How To Discuss A Case (その3)
準備にタイム・リミットを設定する
入念な準備はクラス・パーティシペーションには欠かせない。ただ、準備に過剰な時間とエネルギーを費やすべきではない。矛盾しているように思うかもしれない。学問の世界で勉強のし過ぎ、などということはあるのか?
ケース・スタディに限って言えばその答えは疑いもなくイエス、である。
時間をかければかけるほど準備が万全になるという思考の罠にはまらないことだ。習得知識は勉強時間に比例すると言い聞かせ、時間のかけ過ぎを正当化しがちである。ハーバード・ビジネススクール在学生の一人は、そんなことをすると知識より眠気が増すだけ、と語る。準備と休息のバランスを取ることが良いクラス・パーティシペーションに最も役立つことだ、と。
時間無制限でケースに取り組むことは、限られた時間をどう使うかの思考を拒否することになる。ケースの準備にタイム・リミットを設定することはいくつかのベネフィットがある:時間を有効に使うための程よいプレッシャーになる;予習と休息のバランスが取れ授業に良いコンディションで臨める;ケースをどうやって分析していくか、について考えることを促す。
参加することは、聞くこと
ビジネススクールの2年間で、生徒は’話す’ことより遥かに多く、’聞く'ことに時間を費やす。以下は過小評価されがちなスキルについて述べている;
生徒のコメントと教授からの質問はしっかり聞きつづける。飛び交うコメントのエッセンス(本質)が見えるだけでなく、ケース・ディスカッションの流れを読むのを助けてくれる。
どのような姿勢で聞いていたかについて;
クラスメートの発言を聞きながら、自分はそれに同意するかしないのかを考えるのはとても良い訓練になる。そのコメントに同意する(あるいは反対する)のに良い論点が浮かんだのなら、手を挙げて貢献(発言)するチャンスだ!
聞いていることが、コメントを発している時以外のクラス・パーティシペーションとなる。ディスカッションをフォローしながら、貢献(コントリビューション)をする機会を伺う。良いコメントとは、'その時'議論されている内容にフィットする発言である。
ケースディスカッションは、テーマに沿った多くのコメントが文脈なしに発せられるだけでは成り立たない。同じコメントでも、講義の冒頭に出たものと最後の方に出たものでは全く異なる意味やインパクトを持つ場合がある。ケースの根底にあるテーマは、ディスカッションの中に現れ、時に影をひそめ、再び出現したりする。講義半ばに発したコメントが、最後に出てくる質問の答えになったりする。良いケース・ディスカッションは複雑で深みがあり、継続的に耳を傾けていることを要求する。
ケースディスカッションでは、他人が発した意見を自分の考えと照らし合わせる作業をする。自分の意見が講義開始から一貫して変わらない場合もあるが、講義途中に全く考えが変わったりすることもある。レクチャー型授業のように積み上げで進行していくものとは違い、ダイナミックに変化が起こる。ディスカッションが特定の結論に向かっていると思ったら、最後の最後に発せられたコメントで全く違う方向を向いたりする。生徒はそれにフラストレーションを感じることもあるが、直線的な議論よりも紆余曲折の議論から、より多くのことを学んだと、あとで知ることになる。
聞くスキル、を決して侮ってはいけない。長時間聞いていることは簡単ではない。聞くスキルをマスターする際、満足感と心配のしすぎはどちらも極端な結果をもたらす。満足していると、ディスカッションが継続的に学びを産んでいることに気づかない。心配がちな生徒は自分の頭の中で考え過ぎて聞くことに集中できない。中庸な落とし所を見つけることは、ケース学習の一つの課題である。
ユーモアも忘れずに
ビジネススクールは真剣な学びの場所であるが、決してそれに窮屈となってはいけない。以下はハーバード・ビジネス・スクール卒業生の一人からのアドバイスである;
場を盛り上げることは重要だ。緊張しっぱなしで堅くなっていると、コメントもぎこちないものになる。ユーモア、中でも自虐的なユーモアは受け入れやすく、時に必要となる。議論に少し笑いを加えたり、自分自身を笑いの対象にすると、参加者の注意を引き、結果的に自分のコメントが注目がされることになる。
ジョークの一つでも覚えてきてコメントする際に披露してみよう、というアドバイスでは決してない。しかし自然に出てくる笑いは、場に相応しい。
講義後の振り返り
講義後に数分でもいいので振返りの時間を設けると、講義体験を一層価値あるものにする。ハーバードMBAの一人であるYusuke Watanabe氏は、以下の習慣を薦めている;
講義終了後、ケースごとに二つか三つ、テイクアウェー(気付き)を書き留め、後で振返る。これだったら講義後4、5分あればできることだ。書き留めることによって講義での擬似体験を一層記憶に留めやすくする。
ケースディスカッションは議論がリニアに進まないので、講義終了後、全体を振り返ってみるのが良い。細かい点より、ビッグピクチャーの視点から気づきのポイントを書き留める。
講義後に振り返りメモを書いていくことの短期的な効果は、科目の中でのケースの繋がりが見えてきて、次ケースの分析、クラス・パーティシペーションやテストに生きること。長期的な効果は、気づきのメモ集が、リーダーになった時のバイブルになること。
忍耐強く
ケース・メソッドはチャレンジングなメソッドなため、無数のアドバイスがあり、それらに圧倒されてしまうことがある。アドバイスは少なめの方がいいかもしれないので以下を最後とする。
講義が始まってまずすることは、自分が発言する順番を待つことではなく、聞くこと、である。アクティブに聞いていると、自ずと自分の考えが頭に浮かんでくる。そうしたらそれがいい考えか否かの判断はしないで、まず手を挙げよう。そして一旦意思表示をしたら、次は忍耐が必要である。いち早くコメントすることが自分を周りに証明するのだと考えないようにしよう。ケースディスカッションに慣れてきたら心配は脇に置いて長い目で見ていこう。その場しのぎの派手なパフォーマンスよりも、ディスカッションにひたむきにコラボレーションしていくことが「コントリビューション(貢献)」につながっていく。
2年間で何百ものケースに取り組んできたばかりの、直近の卒業生たちのアドバイスは最も貴重だ。そんな卒業生であるYusuke Watanabe氏は、「わかりきったコメントや簡単な質問をすることに躊躇してはいけない」と言い、以下のように続けた;
自らにプレッシャーをかけてしまい、素晴らしいコメントが浮かぶまで待とう、などと考えるのはやめよう。簡単で(時に自明な)質問もしていこう。その質問が実はみんなが聞いてみたいと思っている質問なのだ。一旦そういったコメントができるようになると、頭がクリアになりコメントの質がどんどん上がってくる。
(おわり)
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