俳句とエッセー②『 海 山 村 Ⅱ - 地主顔』 津田緋沙子
地 主 顔
日 雷 押 し 黙 り ゐ る 峡 の 里
つ か の 間 を 泉 に 眠 る 杣 の 犬
泉 へと つ づ く 野 道 と け も の 道
山 羊 五 頭 地 主 顔 し て 夏 野 ゆ く
消 し ゴ ム の つ く る 友 情 夏 季 講 習
青 嵐 心 に 鍵 の か か る 音
退 院 の 朝 の そ ら 豆 ス ー プ か な
雷
諫早は雷の多い所である。地理的条件によるのだろうが、年中
ごろごろ鳴っている気がする。おまけに長崎市に住んでいた時よ
り格段に音が大きく、稲光りも強く感じる。ものぐさな私でもプ
ラグを引き抜かずにはいられない時がたびたびである。
昨夏、隣町の森山図書館が落雷で火事になった。木をふんだん
に使い、広々とした自慢の図書館は消防や地元の人の奮闘で短時
間に消火できたものの五万冊もの本が煤や水を被った。現在、 一
部開館しつつボランティアも参加して本の清掃中である。秋の全
面開館をめざし、 工事中の建物には避雷ハネルなるものが取り付
けられるとか。自然の恵みと災害は裏表、人間の知恵に期待する
ばかりである。
「雷の多い時は豊作」 「稲妻は実りの証」とは昔から言い伝え
られていることらしく、今でも農家のおじいさんのロから聞いた
りする。それならいいな、我慢せねばとも思うが、 いざ迅雷とな
ると、雷は稲の妻…などとロ マンに浸ってはいられなくなる。
さて今年はどうだろうか。日雷はお断り、落雷なしで多めに、
と虫の良いことを考えたくなる。
下記をクリックすれば『海山村Ⅱー風の道③』に続きます。
よろしければお読み下さい。