アメリカ勤務で直面した発音の壁と克服への挑戦 - 36 週間の奮闘記
こんにちは!自分は現在、アメリカの企業でソフトウェアエンジニアとして勤務しているのですが、それ以前は営業部門でセールスエンジニアとして勤務していました。それまでの経緯を前回の記事でまとめたのですが、その際、アメリカ勤務開始時に直面した英語の壁についても触れました。今回はその詳細について書いてみたいと思います。
自分の場合、特に英語の中でも(初期に)苦労したのが発音でした。そのため、発音スクールに通ったのですが、最終的にはスクールのホームページの Before/After にモデルケースとして録音が載るまで改善しました("This Japanese-accented student.." が自分です)。発音レッスンは周りのアメリカ勤務者を中心に、前回の SWE 転向に次いで聞かれるトピックでもあり、一度まとめてみたかったという背景もあります。英語学習という文脈では、ともすればニッチなトピックとも捉えられる発音について、「なぜ発音練習しようと思ったの?」「そもそも発音レッスンって何?」といった質問に体験談を通じて少しでもお答えできたら嬉しいです。
本題に入る前にお伝えすべきこと
本記事で「英語」と書いた場合は、特に断りのない限り、アメリカ英語を指します。
本記事は専門的な、あるいは、網羅的な内容は目指していません。主目的は一人の体験談を共有することであり、最善を尽くしますが、もしかしたら不正確な内容をお伝えしてしまうこともあるかもしれません。その場合は、申し訳ありません。可能な範囲で訂正いたします。
「必ずしも "綺麗な" 発音は必要ない」は自分もその通りだと思います。そのため、本記事は発音に課題を感じた人間がこのように対処してみた、という一つの体験記としてお読み下さい。
これも事前にお伝えしておいた方が良いと思うのですが、自分には幼少期に海外在住経験があります。ただ、日本人学校に通っていたので、英語を話す機会は限定的で、流暢にならないまま大人になってしまったという背景があります。
なぜ発音レッスンを受けようと思ったのか
前回の記事でも触れたのですが、直接の理由はアメリカで働き始めた際に自分の英語が通じずに苦労したためです。ここで言う「英語が通じない」とは、具体的には相手に聞き返されるということです。Huh? というアレです。完全に余談ですが、当時、自分の拙い英語にも親身に耳を傾けてくれる優しい同僚がいたのですが、その人にもついに huh? と聞き返されてしまったことで、「自分の英語は(一生懸命聞こうとしても聞き取れないほど)まずいのか」と痛感し、本腰を入れて対処に乗り出したという経緯もあります。
実は、自分は初めから発音に焦点を当ててレッスンを受けようと思っていたわけではありません。初めは「英語力」全般を引き上げたいと考え、英会話スクールを探し始めたのですが、ホームページやレビューから得られる情報だけではどのスクールが自分に合ってるか分かりませんでした。そのため、無料の体験レッスンをできるだけ受けてみて、最終的に自分に合った場所に決める方針に切り替えました。
その結果、興味深い事実が分かりました。どのスクールも基本的にどのレベルのクラスが合ってるか測定するテストがあるのですが、毎回ほぼ同じことを指摘されるのです。「(なぜか)イントネーションと文法と語彙はあまり問題ないけど、流暢さと発音に課題がある」。この結果を受けて、流暢さと発音に特化したスクールを探すことにした結果、友人に教えてもらったアクセントスクールに通うことにしました(流暢さは別の個人講師にお願いすることにしました)。
発音レッスンの開始
さて、いよいよレッスンの開始です。細かい話になって恐縮ですが、聞くところによれば(c.f. How many sounds are in English?)英語には 44 の音素 (phonemes) があるらしく、テストの結果、自分は 30 個ほど (!) 誤って発音がしていることが明らかになりました。では、どう対処していくかというと、発音を一つずつ毎週先生と改善していきます。つまり、誤った発音は 30 個ほどあるので、復習や総合練習も含めると、足掛け 30 週間以上かかることが判明しました。。
発音レッスンの内容
この章では具体的な発音レッスンの内容に触れたいのですが、レッスンの内容自体は特段変わったことはありませんでした。簡単にまとめると、毎週以下のような流れでした。
その週に取り組む音が提示される(e.g. apple の [æ])
その音が含まれる単語(e.g. apple)や例文(e.g. He answered the question.)を読み、先生にフィードバックをもらう。
上記のレッスンは録音し、レッスン後も繰り返し聞く。
レッスン後も(できれば毎日)読む→録音する→聞く→改善するを繰り返す。
正しい(正確には聞き取りやすい)発音を定着させるためには、正しい発音の知識と(できればリアルタイムの)フィードバック、そして、どうしても反復練習が鍵になります。また、日本語と英語だと微妙に口周りの筋肉の使い方も異なるので、英語の筋肉を発達させるという意味でも反復練習は効果的になってくると思います。
発音レッスン中に発覚した課題
また、発音レッスンを受けるまで自覚してなかった課題もいくつか発覚したので、主要なものを紹介してみたいと思います。* この章はかなり細かい知識の話も含むので、ご興味ない方は小見出しの冒頭だけ読んで、後は読み飛ばしてもらった方がよいかもしれません。
全然知らない発音がある
レッスンを通じて先生から色々な発音を教えてもらうのですが、中には全く誤って認識している、あるいは、そもそも存在自体を認識してない発音にも遭遇しました。
分かりやすい例から始めると、例えば、hot、Tom などの [ɑ] という発音。これらは(自分が教わった限り)「ホット」「トム」というように「オ」というより、どちらかというと「ハァット」「タァム」など「アァ」の音に近く、また、似たよう話で comfortable の [ʌ] も「コンフォタブル」というよりは「カンフォタブル」になるようです。
次に trip や difficult といった、短母音、中でも short i と呼ばれる [ɪ] の音に苦しめられました。自分の場合、何も考えず「トリップ」と発音すると「i の音が強すぎる」と言われました。実際は「エ」と「イ」の中間くらいの音を弱めに発声するようです。「イ」の言い方にも種類があるのか…!と新鮮でした。
最後はもはや余談なのですが、アメリカ英語では単語の語中や語末に t や d がある場合、ほとんど発音されないことがあるそうです(reduction?)。渡米時のメンターの名前が Martin だったのですが「お前のメンターは誰だ」と言われるたびに「マーティン」と答えて通じないという冗談のような笑えない話がありました。(実際は「マーッン」くらいのようです。ちなみに、ネイティブにこの話をしたら「ほんとだ、気づかなかった」と言われました。)(補足: マーティンと言うと通じないというより、自分の下手な発音と合わせてより聞き取りづらくなってしまった、ということだと思います)。
その他にも hurt と heart の違いや want と won't の違い、low と law の違いなど、練習が必要な発音は自分の場合は数多くありました。
自分の発音が正しいか分からない
これは必ずしも毎回当てはまった訳ではないのですが、時々「自分で聞く限り正しく発音できているように聞こえるが、実際は異なっている」「自分ではうまく発音できている気がしないが、実際は正しい発音になっている」という事態が発生しました。具体的には [ɔː] の発音(e.g. caught)が苦手で「これはうまく発音できたんじゃない?」と思ったら「少し違う」と言われ「え、こう?」と思った発音が「そうそれ!」と言われることが度々ありました。
これは個人的には衝撃的な事態で「自分で正しく発音できてるか判断できないなら、どう一人で練習すればいいの?」という気持ちに少しなりました。幸いにしてその齟齬は頻繁には発生しなかった上、(アメリカ英語っぽい発音を勝手に意識するより)素直に先生の発音を真似するという方針に切り替えたところ、その問題が起こることは減りました。(そうしたフィードバックをくれる人が身近にいない場合、ELSA のような発音サポートアプリなどを活用するのも手かもしれません。)
その他、よく聞かれる内容
上記の課題を一つずつ潰していった結果、発音は少しずつ改善していきました。ここまでで主要な内容は一応カバーできたのですが、この章では時々いただく質問について自分の考えを書いてみようと思います。
実際に効果はあったの?
自分はあったと思います!具体的には、同僚などから聞き返される回数がぐっと減りました。
レッスンを辞めたら元の発音に戻っちゃうんじゃないの?
結論から書くと、自分の場合はこれは起きませんでした。むしろネイティブの友人に冒頭に挙げた Before/After の録音を聞いてもらったら「After にも十分な改善が見られるが、今現在(自分と普段話してる時のほうが)自然で上達している」という予期しなかった返事をもらいました。
考えられる要因としては、毎日のように反復練習をしていたので(仕事に直結するので必死だった)体が覚えた可能性と、自分の場合は幸いにして職場で口にする・耳にする機会が豊富にあったので(あ、この前習ったやつだ、となりやすい)うまく忘却曲線対策になった可能性があります。
発音が改善したらリスニングも改善するの?
正直、自分個人の体感としてはあまり変わりませんでした。ただ、発音の知識が身につくので、聞き分ける素養は培われた気はします(例えば、前に挙げた want と won't のように、似た発音だけどこう違うはずだからたぶん今回はこっち、のような)。リスニングは今も課題です。。
便利だったツール
また、発音練習する際に重宝したツールも参考までに記載してみます。
発音記号
初っ端からツールではないのですが、発音記号とそれに付随する発音を覚えて、自信のない単語に遭遇したら調べる癖をつけるのは有効だと思いました。(例えば、"leisure" や "sauna" と言った単語を自分は調べるまで自信を持って発音できませんでした)
YouGlish はある単語で検索すると、その単語が使われている動画をある程度信頼のおけるソース群(e.g. TED Talk)から探し出してくれ、しかも、その単語が使われるタイミングから再生を開始してくれます。
発音練習以外では固有名詞にも有効で、例えば、Mercedes(ベンツ)と言ったヨーロッパ関係の会社名など、初見では読みづらい固有名詞はたくさんあります。その際に実際の発音が手軽に聞けるのは重宝しました。
最後に
今回も長くなってしまってすみません。。また、ストーリー的な要素と、テクニック的な要素が混ざった結果、まとまりのない文章になってしまったかもしれません。ただ、1. どういう時に実際に発音を課題に感じるのか 2. 実際に発音レッスンを受けるとどのような発見があるのか の両方をカバーできればと思い、このような形式に落ち着きました。
また、初めにも書きましたが、本記事はあくまでも一つの体験記になっています。語学(に限らずですが)に取り組むのであれば、もし時間と資金が許すのであれば、専門家の指導の下、ご自身に合った学習をされる方が効果的かもしれません。
とはいえ、1. 発音というある種の特殊領域に絞った体験記を自分の周りであまり見聞きしたことがなかった 2. 自分の周りに限れば、興味を持ってご質問くださる方がいらっしゃる ということで、どなたかの参考になればと思い書いてみました。自分自身、発音含めてまだまだですが、少しずつ改善していければいいなと思っています。改めて、読んでいただき、ありがとうございました。