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敷地境界に擁壁がある物件について。

収益物件購入において擁壁物件は避けましょうということが一般的に言われていますが果たして本当にそうでしょうか?

現況をしっかりと確認し所有後のリスクが許容範囲となれば、購入することは何ら問題は無いと思います。なぜなら擁壁がある物件は総じて相場よりも物件価格が安く値付けされているのと、仮に通常相場で売りに出ていても指値が通る可能性が高いからです。

まず問題になるのは所有権です。こちらのものなのか相手側のものなのか?これは明確にしておくべきです。

概ね、段差の上側が所有しているケースが多いのですが、まれに共有というケースもあるので要注意です。これは売主に直接確認するのが一番早いです。

しかし、擁壁の年数が経っている場合は所有権について曖昧になっているケースも多々あるのでその場合は境界杭の位置を確認してみましょう。

擁壁の境界杭の外側にあれば隣地の所有物という主張ができますし、また境界杭が擁壁の中にある場合は共有という判断になってしまいます。

<擁壁が境界杭の外側にある>  
<擁壁の中に境界杭がある>

所有権がこちらに無い場合、老朽化で崩壊した場合の再建築費は一切負担する必要はありません。仮に崩壊してこちらの建物に損害が発生した場合は損害賠償請求が可能ですし、経年劣化による崩壊でなく、自然災害による原因であれば火災保険の対応も可能です。

よって所有権がこちらに無い場合は、ある程度リスクが軽減できます。では所有権が共有もしくはこちらにある場合はどうなるのか?

これは全く逆で老朽化や崩壊時のリスクが増します。結論としては購入見送りという判断になるのですが、ただし、現状の擁壁の状況によっても異なります。

まず、擁壁は一般的に①「石積み擁壁」②「間知ブロック擁壁」③「鉄筋コンクリート擁壁」の3種類があります。

①→③になるにつれて強度や耐久性が高くなりますし工事費も高くなります。

<石積み擁壁>
<間知ブロック擁壁>
<鉄筋コンクリート擁壁>

また、2m以上の擁壁は基本的には確認申請が必要となります。確認申請が提出され、完了検査がされていれば建築基準法を満たした擁壁ということになり安全性が高いと判断できます。

逆に、確認申請が提出されていなければ、擁壁自体は存在しているけれども中身はブラックボックスということになってしまいます。

確認済証、検査済証の確認は、その物件の市区町村の役所(建築指導課等)に行き、該当の地番を伝えれば「台帳記載事項証明書」を発行してくれます。

経験上③の場合で、ここ20年ぐらいに建てられたものであれば完了検査されているケースは多いです。そもそも完了検査が一般化されたのはここ最近のことなのでそれ以降の場合は無い方が多いでしょう。

ということで、③鉄筋コンクリート擁壁で、確認済証、検査済証があれば安全性が高く、リスクも低いと言えます。相場よりもかなり割安で購入できるのであれば買いという判断もありえます。

では①や②のような擁壁の場合は全く可能性が無いのか?
というと、実はそうでもありません。

これもあくまでも擁壁の状態によります。このあたりについてどう判断すれば良いのか?

①、②のような擁壁であっても状態が良ければ崩壊のリスクが軽減されます。ではその状態は、どのように判断すれば良いのか?

まず一番大事な評価軸として水分があります。擁壁の奥にある土に水が多く含まれている場合、地盤が緩くなっていることは容易に想像できると思います。緩ければその力が擁壁にかかって崩壊につながるわけですね。
それを避けるためにできる限り擁壁の奥の土は排水状態が良くなければなりません。

あなたもこのような排水溝を見たことがあるかと思います。

<擁壁の排水溝>


これがあると擁壁奥の土の水分が流れます。まずは最低限3㎡に一箇所75ミリ以上の排水溝があるかどうか確認してみて下さい。

そしてその排水状況が良好かどうかのチェックも必要です。ゴミが溜まっていたり、土が溜まっていたりした場合は水の流れが悪いはずなので要注意です。

その他、石やブロックの表面が剥落していたり、目地部分に隙間があるなどの欠損が目立つ場合は危険な状態と判断してもいいでしょう。

その他クラックの状況も崩壊リスクに繋がります。擁壁の隙間に植物が勢いよく生えている場合も要注意と判断します。自分で判断がつかない場合は建築士や施工管理技士などの専門家に同行してもらうのが賢明でしょう。

また上記過程を経て仮に安全性が高いと判断できたとしても、リスクがあることには変りはないのでその辺りは資産性や利回りとのバランスをみての判断になります。

そして最後に事が起こった場合の対処はどうすれば良いのか?という点ですね。まず考えられるのが火災保険と地震保険での対応です。

これは原因によって異なるため、わかりやすいようにそれぞれのケースで説明していきます。

まずは原因が風災害(主に台風など)で擁壁が崩壊した場合はどうなるのか?
これは火災保険の対象となりますので、修繕費については保険金の範囲内で補償されます。

続いて原因が、地震の場合ですね。これは意外と知らない方も多いのですが、擁壁自体は地震保険の対象になりません。地震保険はあくまでも建物の構造体について判定がされますので建物ではない擁壁は該当しないのです。では地震で崩壊した場合は自費で工事をしないといけないのか?

基本的にはそうなのですが地震で擁壁が崩壊するような大きな地震の場合は建物自体にも損傷があるはずです。先程いったよう建物構造体に損傷が発見されれば地震保険の対象になる可能性があります。その費用の一部もしくは全部を擁壁に回すということができます。

構造体の修理はしなくてもいいの?という疑問もあるかと思いますが地震保険は修繕費というよりかお見舞金的なものとお考え下さい。(建物が崩壊するほどの被害があった場合は別として)

簡単にいってしまうとクラックが◯◯数あれば保険金額の◯%の保険金が下りるといった判定基準のため、実際の修繕費用をベースとした算出方法ではないんですね。よって保険金については何に使おうがそれは契約者の自由なところがあります。

そして最後に老朽化により崩壊してしまった場合です。これが一番リスクがあります
火災保険は経年劣化は対象となりませんので火災対象にはなりません。さらに二次被害として隣家に損害を与えてしまった場合は損害賠償請求される可能性が高いです。さらに建物だけでなく人に被害を与えてしまう場合もあります。

とてもそんなリスクは負えませんので、その対策としては擁壁を新しく作り直すのが一般的ですがそれなりの費用となりますので、現実的には補強工事で費用を抑えるという選択肢になります。また火災保険特約(施設賠償責任保険)で被害を与えてしまった場合のリスクをカバーするという方法もあります。

ということで、擁壁物件については色々と議論はあるかと思いますが、頭ごなしに否定するのではなく、状況を一旦整理してリスクとリターンを天秤にかけて最終判断するのが良いと思います。

擁壁については以上となります。

それでは。

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