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【内部監査の基礎知識】 内部監査のアウトソーシング・コソーシングの効果的な活用方法とは?
こんにちは、HIROです。私は現在、米国のシリコンバレーで「世界の内部監査のベストプラクティス」や「内部監査における生成AI活用」の研究とコンサルティング等に取り組んでいます。
今回は、「内部監査のアウトソーシング、コソーシング」についてお伝えしたいと思います。この記事を読むことで、アウトソーシング・コソーシングの基本的な概念から、そのメリット・デメリット、具体的な活用シーンと選定のポイント、そして最新のグローバル内部監査基準における位置づけまで、包括的に理解することができます。
1. 内部監査のアウトソーシング・コソーシングとは?
1.1. 基本的な概念
内部監査のアウトソーシングとは、自社の内部監査機能を外部の専門家やコンサルティング企業に委託する形態を指します。具体的には、監査の計画立案から実施、報告までを全面的に外部へ任せるパターンが一般的です。それに対して、コソーシング(Co-sourcing)とは、自社の内部監査部門が主体となりつつ、一部の監査作業や専門領域の監査を外部と共同で実施する形態を指します。たとえば、ITやサイバーセキュリティ、または海外子会社の監査など高度な専門性を要する部分を外部専門家に委託し、全体の統制は社内チームが担う、といったスタイルが代表的です。
1.2. なぜ注目されるのか?
近年、企業が海外に拠点を増やし、またIT技術やサイバーセキュリティ関連のリスクが急速に拡大する中、内部監査に求められる知識・スキルも高度化しています。しかし、十分な経験を持つ監査人材は限られているのが現状です。そこで、不足するリソースや専門性をカバーする手段として、アウトソーシングやコソーシングが注目を集めています。特に上場前のスタートアップ企業などは、内部監査部門を整備する余裕がなく、専門家に委託したほうが効率的というケースが増えています。
2. 内部監査のアウトソーシング・コソーシングのメリット
2.1. 内部監査人材の不足を補える
優秀な内部監査人材は、監査法人やコンサルティングファームなどが獲得競争を行っており、企業側で常に確保できるとは限りません。アウトソーシングであれば、専門家を必要な分だけ導入できるため、慢性的な人材不足を解消できます。コソーシングの場合も、足りないスキルやリソースを部分的に補強することで、内部監査部門の機能を維持・強化できます。
2.2. 専門性の高い領域に対応しやすい
サイバーセキュリティや海外子会社監査など、特定の分野では深い知見や国際的な法規制の理解が求められます。こうした領域は、社内だけで網羅するのが困難な場合が多いです。アウトソーシング・コソーシング先に経験豊富な専門家が揃っていれば、短期間で質の高い監査を行えるのが大きな強みです。
2.3. コストパフォーマンスの向上
内部監査担当を新たに1名雇用するより、アウトソーシングのほうが安く済む場合があります。上場前の企業などでは、上場要件を踏まえた内部監査の実施が必須ですが、その経験を持つ人材を雇用するのは容易ではありません。外部のプロフェッショナルを活用するほうが、コスト的にも時間的にもメリットが大きいといえます。
2.4. 上場前企業における要件対応
IPOを目指すスタートアップ企業にとって、内部監査体制の構築は上場審査上の重要事項です。しかし、上場準備の段階で豊富な内部監査経験を持つ人材を確保するのは難しく、給与や待遇面でも競争が激しくなります。そこでアウトソーシングを選択すれば、上場審査のノウハウを持つ専門家を迅速に確保できるため、スムーズに内部監査を進められる利点があります。
3. アウトソーシング・コソーシング先の選定方法
3.1. 会社ベースの選び方と、その落とし穴
一般的には、大手監査法人系コンサルタントや専門ファームなど、実績豊富な会社に委託するケースが多いです。ただし、会社の看板だけで選ぶと、アサインされる担当者によって品質が左右されるリスクがあります。大手に依頼しても、実務経験の浅いメンバーが来てしまえば、期待するレベルの監査が受けられないかもしれません。
3.2. 経験豊富な“個人”を基準に選ぶ
理想的なのは、実績のある監査人個人をベースに選定することです。コンサル会社の中でも、「誰が実際の業務を担当するのか」を事前に確認し、その人の過去のプロジェクトや業界理解、IPO支援実績などをしっかりチェックするのが望ましいでしょう。特に海外拠点の監査やサイバーセキュリティ領域は、実践経験がモノをいう場面が多いため、担当者のスキルに注目すべきです。
3.3. 自社の業界や事業フェーズへの理解
会社全体としては素晴らしい実績を持っていても、自社の業界や事業フェーズへの理解が不足しているケースもあります。スタートアップ企業であれば、柔軟でスピード感のある支援が求められ、リスク評価の優先度も変わってきます。だからこそ、事前に「当社と類似した業界や規模の企業を支援した実績はあるか?」「IPO支援や海外子会社監査の成功例はどの程度あるか?」などを確認し、適切なマッチングを図る必要があります。
4. 効果的な活用シーン
4.1. コソーシング:海外子会社や専門性の高い領域
コソーシングは、現地の事情に詳しい外部専門家を一部導入しつつ、社内監査部門が全体をコントロールする形態に向いています。たとえば、海外子会社監査では現地語や現地法規制の知識、文化的配慮が必要となることが多く、自社の内部監査部門だけでは対応しきれない場合が多いです。また、サイバーセキュリティや反贈収賄リスクなど、高い専門知識が求められる監査テーマにもコソーシングが有効です。
4.2. アウトソーシング:上場前の少人数体制での活用
一方、上場前や内部監査部門がまだ十分に整備されていない企業の場合は、アウトソーシングで丸ごと監査を任せる方法が有効です。社内に1名か2名、内部監査の窓口役(コーディネーター)を置いておけば、実質的な監査作業は外部専門家が担当してくれるため、現場の工数を大幅に削減できます。しかも、内部監査人1名を雇い続けるよりも、コスト面で抑えられるケースも多いです。
5. 最新基準が示すアウトソーシングの重要性
5.1. グローバル内部監査基準(2025年1月9日施行)における位置づけ
2025年1月9日に施行されたグローバル内部監査基準でも、監査資源の管理に関連して、十分なリソースがない場合の選択肢として外部サービス・プロバイダとの契約が明示されています。これは、国際的に見ても、内部監査で必要なスキルや人材をすべて社内で抱えるのは困難であり、外部リソースの活用が一般的な手段として認められていることを示しています。
5.2. 今後の動向
これにより、世界規模で見ると、アウトソーシングやコソーシングの利用がさらに拡大していくと考えられます。特にリモートワークの普及で地理的制約が緩和されたこともあり、多国籍チームによる共同監査や、時差を活用したグローバル監査体制など、新しい形態が出てくる可能性も高いでしょう。
6. まとめ
アウトソーシング・コソーシングは、内部監査リソースの不足や専門性の高まりに対応する上で非常に有効な手段です。特に上場を目指すスタートアップ企業、海外子会社の監査を強化したい企業、サイバーセキュリティなどの高度専門分野が必要な企業にとっては、大きなメリットがあります。
一方で、外部委託先の選定を誤ると、思うような成果を得られなかったり、担当者によって品質にばらつきが出たりするリスクも存在します。したがって、「どの会社に委託するか」ではなく、「具体的にどの専門家が担当するのか」「自社の業界や事業フェーズを十分に理解しているか」といった中身のマッチングを重視することが成功の秘訣です。
2025年に施行されたグローバル内部監査基準にもあるように、リソースが足りない場合に外部の力を借りるのはもはや世界的なトレンドです。自社の内部監査機能を効率的かつ効果的に運用するために、アウトソーシング・コソーシングを上手に活用してみてはいかがでしょうか。
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