エネルギー技術革新における民間資本の動機と役割:日本のベンチャー投資家インタビューに基づく洞察

2024年8月に開催されたエネルギー・資源学会の「第43回エネルギー・資源学会研究発表会」にて学術発表させて頂きました。一部抜粋・改変した内容を、学術普及目的で紹介させて頂きます。
(発表者)岩田紘宜、杉山昌広、田中謙司、周文佳

第43回エネルギー・資源学会研究発表会

1.背景

 パリ協定で規定された温暖化対策2度目標達成に必須となるエネルギー技術イノベーションには、技術ライフサイクルにおける資金ギャップを支えるスタートアップ(新興企業)投資家の協力が必須である。

 長らくエネルギー技術はその市場・開発プロセス・政策的背景から、十分な民間資本を集めることが困難であることがわかってきた。政府は政策手段によって、エネルギー新興企業投資のリスク・リターンのプロファイルを修正し、直接あるいは間接的に民間部門の資金動員を誘導できる。しかし、この協力を得る方法は、明確な解答が見出されていなかった。

 これまでの学術議論では、エネルギー技術革新を促進する政策手段には、テクノロジープッシュ(技術プッシュ)型政策とマーケットプル(市場/需要プル)型政策がある。エネルギー政策や環境経済学の研究者コミュニティではこれら両方のアプローチが重要とのコンセンサスがある。

  • 技術プッシュ型政策:基礎研究開発に資金を提供することによって新技術の供給を増やす。具体的には研究開発補助金、税額控除、機関への直接的資金提供などが含まれる。

  • 市場プル政策:新技術の需要を増やし、公共調達や市場設計などの介入を通じて経済的インセンティブを与えることに重点を置く。再生可能エネルギー電力の固定価格買取制度(FIT)や再生可能エネルギー割当制度(RPS)などが該当する。

 しかし、政策的背景がエネルギー新興企業投資の動員に影響を与えるメカニズムを体系的に分析した研究は限定的であった。我々は日本のエネルギー新興企業投資市場の形成プロセスと投資家の政策に対する認識・期待を包括的に捉え、その行動原理の多面的解明を目指した。

2. エネルギー新興企業投資家のインタビュー

 2023年12月から2024年4月にかけて日本で活動するエネルギーや気候テックの新興企業投資を行うVC13名、CVC3名、GVC3名、エンジェル投資家2名の計21回のインタビューを実施した。

 本研究ではエネルギー新興企業投資における資本動員の主要な要件を捉えることを目的とし、得られた知見は各国のエネルギー市場設計や緩和技術のイノベーション振興策を分析した。エネルギー新興企業投資を動機づける4つの重要な市場条件および政策プロファイルは以下のようにに整理されることがわかった。

  • 政策の予見性

  • エネルギー市場参入条件の整備

  • 新興企業支援体制の充実

  • インカンベントな大企業との連携促進

 これらの政策プロファイルから、公的部門がエネルギー技術革新のために新興企業を支援し、重要な資金を呼び込むために重要な要件を想定できる。政府や官公庁、支援機関はこれらのプロファイルの評価により自国市場の新興企業支援の準備状況を把握し課題を特定できるだろう。また、本研究にも地理的・時間的範囲、手法の限界、代表性の欠如といった限界があるが、これらの課題を踏まえつつ、さらなる分野の発展を目指したい。

3. まとめ

 投資家は、単一の事業や政策に偏らず多様な選択肢を比較検討しリスクとリターンのバランスを取ることができる立場にあるため、政策を評価する上では投資家の視点は重要な示唆を与える。技術開発のライフサイクルにおける新興企業の段階では、エネルギー政策とイノベーション政策の双方が対象とする範疇である。現在の日本社会が第一に目指すカーボンニュートラル達成のためには、民間資本を中心とした新興企業投資を動員する必要がある。

 そのためにはエネルギー政策をイノベーション政策に統合した観点を提案し、資源配分を議論すべきである。政府はニッチの市場創造や新興企業エコシステムの整備に貢献できることから、より効果的かつ広範囲な政策ミックスを検討するための一助となることが期待される。

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