【インタビュー】猫写真家 山本正義さん|大切なことは全部猫が教えてくれた。
自分は何者なのか。何をすることができるのか。
答えを求めることが必要じゃない。
答えを探し続けることが大切なんだ。
新しい時代が始まろうとする今、僕は一人の写真家の生き方と言葉に感銘を受けた。
可愛らしい猫の姿を映したたくさんの写真たちには、人生や仕事と真剣に向き合う想いが詰まっていた。
今回は、Instagramで6万人ものフォロワーを有する有名猫写真家 山本正義さんのインタビューをお届けします。
去る3年21日、山本正義さん初の猫写真集「立猫」出版を記念したパーティーが開かれました。
昨年12月におこなわれた「猫色色」というイベントでの繋がりで。僕もそのパーティーにご招待してもらいました。
まるでホームパーティーなように楽しい時間の中で、山本さんに個人的なインタビューをすることができたんです。
山本さんが秘める写真への想い。
そして、人生の中で訪れた大きな転機の数々をお聞きしました。
大阪の西成で始まった山本さんの写真活動
―――猫写真を撮る以前はどんな活動をされていましたか。
写真を始めた頃は、西成で路上生活をされている方々の写真を主に撮っていました。
失業中によく大阪の西成に通っていたんですが、西成で生活をする人たちの写真を通して生きることの意味や癒しを伝えたいと思っていましたね。
―――そういった写真は、かなりセンセーショナルなものですよね。その時はどんな想いで写真を撮っていたんですか。
人って何なんだろうと思っていながら、何かに駆られるように写真を撮り続けていました。
財力や仕事などが無くなった時、最後に残るものって一体何かあるのかという自問自答を繰り返していたような気がします。
西成で写真を撮る日々と、気付き始めた本当の想い。
―――西成という場所ですと、写真活動で大変なこともあったと思いますが……。
確かに西成で写真を撮っていた時は色々なことがありましたね。
当初は撮影している人に怒鳴られたり、缶チューハイを投げつけられたりもしましたっけ(笑)
でもコミュニケーションを図っていくうちに、西成に暮らす人とも仲良くなっていけたんです。
時には段ボールで一緒に一晩過ごしたこともありました。
危ないことも色々と経験しましたが、これが自分の写真なんだと必死に活動を続けていたんです。
―――本当にすごい経験をされているんですね。ただ現在は猫写真を撮り続けていますよね。被写体が人物から猫に変わったきっかけというのは、何かあったのでしょうか。
そうですね。自分の写真を直視できない人がいるということに気付いたのが一つの大きなきっかけだったと思います。
センセーショナルな写真を求め過ぎるあまり、写真を通して人を癒すという最初の想いと現状にズレが生まれ始めていたんです。
印象的だったのは、個展などで自分の撮った西成の写真を展示した時のことです。観覧しに来られた方が僕の写真を見て辛そうにしていたんです。
当時僕が撮った写真は、ありがたいことにプロの方々から評価を受けていました。いくつかのコンクールで受賞したこともありましたね。ですが、僕の写真で辛い気持ちになる人がいるということに気付いたんです。
「僕が本当に撮りたいのは、多くの人に癒しを与えられる写真だ」
忘れかけていた最初の気持ちに立ち返り、もっと癒しを与えられる写真を撮ろうと思うようになっていったんですよ。
―――自分の作品について考える転機があったんですね。きっとたくさんの悩みと葛藤があったと思います。
作品についてもそうですが、自分自身の人間関係について悩むことや葛藤することも多くあったんです。「人」というものに対して、少し後ろ向きな気持ちを持ち始めちゃったんでんですよね。今にして思えば、その頃から漠然と新しい被写体を探し始めていたと思います。
本当の癒しを与えられる猫写真との運命的な出会い。
―――自分の作品に疑問を持ち始めたのが大きな転機の一つとおっしゃっていましたが。その他に何か大きな転機はあったんですか。
はい、ありましたね。
もう一つの大きな転機は、障がいを持つ人たちに向けたカメラセミナーの講師をボランティアでおこなっていた時のことです。
セミナーをおこなう教室に、お手本として僕が撮った猫の写真を飾っていたんです。障がいを持つ人や子どもたちが見る写真なので、被写体に可愛い猫を選びました。
猫を撮り始めた時はただただ可愛いという理由で猫の写真を撮っていました。なので、今のような猫写真に対する強い想い入れはありませんでした。
―――そうなんですね。昔の猫写真と今の写真を見比べると、結構違いってありますか。
昔の猫の写真は、今の猫の写真と全く違いますね!
猫とコミュニケーションをすることなく撮っていたので、あまり良い写真とは言えません。
それでも可愛い猫を撮り続けていると、少しずつ猫に話しかけたり笑顔を向けたりすることが増えていったんですよ。
猫とコミュニケーションを交わしながら写真を撮っていると、猫の豊かな表情や仕草を切り取ることができるようになっていったんです。
そこからだんだんと、猫写真を撮る楽しさに気付いていきました。
これが自分の撮るべき写真なんだ!
ある時、障がいを持つ一人の女の子が僕の撮った猫の写真を見ていたんです。その女の子は、猫の写真を見ながらお母さんに笑いかけていました。
その笑顔を見た瞬間。
僕は突然、「これだ! 自分は猫の写真を撮るべきなんだ!」という強い衝動を感じたんです。
見るだけで癒しを与える猫の写真。
これからはこの猫写真を突き詰めていこう心に誓いました。
それでも訪れるスランプ。
抜け出すきっかけを与えてくれたのは「希望の立猫」
―――なるほど、一人の女の子の笑顔が山本さんの写真を大きく変えていったと。そこからは、迷うことなく猫の写真を撮り続けてこられたんですね。
いえ、猫写真家としての活動の中でもたくさんの迷いがありましたよ。大きな壁にぶち当たって、スランプに陥った時期もありました。
また以前のように被写体を変えるのか。
それとも、このまま猫写真を撮り続けるべきなのか。
ずっと葛藤していましたね。
―――そんな悩みがあったんですか! やっと見つけ出せた自分の作品テーマともう一度向き合うといのは、想像以上に大変で辛いことだったと思います。そのスランプを抜け出せた時のことを是非詳しく教えてください。
僕が猫写真家としてもう一度頑張ろうと思えたのは、「希望の立猫」という作品のおかげです。この作品を撮ることができたからこそ、今も猫写真家を続けられているんだと思います。
この猫と出会った時、僕はこれで猫の写真を辞めようと考えていたんです。
「良い写真を撮ることができなければ猫写真家を辞める」
そんな強い決意を持って猫と向き合っていました。
周りに渦巻く喧騒。
心の中の迷いや葛藤
上手く撮れない自分に苛立ち、一度はその猫から離れてしまったんです。
でもたった2枚。
たった2枚だけ撮れた猫の写真がすごく良くて、その写真を撮れたことで希望を見出すことができたんですよ。
その写真が、「希望の立猫」。
空に向かって立ち上がるこの猫が、僕に勇気を与えてくれたんです。
本当に猫たちには感謝しかありません。
猫がいてくれたからこそ僕はここまで来ることができた。
そして、こんなにも素敵な記念パーティーを開くことができました。
僕にとって猫は、かけがえない存在なんです。
猫たちに出会ったことで、山本さんは自分の人生に一つの答えを見つけ出せたと語る。
自分は何を残せるのか。
自分は何を生み出せるのか。
自分は人に何を与えられるのか。
自分は何者で、何ができるのか。
そんな人生の大きな目的を可愛い猫たちが教えてくれた。
「人に癒しと生きる活力を与えたい」
山本さんが映す数々の猫の姿には、山本さんが見つけ出した人生の答えと強い意志が宿っているように感じられる。
新しい時代を生きるために本当に必要なことって何なんだろう
今日この日、新元号の発表によって新しい時代の幕が開く。
これからの時代は、さらに「個人」というものがフォーカスされていくことだろう。
また生活の大半を占める仕事や・働き方はこれから大きく変わっていき、「個人」として社会と向き合うような流れとなっていく。
その時に大切になってくるのはきっと、自分の人生の目的やテーマだ。
自分は何者なのか。
自分には何ができるのか。
その答えを探し続けるという強い意志を持つことが、「新しい元号」の時代を生きていくために必要なことなのだと僕は思う。
そしてできれば僕も山本さんと同じように、「誰かのため」を想って生きていきたい。
僕は今、ライターとして仕事をし、ライターとして生きている。
自分の言葉を使って様々な情報を伝えるライターは、お店や人があってこそ成り立つ仕事だ。
誰かのために全力で自分の言葉を紡ぐ。
その想いと目的を忘れずに、僕もライターとしての仕事に全力で向き合っていきたい。
希望の空へと手を伸ばす立猫の写真を見て、なんだか僕も背筋をピシッと伸ばしたくなった。
山本さん。
貴重なお話を聞かせて頂き、本当にありがとうございました。
これからの活動も応援しております!