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【学会発表】日本の気候テック投資家ネットワークの発展:形成過程の時系列分析と政府系投資家の役割

2025年1月に開催されたエネルギー・資源学会の第41回エネルギーシステム・経済・環境コンファレンスにて発表させて頂きました。一部抜粋・改変した内容を、学術普及目的で紹介させて頂きます。

(発表者)岩田紘宜、久保光太郎、山野泰子、杉山昌広、田中謙司

気候変動対策を推進する技術やソリューションを提供するスタートアップ、いわゆる気候テック企業への投資は、イノベーションの加速に不可欠な要素である。本研究では、2008年から2022年にかけての日本における気候テック投資家ネットワークの構造を分析し、本分析には、複雑ネットワーク科学の手法を適用し、シンジケーション関係によって形成される投資家ネットワークの効率性と時系列変化を定量的に評価した。

日本の気候テック投資家ネットワークは、以下の段階を経て発展してきた。

投資家ネットワークの時系列変化
  1. 形成期(2008-2012年)
    少数の投資家による密接なネットワークが構築された。この時期の投資規模は小さかったが、2010年以降には継続的な投資活動が増加し、基盤となるネットワークの整備が進んだ。

  2. 拡大・多様化期(2013-2017年)
    多様な新規投資家が参入し、ネットワークは急拡大した。これにより、情報や資源の流れが効率化され、投資の多様性も向上した。

  3. 成熟・安定化期(2018-2022年)
    日本政府によるGX政策の強化やコロナ後の投資ブームを受け、新規参入と継続投資のバランスが取れた安定的な成長を遂げた。

多様な投資家の中で、特に政府系ベンチャーキャピタル(GVC)は独立系VCに次ぐ重要な機能を果たしていた。その背景には、以下の2つの要因が考えられる。

投資家ネットワークの構造的特性
  1. GVCの資金力と継続的な投資関与によるリスクアロケーション
    GVCはリスクマネーの供給を通じて、民間投資家の参入を促進し、ネットワークの成長を支えた。

  2. GVCの投資がシグナリング効果を発揮し、他の投資家の意思決定を促進
    GVCの関与自体が投資先スタートアップや当該分野の信頼性を高め、他の投資家のリスク選好に影響を与えた。

本研究の知見から、日本の気候イノベーションのさらなる促進に向けた市場整備のために、官民連携の重要性を示している。今後の政策設計や投資実務において、これらの施策が役に立つことが期待される。

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