類は一切ないので要注意。(これはチリ側も同じ。)

サンセバスチャンのアルゼンチン側ゲート

 出国手続きを終えたら再度バスに乗車して、10分か15分ほど(つまり、両検問所間は10キロ近く離れている)走ると、今度はチリ側のゲートに到着して、今度はチリ側での入国審査。
 まず、バスに乗る目的でこの記事を検索して来られた方は承知されているだろうが、チリには日本人でパスポートの残存時間が6か月以上あれば、90日間の短期滞在ではビザは不要となる。
 チリに入国するにあたって注意が必要なのは、入国審査そのものよりも非常に厳格と言われる動植物検疫。審査の列に並んだら、まず、無料のWifiがあるので、手元のスマホをネットに接続し、その後、あちこちに掲げてある検疫自己申告用のQRコードを読み取り、専用のサイトにパスポート番号等所要の情報を入力し、動植物及びこれらに由来する食品の持参の有無について予め申告して、入国審査の際にスマホの画面に表示されるQRコードを示す必要がある。これがないと入国させてもらえない。
 通常、「動植物及びこれらに由来する食品を持っているか?」と聞かれて、「持っている」と答えれば、「では、こちらで詳しく事情を聞かせろ」という話になるのは自明なので、この時点では「食品」は基本的に何も持っていない、というのが理想だ。勿論、何か食べ物飲み物(勿論純粋な水はOKだろうが)を持参していれば、正直に申告して検疫検査を受けよう。(虚偽申告は罰金を喰らう羽目になるとのこと。)

サンセバスチャンのチリ側ゲート

 無事に入国できれば、そのままトイレくらいは済ませてバスに乗る。心配しなくても周囲には本当に何もない。道路が一本走っているだけだ。
 …で、また、何もないだだっ広い草原の中を1〜2時間走ると、バスはトラックや乗用車が列をなすところに停車し、ドアが開く。マゼラン海峡をフェリーで渡る船着き場がある、バイアアジュールだ。ここにはトイレもあるし、売店でお菓子やカップ麺と飲み物くらいは買えたと思うので、必要があれば購入すると良い(但し、手元にチリペソがあれば…の話だが。交渉すれば米ドルは使えるかもしれない)。

バイアアジュールの船着き場でフェリーの到着を待つ

 通常、着いてすぐフェリーに乗船することはできないので、次の船まで1時間近く待つことになる(さはさりとて対岸まで数キロなので、そんなに長く待たなくても船には乗れる)。天気が良ければ、目の前にマゼラン海峡が見られる場所なので、海でも眺めながらのんびりしていれば良い。
 乗船すると、バスの中に居ても良いが、デッキに上がることもできる。デッキの一角にはやはり売店があって、コーヒーとか軽食が買える(諄いがアルゼンチンペソは使えない)。20分か30分ほどだったと思うので、短い船旅を楽しむのが良いと思う。風が強い土地柄なので、外に出ていると寒いかもしれないが。
 対岸が近づいてきたら、当然対岸に到着する前にバスに戻って、自席に座る。他の車も船から降ろす必要があるので、バスはアナタがいなくてもフェリーから降りてしまう。運転士が気付かなければ、バスはそのまま走り始めるので、アナタは有無を言わさず船着き場に取り残されることになる。注意されたい。

マゼラン海峡を渡るフェリー(ちなみに中国製)。

 無事にマゼラン海峡を渡ったら、あとはプンタアレーナスまで車内でのんびりしていれば良い。配布されたパンも食べておいた方が良かろう。船着き場からプンタアレーナスまでまだ3時間くらいは走ったはずだ。やがて、プンタアレーナスの空港を過ぎて、段々、物流施設などが点在するようになり、人家が増えてきたらプンタアレーナスのバスターミナルは近い。
 バスターミナルに着いたら、係員に引換証を渡して荷物を受け取って宿に向かえば良い。(ターミナルから遠い宿を取ってしまった方はUberを推奨する。)
 ここで、チリペソを持っていない人はバスターミナルのすぐ近くに両替所がある(アルゼンチンペソも取り扱う)のだが、私が往訪したときは18時で終了だった。チリもアルゼンチンもクレジットカードが普及しているので、カードがあれば夕食が食べられない…ということはないはずだが、認証でトラブることも考えられるので、できればアルゼンチン出国前にチリペソを入手しておくか、せめて米ドルは持っておいた方が良かろうと思う。
 プンタアレーナスはそれなりに人口がある都市なので、お洒落なレストランもいくつかあって、美味しい食事とワイン、それにビール好きなら地ビールのアウストラルなどにもありつけるだろう。

アウストラル(生)

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