俳句とエッセーと諫早風景㉚『 海山村Ⅱ - 銀の鈴 - しかたなか 』 津 田 緋 沙 子
銀 の 鈴
ハ ン ガ ー の 数 だ け 小 鉢 新 年 講
幼 虫 の 眠 る 鉢 よ り 福 寿 草
お 水 取 り 背 負 寵 に む す ぶ 銀 の 鈴
涅 槃 会 の 猫 に 目 の ゆ く ひ と 日 か な
涅 槃 会 の 読 経 野 川 の ほ と り ま で
聖 五 月 田 へ 奔 り く る 山 の 水
草 原 は 子 ど も ら の も の 聖 五 月
し か た な か
お稽古が終わって外に出ると冬晴れだった。澄みきった青空を
見上げたとたん皆揃って口に出た。「あ、鶴だ」 締一麗なV字飛行
を見せている数十羽の群れからクオークオーと鳴き声も聞こえてくる。
諌早市森山町、 ここは出水平野の鶴の渡りの休息地だったが、
ある年何羽かがとどまって越冬するようになって以来十数年、今
では五、 六+羽近くいるのではと聞く。諌早干拓の堤防そばの湿
地が格好の餌場らしい。 ひそかに人気のスポットだ。
御慶に会ったような気分で鶴の行方を追っていると農家の一人
が言った。 「もう大変とよ。麦の種蒔けば全部掘って食べるし芽
の出れば齧るし」もう一人も言う。「うちのお父さん、 石投げるっ
て言って、 だめだめ捕まるってみんなに止められよる」
そうなのだ。私も気づいていた。田に立っている黒いゴミ袋を
括った竹が日々増えてきていること、その竹の姿に何か寒々しい
ものがあることに。
でも農業婦人たちは明るく言う 。 「どこにも文句言えんし鶴も
頑張っとるとやけん、しかたなかね」
しかたなかと思わねばならないことが多すぎる。 (了)
下記に、これまで公開した津田緋沙子さんの俳句とエッセーをまとめましたので、ご一読いただければと思います。
諫早出身の日本浪漫派の詩人・伊東静雄の青春の苦悩を綴りました。ご一読いただければと思います。
よろしければ、諫早湾を舞台にした小説をお読みください。