緑膿菌における呼吸機能の多様化による生存戦略

第57回緑膿菌感染症研究会 シンポジウム 「緑膿菌の生存戦略とその制御」にて同タイトルで発表しました (2023.2.17)。
講演要旨は以下の通りです。


緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)は酸素を水に還元する好気呼吸の末端酸化酵素として、cbb3型シトクロムc酸化酵素、caa3型シトクロムc酸化酵素、bo3型キノール酸化酵素およびCyanide Insensitive Oxidase (CIO)を持っており、これらを生育環境によって使い分けている。また、酸素の代わりに硝酸を電子受容体とする嫌気呼吸(脱窒)によって酸素が存在しない条件でも生育することができる。このような呼吸機能の多様性が緑膿菌の様々な環境で生育できる環境遍在性や、感染病巣での生存力の高さの要因の一つと考えられている。
緑膿菌の好気呼吸では酸素濃度によらずcbb3型シトクロムc酸化酵素を主要な末端酸化酵素として用い、他の酵素は生育条件により特異的に発現して補助的に働くという特徴がある。cbb3型酵素は細菌特有の酵素で、酸素に対する親和性が高く、他の細菌では通常は低酸素条件特異的に発現して機能する酵素であるが、緑膿菌ではcbb3型酵素を常時発現して細胞周辺の酸素を除去することで活性酸素等によるストレスへの耐性を獲得していると考えられる。緑膿菌のゲノムにはcbb3型酵素のサブユニットが複数コードされており、イソサブユニットの組み合わせにより、性質の異なる16種類のアイソフォームを生産する能力がある。これらは主要活性サブユニットの種類によりN1~N4型に分類される。N1型とN2型はそれぞれ高酸素と低酸素条件での主要な酵素として働き、N3型は亜硝酸イオン、N4型はシアン化物イオンによって誘導発現する。最近の研究ではN4型酵素が緑膿菌の病原性に関わっていることが報告されている。本発表では、各好気呼吸酵素の酵素学的特徴と生理学的役割、および、N4型cbb3に関連した緑膿菌のシアン耐性化機構について紹介する。



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