ノベル版「Parallel World」- [第2章] 歌うたいに憧れて
原作: みるくかふぇ、設定協力: ひぃ熊、キャラクターデザイン＆イラスト: 水野色
曲名「歌うたいに憧れて」、作詞: ひぃ熊、作曲: みるくかふぇ、ボーカロイドアレンジメント: 甲楽わん
■ストーリー
めぐみは歌を歌うのが大好きな女の子。ただ、ちょっと自信のないところがあって人前で歌うことができない。なんだってそう、自分の意見も自分の気持ちも押し出すことができない。
「私って本当にダメね」
今日の失敗を振り返りながらめぐみはそうつぶやく。窓からは暮れなずむ空が見え、少し曇りがかっている。明日は雨かもしれない。
「そうだ、今日もKAKOさんは歌っているはず」
KAKOはめぐみのクラスメイト。音楽が大好きで、放課後は駅前の路上でギターを抱え、自作の曲を歌うのを日課にしている。
めぐみはKAKOとあまり話をしたことがない。めぐみにとってKAKOは眩しく憧れの対象だが、めぐみの性格ではKAKOに話しかけることができない。「話しかけることができても、いったい何を話せばいいの？」となってしまう。
「私も歌うのが好きなんです！」
そんな風に言えたらいいなと思う。だが、人前で歌う自信もない自分にKAKOと対等に話す自信なんてない。そう思いながら駅前まで歩いていくと、道路越しに駅前の植え込みの前に座り込んでギターを弾きながら歌うKAKOの姿が見えた。
夕方前の駅前を通る人々は何かに追われるようにせわしなく、まっすぐな声で歌うKAKOはどこかマイペースで周りの景色からは多少浮いているように見える。時々子供が興味を惹かれてKAKOを指さすが、母親らしき人はそんな子供を引っ張ってその場を立ち去る。何人かの人は立ち止まり遠巻きにKAKOの歌を聴いている。
KAKOは怯まない、自分の想いをひたむきな言葉で伸びやかに歌い上げる。KAKOは真っ直ぐな子、自分の夢のためにこの場所を選び、自分の足で一歩一歩を踏み出している。その声は陽ざしが弱くなり始めた空へと響き渡っていた。
「あれは……」
ふとKAKOが顔を上げると、道路の向こう側にいるめぐみの姿が目に入った。KAKOは微笑みかけようとするが、KAKOと目が合っためぐみは慌てて立ち去ってしまう。KAKOは視線を目の前のギャラリーに戻し、歌を歌い続ける。
決して早くはない足で全力で家に戻っためぐみ。自分の部屋で膝を抱え先ほど見たKAKOの姿を思い出す。
「私もあんな風に歌えるかな」
「やっぱり歌えないな」
めぐみはつぶやきを繰り返す、めぐみはいつもそう。胸の中では自身の想いを乗せた自分が歌っている。だが、それがめぐみの行動として現れることはない。いつも頭の中で想像をするだけ。自分を出せないのだ。
「私、何しているんだろう？」
憧れの歌うたいはクラスメイト。同じように授業を受け、友達と接し、そんな風に過ごしてきた毎日はそれほど変わらないはず。それなのにKAKOさんは夢へと踏み出し、多くの人の前で自分の歌いたい歌を歌っている。嬉しいことももどかしい悩みだって、KAKOさんは歌に変え、まっすぐにその想いを伝えているのだ。
「いつか、私も歌っているかな？」
私は胸に閉じ込めている想いが多すぎる。もしも歌にして真っ直ぐに空に向かって吐き出せば、その想いは解き放たれるかもしれない。
KAKOさんはその歌で私や多くの人を惹きつけている。私もあんな風に歌い、想いを伝え、色んな人と繋がりたい。そんな夢は自分には手の届かないものなのかしら。せめてKAKOさんに手が届くことができたら……。
そう思いながら、私は窓の外を眺めた。
日の落ちた空は、もう間もなく雨が降り出しそうに黒い雲が覆い始めていた。
■キャラクター紹介
※この作品はみるくかふぇが制作した音楽アルバム「Parallel World」の原作ストーリーです。アルバム「Parallel World」はSound Cloudでの無償公開（ストリーミング視聴のみ）のほか、各社サブスクリプションサービスでの配信、BOOTHでのダウンロード販売/CD通販を行っています。
Parallel Worldアルバム情報: https://note.com/hiroys_milkcafe/n/na13b39e4b322
※この作品は二次創作です。作中に登場する人物「GUMI」は株式会社インターネットが販売する製品「メグッポイド」の愛称ですが、販売元は当作品とは無関係です。また「メグッポイド」の商標・キャラクター等は販売元に権利があります。
ノベル版「Parallel World」目次
https://note.com/hiroys_milkcafe/m/m09bbd902a64d