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【世界一流の内部監査】第41回:内部監査人が実践できるデータ専門家への道とは?

こんにちは、HIROです。私は現在、米国のシリコンバレーで「世界の内部監査のベストプラクティス」や「内部監査における生成AI活用」の研究とコンサルティングに取り組んでいます。
このシリーズでは、日本の内部監査人が普段触れる機会の少ない「世界の内部監査」に関する最新情報を、迅速かつ分かりやすくお届けします。
特に、アメリカの内部監査はその進化が日本より10年以上先を行くと言われており、非常に参考になるケースが多いと感じています。
今回は、「すべての内部監査人がデータの専門家である必要がある理由」についてお伝えしたいと思います。この記事を読むことで、内部監査の現場でなぜデータアナリティクスのスキルが不可欠となってきているのか、そして実務にどのように活かせるのかを理解することができます。


1. なぜ内部監査人に“データの専門性”が求められるのか?

1.1. 企業環境の変化とリスクの多様化

近年、ビジネス環境が激しく変化しており、組織が抱えるリスクの種類や規模が飛躍的に増えています。たとえば、新規事業のスピード感やITシステムの導入ペースが加速する中、従来の監査手法では追いつかないケースが増えています。
さらに、外部環境としては地政学的リスクやESG(環境・社会・ガバナンス)への対応、あるいはサプライチェーンの複雑化など、多角的なリスクが組織を取り巻いています。その結果、「どのリスクが重要なのか」を素早く把握し、必要に応じてリスク対応を提案することが、内部監査部門に強く求められるようになりました。
こうした状況で鍵を握るのが、社内外に蓄積された大量のデータの分析能力です。従来のように限られたサンプルを人海戦術でチェックするだけでは、不正や不備を見落とすリスクが格段に高まります。そこで、“データの専門性”が内部監査人に欠かせないスキルとして浮上しているのです。

1.2. データが語る「潜在的な不正」や「不自然な取引」

たとえば、B2Bの取引では、セールス担当が“パイプライン調整”を行い、売上見込みを過大または過少に報告することで、組織としての判断を誤らせるケースがあります。こうした状況でも、データを駆使すれば異常値や不自然なタイミングの取引などを検出しやすくなります。
一方で、データ分析の知識がないまま“手作業のチェック”だけを続けていれば、表面化しない不正や誤情報を見逃す可能性が高まります。内部監査人がデータに強くなるということは、こうした潜在的リスクを早期に察知し、経営陣に確かな証拠をもとに提言を行うための大きな武器になるのです。


2. データアナリティクスが内部監査を変える理由

2.1. プロセスの未整備でもデータが真実を語る

かつては「まずは業務プロセスをしっかり整備し、その後にシステム化」という順番が常識でした。しかし、現代のビジネス世界では、スピード重視のために業務プロセスが明文化されていなかったり、頻繁に組織再編が行われたりしています。
こうした場合でも、システム上には膨大なデータが蓄積されています。SaaSツールやERP、CRMなど、さまざまなプラットフォームから得られる情報を整理・分析すれば、ブラックボックス化した業務の流れを浮き彫りにし、リスクや改善余地を特定することが可能です。
つまり、プロセスが“明文化”されていなくても、実際のトランザクションやアクセスログなどの“行動の痕跡”がデータとして残っており、それが監査の大きな手がかりになるのです。

2.2. “予測”と“フォアサイト”を提供する内部監査

データ分析の利点は、過去の事象を把握するだけでなく、将来のリスクを予測できることにもあります。AIや高度な分析手法を用いれば、不正の兆候や異常値、売上動向などを予測し、早めに対策を打つことが可能です。
従来の監査が「過去を振り返って問題を指摘する」だけにとどまっていたのに対し、データに強い内部監査人は「未来のリスク」にも目を向けるフォアサイト(先見性)を提供しやすくなります。これにより、経営陣やAudit Committeeからの信頼度が大きく向上し、“監査はコスト”ではなく“価値を生む機能”として評価される可能性が高まるのです。


3. 日本の内部監査人が実践できる“データの専門家”への道

3.1. まずはデータベースの基礎から学ぶ

監査におけるデータ活用といっても、いきなりAIや高度な統計解析を学ぶ必要はありません。まずは社内で使われている主要システムの構造やデータベースのテーブル構成、アクセス権限の設定など、基本的な部分を把握することから始めましょう。
例えば、「この営業システムには取引先IDと取引履歴がどんな形で格納されているのか」「この会計ソフトは仕訳データをどのように記録しているのか」といった具体的な質問に答えられるレベルになると、監査時に“データを見せてください”と言ったときに何を求めればいいのかが明確になります。
この段階でIT部門の協力を得たり、データ管理者と直接コミュニケーションをとる習慣をつけることで、より深い理解が得られます。業務プロセスで言えば、仕入れから支払いまでのフローをシステム上のデータとしてどう表現されているのかを俯瞰できるようになると一気に強みが増すでしょう。

3.2. スモールスタートでのデータ分析実践

データ分析ツールをいきなりフル活用するのはハードルが高いかもしれませんが、ExcelやBIツール(Power BIやTableauなど)など、比較的習得コストが低い環境から始めてみるとよいでしょう。最初は、簡単な統計やグラフ、ダッシュボードを作り、異常値の検知やトレンドの把握に挑戦してみると、データ分析の手応えをつかみやすいです。
たとえば、ある製造業の監査案件で、在庫の動きを定期的にグラフ化し、季節変動や不自然な在庫増加を把握できるだけでも、リスク発見の精度は向上します。専門的な統計知識やプログラミング言語(Python、Rなど)を使いこなせるようになれば、より高度な分析が可能ですが、まずは社内外で共有しやすいツールや方法から始めるのが現実的でしょう。

3.3. 継続的な学習と社内外のリソース活用

データ分析のスキルは一朝一夕で身につくものではありません。セミナーやオンラインコース、資格試験(CIA、CISAに加え、データ分析関連の資格など)を活用して、継続的に学ぶ姿勢が大切です。
また、すでにデータ分析に精通している人材を監査チームに招いたり、他部門からスペシャリストを一時的にアサインしてもらうことで、ナレッジを取り入れる方法も考えられます。データ分析はIT部門だけが担う役割ではなく、内部監査人自身がデータに触れる機会を増やすことで、“必要な時に必要な分析ができる”体制を整えることが理想です。


4. データ専門家としての内部監査がもたらす未来

4.1. 「経営への発言力」が飛躍的に向上する

先ほど述べたように、データを駆使できる内部監査人は、リスクの洗い出しだけでなく、経営の意思決定にも影響を与えられるほどの情報を提供できるようになります。これはAudit Committeeや経営陣とのコミュニケーションにおいても大きなメリットであり、監査報告が単なる「違反やミスを指摘するもの」から「戦略実行のためのヒントを示すもの」に進化するのです。
一例として、売上計画の正確性や顧客のチャーンリスク(離脱率)など、分析結果をもとに「このままだと今期の計画達成率は厳しい」と具体的な数字で示せるようになれば、経営層も早期に手を打ちやすくなります。これこそが内部監査の“付加価値”といえる部分であり、データスキルがあるかないかで大きく差が出るポイントです。

4.2. 企業内の“信頼の要”としての役割拡大

データを扱ううえで重要なのは、単に分析する能力だけでなく、「そのデータがどれだけ正確か、どれだけ信頼に足るか」を評価する目を持っていることです。内部監査はもともと、公正性や信頼性を追求する役割を担う部署ですから、この強みとデータ分析スキルが結びつけば、企業内外から「データガバナンスの守護者」として評価されることになります。
たとえば、プライバシー保護や情報セキュリティが厳しく問われる昨今、内部監査人がデータ保護体制やアクセス管理の適正をしっかり評価できるようになれば、企業のリスクを大きく軽減すると同時に、ステークホルダーとの信頼関係構築にも寄与するでしょう。


この記事は、私個人の専門家としての継続学習のため、また内部監査業界の発展のために投稿しています。「いいね」や「フォロー」で応援いただけると励みになります。
それでは、次回の記事でお会いしましょう!


引用元:
Michael Pellet, “Why All Internal Auditors Need to Be Data Experts,” InternalAudit360.com (September 17, 2024)
https://internalaudit360.com/why-all-internal-auditors-need-to-be-data-experts/

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