スベスベマンジュウガニの別名は「酔ひガニ」(蟹知識)

「Heyボブ、どうしたんだい?浮かない顔して…」
「やぁリチャード。昨晩の話なんだけどさ」
「ほうほう」
「ワイフと一戦交えた後、いつものクセでベッドサイドに100ドル置いちまったのさ」
「OH! なんてこったい、それじゃ君のワイフはカンカンだろう」
「問題はそこじゃないんだ、リチャード」
「WHY? どうしてだい?」
「ワイフは、その100ドルを受け取った後、手馴れた仕草で俺に20ドル返したのさ」
どうも。
ベタベタなアメリカンジョークも、らっく楽にこなせるキタナカです。
「らく、ちん、ポン!」

二〇二〇年二月(現在)。
今は。
俺自身も辞めて久しい「R18業界時代の先輩」で、今でも交流があるハリーさんから、文章作成の依頼を受けました。
※ちなみに。ハリーさんは敬愛している先輩なので誤解を与えそうですが、年齢は俺よか全っ然若いです
「私が関わっている『赤鬼ちゃん』が明後日、イベントで五分程度のパフォーマンスをしなければならない。その台本を描いて欲しい」とのこと。
前提や要望としての前情報。

・「赤鬼ちゃん」さんは哲学好きで数学好きな女性で、カルチャー界でエッジな人たちとの対談を収録している。youtubeでも、動画公開してる。別名義でコントCDとかも作ってる、精力的に活動をしている女性
・イベント内容は、「異形の者」コスプレをした人たちが集(つど)って、パフォーマンスを披露しあう集い(今でも、会場の雰囲気が今イチ想像できない。客席までみんな異形なのか、異形の方々はゲスト枠なのか? とか)
・「やあやあ我こそは――」みたいな時代劇風の口上
・「赤鬼ちゃん」さんがお世話になっている、高円寺にある収録スタジオの宣伝もさせてあげたい

これだけ。
ハリーさんはイラストやデザイン畑の人なので、依頼がいい加減なのです。
過去の記事でも書いたように、突然「キタナカ。ゲーム作らない?」って聞いてくる人ですからね。
ゲームは好きだけど、プレイするのと作るのは全然別の話ってのが分かっているんでしょうか?
結局、完成させましたけどね。

しかも〆切期限が「実質一日」というのは、時代考証や参考時代劇を視聴する時間すらない。無理だ。
俺は、正直に答えました。
「時代劇は知りません、『水戸黄門』や『仕事人』シリーズとかでギリギリ知ってるかな? というレベル。それと『やあやあ我こそは――』って、日本史に詳しくないですけど戦国時代とかじゃないですか? どちらかと言えば江戸時代は『手前、神奈川県は横浜の生まれ。キタナカ家の嫡男ヒロユと申す者! いざ尋常に勝負ッ!』みたいな感じじゃないですかね? それでも、江戸時代の口調は知らないので台本は書けません。実質一日で私が書ける時代がかった台本は、『落語』口調くらいのものです。それに、キャッチーな『寅さん』の売り口上と歌舞伎要素をプラスするくらいならできます。それでいいなら書きます」と、一気に捲し立てました。
そして。
深夜に連絡を寄越しておいて、依頼内容を告げるや「眠いから寝る」と言い残して寝てしまいました。
うん、依頼されたのかどうかすらサッパリ分からん。
で。
俺の方が眠れなくなってしまいまして、翌朝に連絡がきたら詳細を聞こう、と決めました。
布団の中で、旗本退屈男の『天下御免の向こう傷』は、『天下御免の向こう見ず』にしたら良いんじゃないかな? とか考えながら。
『大岡越前』『遠山の金さん』『人形佐七捕物帳』などは、朝になってWiki先生で読んだ。時間が圧倒的に足りない。

そして、朝。
明日が〆切なはずなのに、連絡が来ない。
正直なところ困ってしまって、取り敢えずyoutubeで検索してみました。
「赤鬼ちゃん」さんの、活動内容を知るためです。
CM動画ばかりで、対談っぽい映像は見当たりません……。
チャンネルを作ってるなら、絶対「赤鬼ちゃんねる」だよな? と思い、youtube内で更に検索をかける。
それでも対談っぽい映像は、上の方には出てこない。
グーグル様に願いを込めて「赤鬼ちゃんねる」でググったら、映像のサムネイルは出てきませんでしたが、「赤鬼ちゃんの哲学地獄」という単語で「哲学? コレだ!」と思って、視聴。
まあ、一目で分かりましたよ。だって、対談のホストが「全身真っ赤で角が生えてる」んだもの。
凄く、小柄な女性だった。
なんか、「地獄から、ちょくちょく高円寺に遊びに来ている鬼」という設定らしい。
でも。対談を聞いても、どこが「哲学」なのかは今イチ掴み切れない。
後に聞いた話だと、「赤鬼ちゃん」としての活動はフェイスブックメインでyoutubeは映像発信用のツールとして使っているらしい。
俺は、SNS恐怖症なのでフェイスブックはやっていないし、システムも知らんのです。
LINEも怖けりゃ、饅頭も怖いって寸法です。
フェイスブックなら、確実な情報が得られるんだろうけど、拒否。
まぁ。
哲学はどうとして、「赤鬼ちゃん」の基本スタンスは分かった。
午後になって、いい加減不安になってきたので十五分くらいで差し障りのない落語口調の台本を作る。
「今は、これが精一杯」という表題を付けて、ハリーさんにメールした。

表題:
「今は、これが精一杯」
本文:
お集りの、おあ姉(ねえ)さま、お兄(あに)いさま。
いやぁ、まったく世の中は広いってなもんで。
ざーっと見回してみましても、地獄で見知った顔もない。
まことに本日、お招きに預かり恐悦至極の支離滅裂。
こんだけのモノノケの類をお集めになったってーんだから、主催者さんは顔が広い!
見上げたもんだよ屋根屋のふんどし、たい(田へ)したもんだよ蛙のションベン、イキな姉ちゃん立ち小便ときたもんだ。

おっと、そろそろ自己紹介をしねえとだ。
手前、生まれも育ちも阿鼻地獄。
大焦熱で産湯を使い。
すくすく育って、この身の丈だ。
憎むは易し、認めるは難(かた)しってなもんで、今じゃあ気にしちゃござんせん。
身体がいくら小さくたって、わっちの心根まで小さいと思われちゃあ適わねえ。
あ!(大見得を切って)
人呼んで、「赤鬼ちゃん」と発します。

縁あって人間世界に参りまして、高円寺は(収録スタジオ名)でお世話になってる身ででござんす。
人間世界は懐(ふところ)深くて、ワッチのようなご面相でも電車に乗ってもお咎めなし。
まったくもって、便利な世の中になったもんだ。
お集りの皆々様もどうか、わっちの話を聞いておくんなまし。

(以下、伝えたいメッセージを落語口調で話す)

まったくもって。
長くはなりやしたが、又こんな集まりがあるってぇんなら、お誘いいただきたい次第。
わっちも普段は、中央線は高円寺に出没しておりますゆえ。
連絡し、遊びに来てくれりゃコレ幸い。
これにて、ワッチ。こと赤鬼ちゃんの、ご挨拶とさせていただきやす。
御免!(タン! と足を踏み鳴らしながら)

――以上。
送ったは良いが、返信がない。
日常の作業に戻る。
夕方に連絡がきて「うん、いいと思ったから本人に送っといた。私が適当にアレンジしておいたから」とのこと。
「全ダメ出し」だったら、修羅場るとこだったよ。
ハリーさんは、「報・連・相(ホウレンソウ)」が曖昧だからなあ。
付き合いも長いから、別に気にならないけどね。
散々「キタナカは天才だよ。自信を持て!」って目の前で紐で吊るした五円玉を揺らしながら言われ続けて、「オレ、テン……サ……イ?」ってなって。
「メロンパン買ってこい!」って言われて、買いに行かされるような間柄だからね。
慣れもする。
あれ?
ちょっと待て? ひょっとして俺、騙されてない?(ロボットダンス)

というか、時代劇はどうした! 落語はダメって言ってたのに……。
まあ時間もないから「赤鬼ちゃん」さんも、妥協してくれたんだろうな?
そう考えると、心が痛い。

――実際のところ。現在の私は、こうやって生きているのです。

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喜多仲ひろゆ
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