the stooges / fun house
聴くべきタイミングが重要なレコードというのがある。
俺にとっては、ザ・ストゥージズの2枚目となる『fun house』こそがまさにそれで、このアルバムは絶対にハタチ前に聴け!そう言っておきたい。
高校生のころ、俺は「ロック名盤ガイド」のような本を買って、アレを聴きたい、コレを聴きたいと思ったものだった。いまみたいにサブスクなんて無いし、当時レンタルレコードを利用していたが、それだって限界がある。
そんな中、たどり着いたページが「イギー・ポップ/ザ・ストゥージズ」と書かれたところで、その時に初めてイギー・ポップを知った。
ザ・ストゥージズはイギーの最初のメジャーデビューしたバンドで、パンクの元祖と書かれていた。俺は高校3年の時に彼らのデビューアルバム『the stooges』を池袋の西武デパートの輸入盤店で購入した。
"I Wanna Be Your Dog" や "No Fun"といった曲に痺れまくっていたが、パンクというよりはサイケデリックといった趣。
そしてセカンド・アルバムである本作は、19歳の時、まさにハタチ前に購入した。
Down On The Street
Loose
T.V. Eye
Dirt
1970
Fun House
L.A. Blues
1曲目 "Down On The Street" から、1stでのドロドロしたサイケ感が後退し、ストレートなハードロック調で始まる。このイントロですでに持っていかれた。
3曲目まではBPM130~135ぐらいの曲が矢継ぎ早に続き、えもいわれぬ快感が耳と脳を刺激し、血の気が多くなるような感覚が襲ってくる。
4曲目 "Dirt" は7分間のスローブルースといったところ。
アナログではB面にあたるのが5曲目以降。まずはザ・ダムドも1stでカバーした "1970"。ここからサックスが加わるが、これがこのアルバムの混沌さに拍車をかける。
そしてこのアルバムのハイライトでもあるタイトル曲。これをハタチ前に聴くか聴かないかで将来の音楽嗜好が変わるってぐらいのインパクトがあると俺は思っている。フリージャズとハードロックをごちゃまぜにしたような音にイギー・ポップの狂ったようなヴォーカルが最高すぎる。
アルバムラストはタイトル曲のフリージャズとハードロックにサイケデリックを合わせたようなアバンギャルドさを持つ。狂気とはまさにこれのこと。最後はフェイドアウトで鎮静化していって終わり。
当時、メンバーたちはコカイン漬けで、オーバーダブなどはほぼ無いスタジオ・ライブ形式で録音されている。そんな状態だから、何度も録音しなおしているテイクもあって、1999年には米ライノレコードからリリースされた『1970: The Complete Fun House Sessions』という7枚組のBOXセットでその全貌を知ることができる。
このBOXセットには、アルバムの全セッションが収録されており、失敗テイクやおしゃべりまで入っている。どの曲も十数テイク前後あるが、"Loose"にいたっては28テイクも入っている。これらのテイクのどれもが、アルバムと同じテンションで、聴くのにとてつもないパワーを要する。
実際、俺はBOXを通して聴けたことがない。25年も所有しているのに。
血気盛んで世の中のしょうもないことにまでブチ切れていた19歳のころに、このアルバムを聴いてしまい、憂さを晴らしていた。そして今でも、フェイバリット10枚を選べば筆頭として挙がるぐらいこのアルバムを年に何回も聴いている。さすがにいまは感情もコントロールできるし、聴き方は変わっているが、それでも沸々と上がってくるものがある。
もし、19歳の頃にこのアルバムに出会わず、5年とか10年ぐらい遅れて聴いていたらきっと「ふーん、こんな感じか」で終わってしまっていたかもしれない。そのぐらい、聴くタイミングが重要なレコードだと思う。
蛇足だが、「ハタチ前に聴け!」は前述した「ロック名盤ガイド」でそう書かれていたので、同じように言わせてもらっている。