官民連携で加速する核融合技術開発:気候技術イノベーション研究の成果
1. 気候変動対策と技術革新
急激に進行する気候変動は、私たちの地球に重大な影響を及ぼしつつある。2022年の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書[1]は、人間活動が地球温暖化を引き起こしたことに疑う余地はないとする。人類の責務として気候変動の影響を早急に緩和すべく経済を脱炭素化するためには、エネルギー、製造業、建設・不動産、農業・食料、林業・水産業など幅広い分野でさらなるイノベーション(技術革新)が必要である。
気候変動対策に関連する重要な学術分野は、持続可能性移行(サステナビリティ・トランジション)研究[2]、統合評価モデルとシナリオ分析、エネルギー技術革新[3]、エコ・イノベーション、気候・環境政策研究、環境経済学、クライメートファイナンス(気候金融)など多岐にわたる。
2. 核融合を議論する意義
既存のエネルギー技術革新や気候シナリオ研究コミュニティでは、核融合を十分に検討できていない。その理由として、核融合は技術ライフサイクルの若い段階にあるため社会実装時期やコスト・導入量の予測が難しいことが挙げられる。しかし、もし重要な緩和技術を正しく理解し、実現に十分な支援・資源動員を集められなければ、気候変動に対処する人類の選択肢は限られる。
核融合を緩和技術の分析対象として興味深い理由は3点ある。第一に、核融合は緩和に直結するクリーンなエネルギー生成技術である。エネルギーはコストと導入ポテンシャルの観点で最も影響の大きい産業である。第二に、核融合は商業化までの若い段階の技術である。近年、民間企業の参入増加により実現に向けた議論が進むが、一方で商業的実現性に関する課題や不確実性もある。第三に、長年の開発の経緯から、統計や報告書、民間のレポートが十分に存在する。
3. 今後の研究の方向性
核融合は科学的発見から1世紀ほど経過し、実現までにはまだ時間が必要だが、多額の資金が流入し、支援を受け続けている。このように核融合が支援を集めてきた要素には、技術転用と産業振興の可能性、エネルギー安全保障と環境対策、革新的な技術ポテンシャルへの知的渇望があるだろう。
政策立案者は国家の責務となった気候変動の緩和に向けて、技術開発の助成、国際協力、政策立案など、さまざまなアクターや制度が与える影響を理解し、技術革新の停滞を防ぐ方策を考えるべきだ。核融合が継続的に公的部門・民間部門から投資を集めた要素を振り返り、重要な緩和技術の支援策の設計における参考にすることは社会の有益に繋がるだろう。
引用文献
1. IPCC, 2022: Summary for Policymakers. In: Climate Change 2022: Mitigation of Climate Change. Contribution of Working Group III to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change. Cambridge University Press, Cambridge, UK and New York, NY, USA. doi: 10.1017/9781009157926.001
2. Markard, J., Raven, R., & Truffer, B. (2012). Sustainability transitions: An emerging field of research and its prospects. Research policy, 41(6), 955-967.
3. Grubler, A., & Wilson, C. (Eds.). (2013). Patterns and Linkages in the Energy Technology Innovation System. In Energy Technology Innovation: Learning from Historical Successes and Failures (pp. 37–102). part, Cambridge: Cambridge University Press.
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