明治安田生命第29節 清水エスパルス vs ジュビロ磐田 レビュー~理想は日常の先に
5-1で清水エスパルスの快勝でした。2トップとサイドハーフを中心に、勢いよく相手ゴールに迫っていく攻撃。そして11人での組織的な守備。守備での弱みを少し見せて失点してしまったところも含めて、まさに今のエスパルスの日常のサッカーでした。
その日常の清水エスパルスが、ジュビロ磐田に快勝できた要因はどこにあったのでしょうか。お互いの戦術面に注目して探ってみます。
それでは2018年ホームでの静岡ダービーを振り返ります。
1. 攻から守の切り替えで起きるジュビロ磐田の守備の穴
開始1分、ドウグラス選手が中盤で奪ったボールを北川選手が決めてエスパルスが先制。
この先制点にジュビロが抱えていた問題点が表れています。攻撃から守備に切り替わった時(小難しい言葉で言うとネガティブトランジション)に守備に穴が発生しているのです。
ジュビロはボールを保持している時、右のDF高橋選手を高い位置に上げる動きを見せていました。右シャドウの中村俊輔選手が自由に動いてゲームメイクするため、受け手としてそれをフォローするためだと思われます。しかしこの動きが穴になります。
下はドウグラス選手がボールを奪った時の配置。
本来、最終ラインの右側を守っているはずの高橋選手が前に出ているため、ディフェンスラインの右側に大きなスペースができています。先制点はドウグラス選手が奪い、このスペースを北川選手が突いたものでした。
ジュビロはこの場面に限らず、流動的にポジションを動かして攻撃を仕掛けてきました。しかしその攻撃の特徴を出すほどにボールを奪われた時にできる守備の穴が大きくなります。
ジュビロはチームとしてネガティブトランジションが起きた時にどう守るかの設計が上手くできていないようです。局面の修正や個々の対応では塞ぎきれず、試合終了まで終始この穴を露呈していました。
2. ジュビロのパスの出どころを遮断するエスパルスの守備
試合開始しばらくは川又選手への長いボールが多いジュビロでした。エスパルスはポストの川又選手へと同時に、中村選手にも強いマークを付けていました。川又ー中村ラインを寸断して中村選手にゲームメイクさせないためでしょう。そこから得ていたファールからのフリーキックは脅威でしたが、六反選手を中心に集中して守り切ります。
さらにジュビロのボランチからの配球を防ぎます。ミドルゾーンでのコンパクトな守備ブロックを構えた上に2トップの1人は少し下がり目にポジション。これで中央のエリアを固めます(先制点もドウグラス選手が下がり上原選手から奪ってからのものでした)。
ボールの前進を阻まれると中村選手が徐々に低い位置まで下がってボールを受けようとしてきます。しかし守備ブロックの外からのパスはコンパクトな守備で回収。中村選手とフィニッシャーの川又、大久保選手との距離も遠くなり決定的なパスは通りません。
逆にボールを奪われた時に、配置が崩れた上に中村選手が低い位置で守備をしなければならず、守備の強度が下がるという現象が起きていました。
3. 4-2-2-2システムで押し込むエスパルス
次にエスパルスの攻撃とジュビロの守備です。
ドウグラス選手、北川選手に加えて石毛、金子選手の両サイドハーフを前に出して3トップ+1人のような形になるエスパルスの攻撃。両サイドを前に出すので攻撃時は4-2-2-2システムとも言えます。
単純に考えて3バックに対して4人での攻撃だと1人フリーになります。これにジュビロは上手く対応できずにいました。
特にサイドから内側に入ってくる金子選手、石毛選手が捕まえづらい。そこでジュビロはウィングバックのエレン選手、桜内選手がサイドハーフをマークするようになります。
両サイドハーフのポジションに合わせてウィングバックが内側に絞ると、サイドのスペースが空きます。するとエスパルスはサイドバックを上げてサイド攻撃。
ジュビロはサイドを上がってくるエスパルスのサイドバックに対応するため、
大久保選手、中村選手を下げます。こうなるとジュビロは川又選手以外は全員自陣の低い位置に押し込まれて前線の守備ができなくなってしまいます。
ジュビロは奪ってもカウンターのターゲットが1人だけ。カウンターの恐怖がないので、エスパルスは後ろでじっくり保持して前に人数をかけて攻め込みます。
押し込むとジュビロのボールに寄ってくる守備を利用して、がら空きの中央や逆サイドへのサイドチェンジ。
30分過ぎからはエスパルスが完全にジュビロを押し込みます。ジュビロにほぼ反撃を許さずエスパルスペースのまま前半は終了しました。
4. ジュビロ磐田の攻勢、エスパルスのいつもの課題
名波監督は、攻撃の時に後ろにスペースを空けてしまう、エスパルスの攻撃で前線の選手が押し下げられてしまうという問題点はわかっていたはずです。後半は修正を施してきました。大久保選手に代わり荒木選手を、上原選手に代わり山本選手を投入します。
荒木選手でエスパルスの弱点を攻めて、攻撃している時は山本選手が後ろのスペースを埋めるようにポジションさせます。特に荒木選手の投入は適切な采配だったと思います。
というのも、エスパルスの守備には、明らかな弱点が2つあって、これまでの試合でも崩される時はほぼそこを突かれています。
1つは2トップとボランチの間(2トップ裏)。ここは前述した通り、北川選手かドウグラス選手が1人下がることで埋めて対応。こちらは前半はとりあえず問題なしでした(ただし終盤のなると疲労の影響でいつも甘くなりがち)。
もう1つが金子選手の裏。基本金子選手はポジションが前目で、プレスも前でかけたい傾向があります。その金子選手と周囲の白崎選手、立田選手が上手く連動できずに発生する守備の穴です。
前半ここが問題になっていなかったのは、大久保選手がゴール前に入っていき、このスペースで受けるジュビロの選手がいなかったからです。左の攻撃はエレンの単発になりエスパルスとしては非常に守りやすい状態でした。
後半に入った荒木選手は金子選手、白崎選手、立田選手の間(今流行りの言葉だとハーフスペース)でボールを受けます。ここで受けられると、エスパルス守備陣は荒木選手にプレスするか、大外のエレン選手にプレスに行くか迷いが生じて守備がぼやけてきます。
白く囲った荒木選手のポジションがハーフスペース。荒木選手がハーフスペースにポジションすることでエスパルスの守備はエレン選手に行くか荒木選手に行くかの2択を迫られます。この状況を作られてキープ、ドリブルで守備を剥がしてくる選手にエスパルスの守備は弱いという傾向があります。
荒木選手のハーフスペース攻撃によってジュビロは後半早々から攻勢を強めました。
51分には田口選手に決められて失点。守備者はいるのに相手をフリーにしてしまういつもよく見る失点です。田口選手のシュートの直前には白崎選手がマークについていました。近くにいた荒木選手が気になってマークを離してしまったのかもしれません。ゴール前なので周囲の選手含めてしっかりマークを確認するべきだったと思います。
5. この試合を象徴する4点目
攻勢を強めていたジュビロは、選手を全体的に前に上げるため守備も積極的になっていました。前からチェックをいれるようになり、前半問題になっていた内側に入ってくるエスパルスのサイドハーフのマークはウィングバックを下げずにボランチの選手に監視させていました。
しかし、ネガティブトランジション時の配置が崩れているという根本的な部分は変わりません。仕組みとしては同じ形でエスパルスに4点目を奪われます。
72分のエスパルスの4点目の直前。ディフェンダーの高橋選手が前に上がっていたので山本選手がディフェンスラインに、田口選手が1人で中盤を守っている配置になっていました。
ジュビロのボールをフレイレ選手が奪って前に運んだボールをドウグラス選手が左に流れて受けます。ここに田口選手が寄せにいくと中盤中央が無人に。ボールサイドに寄せた時に、中央や逆サイドのカバーがないというのも終始見えたジュビロの守備の傾向でした。
ここでサイドの石毛選手が中に入って行くのはエスパルスの攻撃のお約束事。にもかかわらず、近くにいた中村選手のカバーは完全に後追い。石毛選手が中央で受けた時は完全にフリー。
石毛選手はパスを受けると北川選手に綺麗なスルーパス。北川選手が決めて4-1とリードを広げます。
6. 試合を締めるための前線の交代
4点目が決まると試合は決した感がありました。あとは試合を締めるだけ。これまでヨンソン監督はボランチの選手を入れて4-1-4-1にしたり、ディフェンスの選手を入れて3バックにしたりとシステムを変えて後ろを固めるという策を取ってきました。
しかしこの試合の采配では、北川→クリスラン、石毛→村田、最後に金子→水谷と攻撃の選手から交代を行っていきます。前節FC東京戦もそうでしたが、システムは変えず安定を保ったまま前線の守備(ファーストディフェンス)の強度を高める采配です。
ファーストディフェンスで弱点の2トップ裏やハーフスペースを塞ぎ、奪ったらシンプルにカウンター。
この采配はずばり決まってアディショナルタイムに村田選手のゴラッソを生み出します。結果、5-1としてエスパルスが完勝を飾りました。
7.まとめ
ジュビロ磐田は、やりたいサッカーと実際にやれるサッカーの間にギャップがあるように見えました。前からの守備と人数をかけた攻撃的なサッカー。しかしそれをやるほどに問題点が大きくなってしまっているようです。
継続的に見ているわけではないのではっきりとは言えませんが、コンパクトな守備を固めてカウンターやセットプレーのでの得点を狙った方が穴は目立たないような気がします。それをやるための選手を故障で欠いているのも最近の不調の原因なのかもしれません。
一方、エスパルスは目指しているサッカーとやっているサッカーが一致しています。まだ理想のサッカーができているとは言えませんが、少なくとも理想のサッカーは今歩んでいる道の先にあります。この勝利はそれを確信させてくれました。サポーターも含め、チームを1つにしてくれた大きな意味のある静岡ダービーでの勝利でした。
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