〜書き残したあの風景〜【天北線声問駅】
【写真集 P.402〜403 天北線声問駅】
『声問駅回想“近くて遠くなりしもの”』
2008年12月、天北線廃止20周年を記念する写真展を稚内にて開催した。
写真展会期中、娘を連れたひとりの若い女性が私に話しかけてきた。
「ここに写ってるの、うちの婆ちゃんなんです」
左手にスーパーの買い物袋を持ち、声問駅長に話しかける老婆の名前は、石原ミヨさん。残念ながら、この年の1月に亡くなったのだという。さらに偶然が重なっていた。ミヨさんの息子さん(若い女性のお父さん)は、かつて声問駅保線区に勤務していた鉄道マンなのだという。その後、石原さんから写真を譲ってほしいというお手紙をいただき、写真は今、石原さん宅の茶の間に飾られている。
「ほんとにいい婆ちゃんでした。でも、日常の婆ちゃんを写した写真って、ほとんど無くて。だから、この写真が我が家に届いてから、いつも婆ちゃんが近くで見守ってくれているような気がしています。」
わずか20数年前の写真でありながら、遥か手の届かない情景のように思えてしまうありふれた日常の一枚。
石原のお婆ちゃんの微笑みは何故これほどまでに遠く、
懐かしく感じられるのだろう……。
《2011年執筆》
〈声問駅 駅舎〉
-- 或る冬の一日 --
工藤裕之