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【世界一流の内部監査】第27回:不正の摘発における内部監査の役割とは?

こんにちは、HIROです。私は現在、米国のシリコンバレーで「世界の内部監査のベストプラクティス」や「内部監査における生成AI活用」の研究とコンサルティングに取り組んでいます。このシリーズでは、日本の内部監査人が普段触れる機会の少ない「世界の内部監査」に関する最新情報を、迅速かつ分かりやすくお届けします。特に、アメリカの内部監査はその進化が日本より10年以上先を行くと言われており、非常に参考になるケースが多いと感じています。
今回は、先日紹介したIA 360°の2024年トップ5の記事の内、3位の「内部監査の役割が増大する不正リスク対応」についてお伝えしたいと思います。この記事を読むことで、内部監査における不正リスクの重要性が高まる背景や、組織内での不正対応と「信頼されるアドバイザー」としての立ち位置を両立するためのポイントを理解することができます。

1. 不正リスクに対する内部監査の存在感が高まる背景

1.1. 新基準における「不正リスク強化」の流れ

米国の内部監査専門サイト「Internal Audit 360°」が公開した記事“Internal Audit’s Increasing Role in Hunting for Fraud”では、内部監査の不正リスク対応がこれまで以上に注目されるようになってきた背景を解説しています。きっかけの一つとして挙げられているのが、グローバルレベルでの監査基準の改訂です。

  • IIA(Institute of Internal Auditors) の新たなグローバル内部監査基準(2025年1月9日施行)では、不正リスクに関する文言が明確に増え、「内部監査人は不正リスクの特定と評価において相応の責任を負う」ことが強調されるようになりました。

  • IAASB(International Auditing and Assurance Standards Board) が提案している外部監査向けの新基準でも、不正リスクへの対応強化が明確に示されています。外部監査基準が変わると、企業は内部監査のサポートを求める可能性が高いため、結果的に内部監査の不正対応ニーズも高まるわけです。

こうした動きは、過去の企業不祥事や会計不正が社会的注目を集めるなかで「監査はなぜ見抜けなかったのか?」と問われ続けてきた背景もあり、“監査と不正リスク”の結びつきがより一層強化される流れと言えます。

1.2. “不正リスク担当”としての役割と複雑化する環境

記事では、企業全体の管理体制が新技術やマクロ経済の影響で急速に変化するなか、不正リスクが多様化していることを指摘しています。たとえば:

  • AIを利用した新たな詐欺スキーム

  • 人員不足やリモートワーク定着に伴う内部統制の甘さ

  • グローバル展開による海外子会社や現地パートナーのリスク

従来より内部監査は「不正の予防および発見」の責務を担っていましたが、こうしたリスクの複雑化に伴い、「不正を見つける警察官」的な役割だけでなく、戦略的に不正リスクをマネジメントするためのアドバイザーとしての期待がさらに高まっているわけです。


2. 日本の内部監査人にとってのポイント:不正リスクと「信頼されるアドバイザー」の両立

2.1. “警察官ではなくパートナー”としての姿勢

日本の企業文化では、内部監査がいきなり「不正を取り締まる存在」と捉えられると、現場との緊張感が高まったり、協力を得にくくなることが考えられます。この記事でも「Cop on the Beat(巡回警官)に見られないように」という表現が使われていますが、日本でもまさに、そうした印象を持たれないよう注意が必要です。

  • 高リスク領域に注力する: 例えば、金融機関の内部監査では、大口取引や多額の資金が動く範囲、ITアクセス権限が集中する部署などに重点的にリソースを配分する。その結果、組織全体の不正リスクを大きく低減できる。

  • 企業戦略との整合性を意識する: 経営陣と「どのリスクが今もっとも組織のダメージになるか」をすり合わせ、不正リスク対応が企業のビジョンや事業計画と矛盾しない形で進める。

これによって、内部監査が不正を防ぐ取り組みを行う際も、“組織の成果を守り、事業の継続性を支援する”パートナーとして認識されやすくなります。

2.2. 「不正発見=敵視される」から「早期予防=信頼アップ」へ

日本企業は「臭いものにフタ」をしがちな風潮があるとよく言われますが、最近のコンプライアンス意識の高まりを踏まえると、むしろ早期に不正兆候を指摘してくれる内部監査は「ありがたい存在」と認識されるケースも増えています。ポイントは以下の通りです:

  • 不正リスクのコントロールは経営にも利益: 重大不正が公になると企業ブランドや株価に深刻なダメージを与える可能性がある。そうしたリスクをいち早く抑えることは経営にとってもプラスであると、丁寧に説明する。

  • 小さい疑念のうちに手を打つ: 内部監査が高い感度で不正リスクを検知し、組織全体で早めに対策を講じれば、大きな問題に発展する前に抑止できる。この「未然防止」の視点を強調する。

これらを組織内で共有し、監査部門が不正対応の“邪魔者”ではなく、“未然防止のための頼れる存在”と意識してもらうことで、関係構築がスムーズになります。


3. 不正リスク対応を強化するための具体策:技術・体制・スキル

3.1. データ分析とモニタリングの活用

記事でも触れられているように、AIや分析ツールを使った「異常検知」や「モニタリング」の発展は、不正リスク検知の大きな武器になり得ます。日本の内部監査でも、以下のような方法が考えられます:

  • 継続的なデータモニタリング: 経費精算システムや購買システムなどから自動でトランザクションデータを取得し、不自然な取引や突発的な増加を検知する。

  • サンプル監査の削減: 従来は一部サンプルを抽出していた監査を、データ分析ツールで全件検証する方向へシフトできれば、より正確かつ効率的な不正リスク発見が可能になる。

  • アラート機能の導入: 一定の閾値を超えた取引やアクセス履歴が発生した場合に、リアルタイムで内部監査やコンプライアンス部門に通知される仕組みを構築する。

3.2. 組織内の透明性とトレーニング

不正を見つけようとするとき、どうしても「疑われている」と捉えられがちですが、ここで大切なのは「透明性」と「教育」です。

  • オープンに監査方針を共有: 「どんな領域を優先的にチェックするか」「どういうシグナルを重視するか」などを部門長や担当者に説明し、内部監査が何を目的に、どのように活動しているかを理解してもらう。

  • 不正リスクに関する全社的なトレーニング: 不正は監査部門だけで防げるものではありません。現場でもリスク感度を高め、違和感があれば声を上げられる文化を育成する。たとえば、内部通報制度の活用促進や具体的事例を交えた研修を実施する。

  • コントロールの重要性を伝える: 「不正は組織を傷つけるだけでなく、当事者や周囲の社員にも負の影響を及ぼす」という点を示し、適切な統制が“自分たちを守る”ことにつながると理解してもらう。

3.3. プロフェッショナル・スキルと懐疑心の育成

日本の内部監査では、会計やITに限らず、様々なスキルが求められていると感じます。記事でも「プロフェッショナル・スキルや懐疑心の育成」が重要視されていますが、以下のような観点が挙げられます。

  • 懐疑心(Skepticism): 単に手続き的な監査にとどまらず、「なぜこうなっているのか」を一歩深く考える姿勢。実際、過去の重大不正では「単純なテストで気づけたはずなのに、疑うことを怠った」というケースが少なくありません。

  • ソフトスキル(コミュニケーション): 不正疑惑に関するヒアリングは、相手との関係構築がしっかりしていないと情報を引き出せない。また、発見したリスクを経営層や現場に“正しく理解してもらう”ためにも、高度なプレゼン力や調整力が必要になります。

  • テクニカルスキル(ITリテラシー): AIを使った分析やシステムログの読解など、新しい不正手口に対応するためには、監査人自身のIT知識が欠かせない。


4. まとめ:日本の内部監査が目指す「不正リスクへの包括的アプローチ」

4.1. 不正対応が監査の「本業」と相反するわけではない

日本では「不正捜査」のイメージが強まると、「通常の監査業務」とのバランスをどう保つかを不安視する声もあります。しかし、記事でも「不正リスクは組織にとって重大リスクの一部であり、内部監査がそれを評価するのは当然の責務」と強調されています。むしろ、不正リスクへの取り組みこそが、内部監査部門が経営陣から真の信頼を勝ち得るチャンスとも言えるでしょう。

4.2. コントロール・アドバイザーとしての価値を高める

これからの内部監査は、「不正リスクをいち早く発見し、経営や現場にアドバイスできるプロフェッショナル集団」であることが望まれます。そして、単に“不正を見つける”だけではなく、“そのリスクを減らすためのコントロール設計や組織文化醸成の提案”まで踏み込むことが、内外からの評価を高めるポイントです。

最後に、記事が示すように、グローバルの新基準では内部監査の責務や期待値がますます高まっていきます。日本の内部監査人としては、こうした世界的潮流を理解し、国内でありがちな「監査=単なるチェック」というイメージを変革する絶好の機会です。ぜひ、不正リスク対応を契機に、監査部門が経営にとって欠かせないパートナーであることを示していきましょう。


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(引用元:
“Internal Audit’s Increasing Role in Hunting for Fraud,” Internal Audit 360°.
https://internalaudit360.com/internal-audits-increasing-role-in-hunting-for-fraud/

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