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味わいのあるヴォーカルを3人挙げてみた

「下手くそ」というには恐れ多いので「上手くない」と表現するが、つまりはそういうことである。

しかし、聴けば聴くほどスルメのように味わい深く、癖になってしまう不思議な魅力を感じるので、たまに聴きたくなってしまうヴォーカリスト(?)を3人挙げて、かつその曲を紹介したいと思う。

坂本龍一

まずは世界のサカモト、坂本龍一である。この人はヴォーカリストというよりは音楽家と言った方が合っている。しかし、たまにはヴォーカルも披露していて、その中でも最も好きなのが『Smoochy』というアルバムである。

坂本龍一 / Smoochy(1995)

前年に『スウィート・リヴェンジ』という割とポップなアルバムをリリースしたものの、それがあまり売れず「ポップとは何か」と悩んだという。その続編的な位置づけにある本作はメロディ重視とした作りとなっていて、坂本自身のヴォーカル曲が5曲(うち、1曲は中谷美紀とのデュエット)も入っている。

しかしヴォーカルは無理してやったようで、後日聴いて後悔したとか。恐らくそれ以降の作品ではヴォーカルを披露していないのではないかと。

「美貌の青空」は坂本の曲の中でも5本の指に入るぐらい好きな曲だ。この抑揚のない坂本のヴォーカルが逆に曲を引き立てているかのよう。ピアノだけの演奏版もあって、この曲は海外でとても人気があるらしい。ピアノ版も美しいしね。

そして中谷美紀とのデュエット「愛してる、愛してない」も秀逸。これはデュエットというよりは、坂本がバックヴォーカルに徹しているような感じ。
翌年、中谷美紀は坂本のプロデュースで、1stアルバム『食物連鎖』をリリースしている。

アントニオ・カルロス・ジョビン

ジョビンをもって「歌が下手」なんて、こんなこと言ったらそれこそ炎上モノなんじゃないかと思ったりするが、ボサノヴァ好きからは周知の事実なんじゃないかと思う。

ジョビンも偉大なる音楽家、ジョアン・ジルベルトと並ぶボサノヴァのパイオニア。若い時からヴォーカルは結構披露している。そんな中で、俺が最も好きなのは生前最後のアルバムとなった『アントニオ・ブラジレイロ』だ。

Antonio Carlos Jobim / Antonio Brasileiro(1994)

「生前最後」と書いたけど、実はアルバムがリリースされたのはジョビンが死去してからだった。ジョン・レノンと同じ12月8日に亡くなっていて、俺は毎年12月8日はジョンとジョビンを追悼して聴いている。

収録されているのはボサノヴァだけでなく、ブラジル音楽の歴史をもうらしているかのような力の入った作品で、アルバムタイトルの「ブラジル人、アントニオ」というのがとても説得力があるなと思う。


アルバムの中でも特に好きな2曲を貼っておきたい。なお、スティングがゲストヴォーカルで参加している曲も入っているが、目立ちすぎるのでここでは割愛。

ジェフ・ベック

そして3人目はジェフ・ベック。この人もヴォーカル曲は少ない。ヤードバーズとジェフ・ベック・グループの間にソロでシングルを出しているが、そこで聴ける"Hi Ho Silver Linning"とか"Tallyman"、ベック・ボカード&アピス時代の"Black Cat Moan"なんかがあるが、俺が推したいのは1985年リリースの『フラッシュ』だ。

Jeff Beck / Flash(1985)

『ブロウ・バイ・ブロウ』から続いたフュージョン3部作以来の歌モノアルバムで、当時はロッド・スチュワートが参加した"People Get Ready"が話題だった。他に、ジミー・ホールというヴォーカリストが4曲、そしてベックは2曲も歌っている。

当時高校生だった俺は、すでにベックがどういう人かも把握してたので、歌っていると知ってびっくりしたことを覚えている。アルバムの第一印象としては、ロッド以外のヴォーカルダメだなと思ったのもよく覚えている。

しかしジェフ・ベックのアルバムでは、『ブロウ・バイ・ブロウ』の次ぐらいによく聴いているんじゃないかと思う。これも癖になる1枚だ。

どちらもダンス・ミュージックっぽいノリなのがなんとも面白い。そしてそこに声に張りのないベックのヴォーカル。この2曲はナイル・ロジャースがプロデュースしているところが如何にもって感じである。
"Night After Night"なんてベックのヴォーカルよりもギターのほうが「歌ってる」じゃないか。でもそれでいいのですよ。ジェフ・ベックなので。

以上、個人的に癖になってしまう味わいヴォーカルお三方の紹介でした。書いている途中に気が付いたけど、3人とも故人ではないか・・・。

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