新曲レポート「ユメハテ」
7/1に投稿祭イベント「VocaDuo2024」の参加曲として公開された新曲、「ユメハテ」の制作レポートです。
現在、ニコニコ動画がサイバー攻撃からの復旧のために長期メンテナンスを行なっていることもあり、7/1時点ではYouTubeのみの投稿となりました。曲は歌い手のらりーさんのYouTubeチャンネルで公開されています。
VocaDuo参加
久しぶりの共作となりました。
VocaDuoは、企画公式サイトで「『歌い手・ボカロP・絵師・動画師・MIX師 等』でチームを組み曲を完成させる投稿祭です!」と紹介されています。2021年から始まり、今年で4回目の開催となる投稿イベントです。
普段、MV用のヴィジュアルを絵師さんに描いてもらう以外は、1人で制作しています。1人で制作するのは効率的ですが、発展性も低く抑えられてしまいます。「凝り固まった自分の現状を打破するために必要なことは何か?」という問いも自分の中にありました。そうした背景もあり、「『人と組んで何かを作ること・人に歌ってもらうこと』にきちんと向き合ってみよう」と思ったのが参加のきっかけです。
参加&メンバー募集を始めて、じきに歌い手さん・絵師さん数名からオファーがありました。最終的に、歌い手のらりー/Larrieさん、絵師のおぺらさん、の3人でチーム「サボテンで顔を洗う」として参加することになりました。
らりーさんは、自称「音割れ系歌い手」さんです。声量と張り上げるような歌い方、ソウルフルな表現など、パワフルで癖のあるボーカルを聴かせてくれます。AngraやGalneryusが好きなメタラーだそうです。
どなたにお願いするかを考えていた際に、オファーのあった方達の過去の投稿作品を見て回りました。らりーさんはミドルテンポのロックでのソウルフルな歌唱が魅力的に映りました。実際にお願いしようと思った決め手は、その声のエモさでした。
絵師のおぺらさんは、明るさと暗さ・表情の描写が印象的に感じました。実際に打ち合わせの席でイラスト要望に対するラフをパパッと描き上げてくれたのですが、構図撮りや表情の表現力に驚かされました。
曲制作の概要
打ち合わせで出てきたサウンドと歌詞に対するリクエスト。サウンドの要望は「疾走」。歌詞のテーマは「ノイズになるような体験から自己防疫を張るが、何かのきっかけで元居た道へと帰ってくる」といったものでした。
サウンド面はまず叩き台を作らないと意見を求めるのも難しいかなと思い、年が明けてからコツコツと作っていました。
なかなか想定通りに進まなかったのですが、春になる頃にようやく曲の骨格が固まって聴いてもらい、そこから制作スピードが上がっていった感じです。
歌詞はこのテーマに沿って3人でわちゃわちゃとアイデアを貯めていきました。タイトルも最近のJ-POP曲やボカロ曲から今どきの傾向を話し合いながら随分と頭を捻り、最終的に「ユメハテ」に落ち着きました。
役割分担は、作詞・作曲・動画制作をみるくかふぇ、歌がらりーさん、イラストおよび動画の絵コンテ制作がおぺらさんという担当でした。
当初MIXにはらりーさんが手を上げてくれていたのですが「ボーカルに合わせてオケのミックスを調整したい」という理由をつけて僕に譲ってもらいました。むろん、生歌のミックスに関して僕は経験値が少ないため、ボーカルを乗せた後にフィードバックを受けてミックスの修正を行っています。
課題としていたこと
歌ものの主役はボーカルです。その声のための曲を書くことを、自身の至上命題にしています。
らりーさんの歌ってみた作品を何度も聴いて、ボーカルの得意不得意を想像しながらのメロディ作りでした。制作で一番時間をかけたのは、この「ボーカリストの歌い方の把握とそれに合うメロディ作り」の点ですね。この時点では合成音声キャラのYumaの歌唱でメロディを書いていました。
1回目のメロディアップの際に「サビ入り時の転調はもっと大胆に。もっと高音域へ寄せてください」というリクエストがあり、当初の予定よりサビ転調後のキーを上げています。これにより、サビでの声の張り上げが随分と印象に残るようになりました。
また、Bメロの終わりからサビ入りがあっさりしていたので、サビ頭のメロディのフックを増やしています。疾走系の曲はメロディが緩やかになりがちなのですが、僕らしい緊張感の高いメロディを書けたと思っています。
正直、メロディはもっと注文が付くかなと予想していたのですが、「これで歌える」とのことだったので、胸を撫で下ろしています。
曲冒頭の弦楽は、らりーさんのリクエストです。全体的に曲時間を短めにしたかったのですが、様式美的な美しさも必要だと感じたため採用しています。
歌詞はメロディの完成後にまとめました。
こちらもリクエストの解釈が結構大変だったのですが、もともと「自己防疫」という医学的な言葉がリクエストにあったこともあり、その辺を少し考慮しつつ歌詞を作ったりしています。
痛みを抱えた前半と、それでも求めて止まない夢の果てを描けるよう、頭の中のストーリーを言葉に落としていきました。ただ、あまり具体的過ぎても共感を得にくそうだったので、ぼかした表現を心がけています。
今回の学び
予想はしていましたが、人の歌声の柔軟さにただ圧倒されるばかりでした。
合成音声は結果も予想しやすく作りやすいのですが、予想以上のものを作るのは難しいと認識しています。多くのボカロPが人の歌う曲を提供している流れの中で、「自分はこのままでいいのだろうか?」と疑問が浮かんだのも事実ですね。
もう一点は、人と作る楽しさです。
最後に曲作りの共作をしたのが2019年だったので、実に5年ぶりです。自分1人で作ることにより生まれるマンネリも、人の視点で見直すとこんなに違った景色に映るのだなと感じたのは収穫だと思います。今回は世代も随分と離れた2人との共作でしたし、得られた視点はとても豊かでした。
考えてみると、昔は製作中に人からフィードバックを貰うようなことも頻繁にやっていたなと。それと比べると今は全て自分1人の判断なので、(たとえ1人での制作を続けるとしても)意識的にメタ視点や他人視点で、自分の作品を見る努力が必要なのだと感じています。
あと、後日v_flower歌唱版を公開しようとしているのですが、v_flowerの音域や得意な歌い方とは違うので結構調声が難しい……。そちらは出来上がりをお楽しみに。
執筆者プロフィール
メタル&ロック系ボカロ曲制作者。人の内なる成長や希望を、メタルやロックをベースとした音楽で表現することを目指しています。
2013年活動開始、年10回前後の合成音声系即売会へ参加、11枚のアルバムをリリース。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?