
新曲レポート「雪の降る里にて」「自立の大地」
2025/2/2に投稿した「雪の降る里にて」、および2025/2/13に投稿した「自立の大地」の制作レポートです。
曲制作の概要
昨年末からカバーおよびリメイク作品のリリースを続けていますが、この2曲もカバーとリメイク作品です。
「雪の降る里にて」は2017年の2ndアルバムに収録したポップバラード。「自立の大地」は昨年夏の12thアルバムに収録したシンフォニックメタル作品。今年に入ってから開催された2つのイベントのためにEP化、および音楽サブスク配信のために制作したものです。
歌唱を担当する合成音声キャラクターは、「雪の降る里にて」がついなちゃん、「自立の大地」がCi flowerと双葉湊音です。ついなちゃんがSynthesizerVエンジン、Ci flowerと双葉湊音がVoiSonaエンジンベースの合成歌唱シンガーとなります。


民話・伝承的な存在による異種婚を描いた「雪の降る里にて」
作品の概要
室町時代には既に伝承が存在したと言われる雪女伝説や、さらに古くの時代から伝わる鶴女房の伝説など、日本各地には異種の女性が自分と関わった村人の元へ嫁ぎ共に生活する伝説が伝えらています。
その物語は「見るなのタブー」に彩られた悲しい婚姻譚でもあります。こうした作品に触れた際に、ふと「女性達は何を感じながら、人間との結婚生活を送っていたのだろうか」と思ったのがこの曲を作ったきっかけです。
曲のMVイラストは自作。雪国の景色に想いを馳せ、また和風ファンタジー感を強調するようにモノクロ主体に描いています。
ロックアレンジによるリメイク
ついなちゃんオンリー即売会となる「ついなちゃんドゥルル祭」のために、この和ファンタジー溢れる曲をシングル化することにしました。
元曲はポップミュージックのアレンジであり、僕がまだキャリアが浅い時期の作品でした。リメイクに際し、ロックアレンジを施しています。リメイクの方針は、次のようにしています。
バンド楽器隊のアレンジ見直し
キーの変更
一部歌い回しの修正やブレイクの延長
元曲はそれほどインパクトが強くない静かな曲でした。それを最近の僕の作品のイメージと繋がるよう、ダイナミックなドラムと、16分音符主体のグルーヴを備えたベースラインになるようアレンジを修正。また、ギターはロック系のリフ中心の演奏に変えてあります。また、元曲にはなかった、リズムボックによる間奏部分のドラムパターンを追加しています。
キーは、ついなちゃんの息混じりの歌声を考えて、原曲より全音下げています。これにより全パート録り直しとなったのですが、サウンドにより重厚感が出たのではないかと思っています。バックを流れるストリングスが楽器の音域の都合により原曲よりオクターブを上げる部分が出てきたりしたのですが、それにより少し華や感が増したのが思わぬ収穫です。
また、歌い回しもだいぶ修正しました。発表から長い時を経て改めて聴いてみると、気になる部分も多くなりますよね。
大サビ前のブレイクも従来より長く溜めるようにしています。
MVはついなちゃん誕生祭の期間に合わせて各動画サイトへ投稿しましたが、同日の2月2日にサブスクでの配信も開始しています。
楽園追放と自立の過程を描いた「自立の大地」
作品の概要
元々は、とあるシリーズものを作ろうとして制作した曲です。その第一弾の曲だったのですが、当時の自分の実力を超えるスケールだったため、この1作で終わってしまった思い出があります。
旧約聖書「創世記」に描かれたアダムとイブの楽園追放劇。「人類最初の罰」と言われ、「労働」と「出産」という苦しみが課せられた2人。神の恩恵に守られた人生から、初めて自分たちの意志と力で生きていくことを学んでいく2人を描いた作品です。
MVイラストはこちらも自作(一部写真合成)。原曲イラストでの太田PoN太さんによる衣装デザインを借用し、原曲では手を取る2人だったのを、共に働く2人の姿に置き換えています。
意志の力を歌い上げる調声
サウンド側はアルバム「24時」に収録した際のミックスをベースに、より聴きやすいようにミックスし直しています。ドラムパートはアレンジに不満があったため、「24時」収録バージョンから一部アレンジを変更しています。
そしてボーカルの2人。原曲はアダム役をv_flower、イヴ役を紲星あかりが担当していました。アダム役をCi flowerに置き換えることは当初から決めていたのですが、イヴ役の選抜に随分悩みました。
同じVoiSonaライブラリから選んだ方が良さそうだったので、全シンガーのデモ曲に耳を通し双葉湊音で落ち着きました。双葉湊音は女性らしい歌声ですが、Ci flowerに負けないハリとガッツのある声で、意志の力を感じさせる歌唱になったように思えます。
また、この曲にはセリフパートがあります。調声に当たって、原曲のv flowerと紲星あかりの演技をメロダインで分析し、タイミングやピッチや節回しをVoiSonaエディタ上で近づけるという手順を踏んでいます。

ただ、v flowerとCi flowerでは基準となる地声の高さが異なるようで、v flowerよりもかなり低いピッチでの再現を行なっています。「同じように音程をなぞればいい」という訳ではなく、耳で聴いて納得いく調声を行う点がポイントですね。
この「耳で聴いて納得いく調声」というやり方は歌の調声も一緒です。Ci flowerでの「v flowerの再現」は目指していませんし、まして「人のように歌う」ことも目指していません。気にしていないと言えば嘘になりますが、あくまでも歌うシンガーの声が一番良く聴こえる歌い方を探すのが僕の調声の第一方針です。
MVは、2月後半のボカコレの時期に被らないよう2/13に投稿を行なっています。また同日、サブスク配信も開始しています。
投稿後の反応
実は僕の作品の中でも特にリスナーさんの反応が良いのが、「雪の降る里にて」のようなバラード曲だったりします。滅多に作らないのですが、その分新鮮味があるのでしょうか。ゆっくりな(BPMは80です)曲こそ表現力を問われるので、その辺がどう受け取られるかが気になっていました。
ついなちゃんのファンの方々を初め、反応は決して悪くなかったのが幸いでした。普段のような激しい作品とは異なり、古さを感じさせる曲調がとっつきやすさを感じさせたのかもしれません。
対する「自立の大地」は、僕の曲の中でもかなり激しく壮大なサウンドです(当時の自分の手に余るくらいのスケール感だったので、当然です)。メタルメタルしたサウンドが、今年のボカロメタル投稿祭の開催も近いこの時期に、メタル好きな人たちに好印象を持ってもらえた点が良かったと感じた点です。
なんだかんだ言って、エモい叫びでも、文字数の多い熱の入った感想でも、何かしらの反応をもらえるのは嬉しいことです。ニコニコの画面を流れる反応は見ていて楽しいですし、YouTubeには時々海外リスナーのコメントもあります。告知ツイートには丁寧な感想を書いてくれる方もいます。それらが活動を続けるモチベーションになっています。

11月末の「Arrival 〜 解り合ういうこと」以降、自作のリメイク&セルフカバーが続いてきましたが、来月上旬のサブスクリリースで完結となります。再び書き下ろし曲の準備に入っていますので、3月以降の活動も温かく見守っていただけると嬉しいです。
執筆者プロフィール
メタル&ロック系ボカロ曲制作者。人の内なる成長や希望を、メタルやロックをベースとした音楽で表現することを目指しています。
2013年活動開始、みるくかふぇ名義で約80曲を発表している。