学生時代のヨーロッパ旅行(その四、イングランド)
今回は、このTiptree International Farm Campでイチゴ摘みを2ヶ月やって感じた、諸々のことを書きます。
若年外国人労働者
この様なワーキングキャンプは、慈善事業としてやっているわけではなく、経済合理性を持った計画的なものとしてやっています。今の日本と同じ様に、農業に従事する人口が減り、老齢化が進んでいるので、労働力が足りない。それで外国から若い労働者を呼んで働いてもらう。それが基本的な考え方です。
イギリスでは、正式な労働ビザを発給して、この様な若年労働者を世界中から呼び込んでいるということです。
一方ヨーロッパ各国の若者は、様々な理由でこのファームキャンプに参加していました。年齢は20代前後。流石に高校生はいなかった様なので、大学生の年齢層ですね。僕はこの時20歳でしたのでちょうど同じ様な年齢でした。
フランス、ドイツなどの若者は、ここに仕事に来ると言うよりはバカンスに来ている、或いは社会勉強に来ていると言う様子でした。パブに飲みに行ったり、週末は遊びに行ったりしていました。ポーランドやユーゴスラビアの若者は、出稼ぎで来ているので、余計なお金は使わずに大人しく過ごしていましたね。
僕は宵越しの銭は持たないという体で、稼いだお金はその週のうちにパブで使ってしまうという生活でした。
この様な労働を自らイギリスで経験していたので、日本で外国人労働者を入れるのに抵抗が強いとか、正式な労働ビザではなく学生ビザや研修制度を使って働かせているという現実にはとても違和感を感じています。
何も恐れることはない。ヨーロッパでは既に何10年も前から、この様な労働者の国際的な交流が進んでおり、制度化もされている。与えるべき労働許可はきちんと与えるのが、正しいあり方だろうと感じています。
王室御用達のジャムメーカー
このTiptreeのジャムというのは、この当時イギリス王室御用達と謳っていました。HPには、1757年設立とありますので、実に260年もの歴史を持っている古い農場なんですね。このキャンプのオーナー家族にも会ったことがあります。Wilkinson さん一家はこの様な伝統ある古い農場とジャム工場を経営しており、その商品はイギリス王室のお墨付きをもらっているわけです。
今考えると、この農場の奥さんがユーゴスラビア人というのは単なる偶然ではなく、この様な労働集約的な仕事にイギリスの若者はつきたがらないのかもしれません。ましてや、お嫁さんとなってその家に入るなどとはなかなか考えないのでしょう。それでその様な仕事や環境に耐えられる様な女性を選ぶと、国外のお嫁さんということになったのかもしれません。
このTiptreeのジャムは、日本でも売っている場所がありました。最近の様子は分かりませんが、関東圏では成城石井のスーパーにTiptreeの商品群があったことを覚えています。一つ800円から1500円もする高級品なので滅多に買いませんでしたが、懐かしくてたまに買っていました。
買う時は、日本ではあまり見ないラズベリーとか蜂蜜を加えたものなどを選んでいました。
イギリスの長閑な田園風景
初めて来た外国がこのイギリスの農村というのは、とても長閑で平和な生活でした。周りに何もない、逆にそういう場所だから、イギリスの若者は来ないのでしょうね。遊びに行くところがない。仮に日本でこの様な農村で2ヶ月働けと言われれば、僕でもそれは応募しないでしょうね。プラスαの何かがないと行かないでしょう。
イギリスは高い山がなく、スコットランドで1300m、イングランドでは1000m弱しかありません。Tiptreeの辺りでは、見渡す限り平地でした。日本の様な田園風景ではないので、何が栽培されているのはよく分かりませんでしたが、このInternational Farm Campで摘んだ様な様々なベリー類が植えられているのかもしれません。見渡す限りの緑の農地でした。
アジア人はイギリスでは珍しい
ここはイギリスの農場なので、働きに来るのがヨーロッパの若者達になるのは当然のことです。僕がこの農場にいた2ヶ月の間に、日本人は僕を含めて3人、香港人が3人、アジア人は延べで6人しかいませんでした。
この状態では、アジア人はとても珍しい存在で、とてもたくさんの人に関心を持たれ、話しかけられ友達になりました。このことは、自分の人生にとって画期的なことでした。僕は小学校から大学まで、とても内向的で友達も少なく、ましてや高校時代は男子校、大学は建築学科という女子学生の比率が5%という状態でしたので、女性と付き合うこともなくとてもおとなしい学生生活を送っていました。
それが、全く同じ人間なのに、このInternational Farm Campでは、多くのヨーロッパ人に注目されることになったのです。その理由はというと、アジアから来た日本人であること、卓球をやること、そしてピアノを弾くことでした。日本でもやっていることは同じです。同じことを同じ様にやっても、やる環境が異なると受け取られ方が違う。
これは、自分の人生にとって画期的な出来事だった様に思います。
「置かれた場所で咲きなさい」という本があります。自分のある状況を受け入れる。現実が変わらないなら、自分の考え方を変えてみる。その様に教える本ですが、僕ががこのInternational Farm Campで感じたことは全く逆ですね。「咲かないなら、自分の居場所を変えてみよう」です。そうすると、まるきり違った風景が見えて、異なった人生を歩むことができるかもしれません。
キャンプの生活を終えて、ヨーロッパ旅行へ
このTiiptreeでの生活は、延べで2ヶ月になりました。僕のこのヨーロッパ旅行での目的は、このキャンプで英語を使った暮らしを体験してみることと、ヨーロッパの街と建築を実際に見て歩くことでした。フライトは4ヶ月後にアテネからとしています。そして、ユーレイルユースパスの2ヶ月分のものを日本で購入していました。
それで残りの期間の予定を、概略次の様に計画を立てました。
イギリスを北上、北アイルランドに入る。
アイルランドに移り、そこから船でフランスに移動。ここからユーレイルユースパスを使用。
ユーレイルユースパスで、フランス→フィンランド→スェーデン→デンマーク→ドイツ→フランス→スペイン→スイス→オーストリア→イタリアと移動。
イタリアからアテネへは普通の列車とバスを使って移動。途中ユーゴスラビアとトルコを経由します。
4ヶ月のこの旅行は、Tiptreeで知り合った友達を訪ねて回りました。ですので、週末はできるだけ友人宅で、その他はユースホステル泊を主にするという計画です。
これは、今考えても、とても贅沢な貧乏旅行ですね。次回からはこの旅行の様子を記憶を辿りながら紹介します。