Weather Report / This is This
ウェザー・リポートは、アート・ブレイキーやキャノンボール・アダレイ、そしてマイルス・デイヴィスといったジャズ界の巨人たちと共演してきたジョー・ザヴィヌルとウェイン・ショーターが中心となって結成されたグループで、初期こそ実験的なジャズを演奏していたものの、ジャコ・パストリアスが参加した70年代後半はグループとしての人気が絶頂となり、ジャズ/フュージョンが不調となってきた80年代半ばに解散した。
そんなウェザーが1986年にリリースしたラスト・アルバム『This is This』は、グループというよりはザヴィヌルのソロ・アルバムのように聴こえる。その前年にリリースした『Sportin’ Life』で、コロンビアとの契約を終えたと思っていたザヴィヌルとショーターは、グループを一旦停止してそれぞれの活動を開始していた。しかし、コロンビアとの契約がアルバム1枚分残っていて、急遽作る必要があった。
ちなみにその前年、1985年時点でのメンバーは以下のとおり。
ジョー・ザヴィヌル(Key)
ウェイン・ショーター(Sax)
オマー・ハキム(drums)
ヴィクター・ベイリー(bass)
ミノ・シネル(percussion)
ザヴィヌルはヨーロッパへ自身のバンドを率いてツアーを行い、その後16年ぶりとなるソロ・アルバム『Dialects』を制作した。ショーターもソロ・アルバムのレコーディングとツアー、オマー・ハキムはスティングのバンドに参加し、ヴィクター・ベイリーはステップス・アヘッドというグループと活動を共にしていた(ミノ・シネルについてはこの時期どうしていたか分からなかった)。
メンバーが各々そのような状態でも、ザヴィヌルはみんながグループに戻ってくると思っていたようだが、状況はすでに変わっていて全員が多忙を極めていた。そんな中での制作されたのが本作である。
This Is This
Face The Face
I'll Never Forget You (Dedicated To The Memory of My Parents)
Jungle Stuff Part1
Man With The Copper Fingers
Consequently
Update
China Blues
1曲目のタイトル曲でこれまでのウェザーとは違うことが分かる。カルロス・サンタナがギターで参加しているのだ。これまでのウェザーのアルバムには無かった音だ。なお、サンタナは5曲目にも参加している。
そしてショーターのサックスは4曲目と6曲目の2曲でしか聴くことができない。彼は自身のツアーの直後でかなり体力を消耗し、このアルバムに関わったのはほんの数日だけだったようだ。4曲目はミノ・シネル、6曲目はヴィクター・ベイリーが提供した曲で、この2曲が従来のウェザー・リポートらしさを感じさせる。なお、オマー・ハキムは6曲目のみ参加だが、本人はほとんど記憶に残っていないレコーディングだったとか。他の曲では前任者であったピーター・アースキンが叩いている(ついでにコ・プロデューサーとしてもクレジットされている)。
他の6曲はザヴィヌルの曲で、ほぼ彼のキーボードやシンセサイザーがメインとなっていて、これがあたかもザヴィヌルのソロ・アルバムのように聴こえてしまうのであろう。同年発表されたソロ・アルバム『Dialects』に近いノリがあるし。
1986年2月にウェイン・ショーターがウェザー・リポートを脱退と報道され、6月に『This Is This』がリリースされた。ザヴィヌルはバンドを継続させたかったようだが、ショーターがバンド名を使うことを拒否したため、ザヴィヌルはその後「Weather Update」名義で活動を始めるが短命に終わった。このアップデートではショーターの代わりとなるサックス・プレーヤーはおらず、ギターにジョン・スコフィールドを迎えての活動だったようだ。
さて、こういう状況の中リリースされた『This Is This』は、ザヴィヌルのソロと思われる向きもあるが、アルバム自体は完成度は高いと思っている。前作や前々作とかよりも頻繁に聴くし、これはこれで面白いアルバムだ。そして、契約とはいえ、このタイミングでアルバムを作らなければならなかった状況が非常に残念で、もし時間的にもっと猶予があればショーターも脱退を考えなかっただろうし、グループの立て直しもできたのではないかと思う。
結局、ウェザー・リポートは再結成されることなく、今はジョー・ザヴィヌルもウェイン・ショーターもこの世からいなくなっちまった。