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きざしの、ための十四行並に反歌

開かれている
湖のそばの自瀆に
じめじめした明日の傷口に
先取りされ 遅れた病床に
閉じられている
ピンク色をした頬の裏側に
川岸をゆく聲と聲の合間に
海岸と和音の歯並びに
角を曲がったあそこらへんに
遠いこだまが棲まっている
開かれている
もうすぐ降ってくるはずのなま暖かい雨に
古びた水草の葉叢のかげに
よじれたアンテナと汗ばんだ手綱に
 
あらかじめにほひ移らむ梅が香のしらせはおよそ君の眉根に

*薄井灌『干/潟へ』(思潮社)をパラパラと読んでいたら、「転記された擦過傷の傷裏を剥がし」というフレーズに出合い、何かがにじんでくるようだった。6年前に書いた詩の欠片のようなもの。

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