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【世界一流の内部監査】第30回:世界で注目される内部監査ポッドキャストとは?

こんにちは、HIROです。私は現在、米国のシリコンバレーで「世界の内部監査のベストプラクティス」や「内部監査における生成AI活用」の研究とコンサルティングに取り組んでいます。このシリーズでは、日本の内部監査人が普段触れる機会の少ない「世界の内部監査」に関する最新情報を、迅速かつ分かりやすくお届けします。特に、アメリカの内部監査はその進化が日本より10年以上先を行くと言われており、非常に参考になるケースが多いと感じています。今回は、2024年に最も注目された内部監査のポッドキャストエピソードについてお伝えします。この記事を読むことで、最新の監査トレンドや技術の進化について理解することができます。

1. 2024年の人気監査ポッドキャスト トップ5

1.1. 「All Things Internal Audit」の人気エピソード

米国IIA(内部監査人協会)が運営するポッドキャスト「All Things Internal Audit」は、最新の監査トレンドやベストプラクティスを紹介する人気シリーズです。2024年は、AIの活用、ESG監査、量子コンピューティング、金融犯罪対策など、多様なテーマが取り上げられました。

Catherine Brown氏による「On the Frontlines: Top 5 Podcast Episodes of the Year」では、2024年の最も再生された5つのエピソードが紹介されています。それぞれの内容を詳しく見ていきましょう。

1.2. 2024年のトップ5エピソード

1位: AI Auditing Framework

 「2024年で最もストリーミング数が多かったエピソードは、AIと内部監査の融合を扱った回でした。The IIA(内部監査人協会)が2023年末に公開した更新版のAI Auditing Frameworkをテーマに、ロバート・ペレス氏が、フレームワーク改訂に携わったジョージ・バーハム氏をゲストに迎えて議論を深めています。AI技術の進化に伴い、リスク評価やコントロール手法を再定義する必要性が高まっていることが強調され、その重要なポイントを4つのパートに整理して解説している点が特徴的です。内部監査におけるAI活用のリスク評価手順を明確化することで、組織が抱える潜在的リスクをより正確に洗い出せる可能性が見えてきたといえるでしょう。」

2位: AIガバナンスと倫理

 「2番目に人気を博したエピソードもAIが主役です。AIツールを内部監査で活用する際のガバナンスや倫理的な課題にフォーカスし、2024年のGAM(General Audit Management)カンファレンスでインタビューされた各社のエキスパートが登場。『AIは便利である一方、誤用すれば大きなリスクにつながる』というメッセージが繰り返し強調されていました。組織外部のAIツールを活用する際のデータ管理や安全保障上の懸念、さらにはAIが決定した評価結果が“倫理的に”妥当であるかを検証するプロセスをどう構築するか、といった具体的な論点が取り上げられています。」

3位: グリーンウォッシングの実態

 「ここで一転、AI以外のテーマとして浮上したのがグリーンウォッシングに関するエピソードです。グリーンウォッシングとは、企業が“環境に配慮している”と見せかける宣伝や報告を行いつつ、実際には十分な環境対策がなされていないケースを指します。番組では、内部監査の専門家だけでなく、コンプライアンスや法律の専門家も招き、企業がどのようにグリーンウォッシングを無自覚に行ってしまうのか、そしてそれが金融リスクや法的リスク、さらにはレピュテーション・リスクにどう繋がるのかを具体例を交えて解説しています。日本でもESG(環境・社会・ガバナンス)投資やサステナビリティ報告が注目される中、このような監査観点の重要性は急速に高まっていると言えるでしょう。」

4位: 量子コンピューティングが監査に与える影響

 「第4位にランクインしたのは、量子コンピューティングをめぐるエピソードです。一見、“未来技術”という印象が強い量子コンピュータですが、スーパーコンピュータが数千年かかる計算を短時間で解くポテンシャルを持つため、内部監査にとっては決して他人事ではありません。ポッドキャストでは、量子コンピューティングの基本原理や、その破壊的な演算能力がセキュリティ・リスクやデータ分析手法にどのようなインパクトを与えるかが議論されています。たとえば、暗号技術は量子計算の発展により形骸化してしまう可能性があるため、企業の情報セキュリティや内部統制を再度見直す必要が出てくるのです。」

5位: AIと金融犯罪対策

 「トップ5の締めくくりとして再びAIが登場しますが、焦点は“金融犯罪”です。AIは金融業界でも極めて有用なツールですが、同時にAIを駆使した新手の不正も出現しています。このエピソードでは、内部監査人がAIをどう活用して不正検知やリスクアセスメントを強化するか、また犯罪者がAIを使う場合どのようなパターンが想定されるのか、というリアルなやり取りが展開されます。AIの高性能化により、従来の監査手法では対応しきれない高度な手口が増えているため、内部監査部門もツールの活用やスキルアップが急務といえます。」


2. 日本の内部監査へのインパクトと展望

2.1. AIリスクと倫理規定

 「今回のランキングで明らかなように、AIは監査やビジネスの在り方そのものを根底から揺るがす要素を持っています。日本の内部監査においても、AIガバナンスの枠組みやデータ管理方針、そしてAIが下した結論に対する人間の判断がどの程度介在すべきか、といった論点を早急に検討する必要があるでしょう。実際に私が米国の企業とやり取りしていると、日本以上に厳格なガバナンス体制や、外部ベンダーと連携したリスクモニタリングが実装されているケースを多く見かけます。AIを『ブラックボックス』として扱うのではなく、“説明責任”を果たせる仕組みをどう作るかが鍵です。」

2.2. サステナビリティ監査における留意点

 「グリーンウォッシングの話題は、日本の企業がいよいよ本格的にESG情報開示を進める段階において非常に示唆的です。私自身、クライアント企業のサステナビリティ報告を監査する場面が増えてきていますが、証拠書類やデータ測定の信頼性を担保するためのプロセス設計が曖昧で、意図せずグリーンウォッシング的な表現になっている事例を目にすることが少なくありません。内部監査部門としては、ESG報告のための内部統制を可視化し、ステークホルダーに対する情報開示の正確性や網羅性をチェックする機能を強化することが求められるでしょう。」

2.3. 新技術との向き合い方

 「量子コンピューティングについては、まだすぐに導入を検討するフェーズではない企業が多いかもしれません。しかし、技術の進歩が爆発的に加速する中、『気づいたら業界スタンダードが大きく変わっていた』という事態になり得ます。特に量子コンピュータの計算能力が暗号基盤を脅かすリスクは、金融機関のみならず幅広い業種に影響を及ぼす可能性が高いです。私のコンサル経験上、今から量子耐性のある暗号への移行シナリオを想定しておく企業が増えてきています。内部監査人は自社のIT部門やセキュリティ部門と連携して、技術やリスクの勉強を怠らずキャッチアップしていくことが大切です。」

2.4. 金融犯罪対策の強化

 「AIを使った金融犯罪は、AIを逆手に取った不正検知の高度化によってある程度対処が可能とはいえ、攻守がいたちごっこである点が厄介です。私がコンサルとして関わったある米国の金融機関でも、SNS上のビッグデータをAIが解析して不正の兆候を探知する仕組みを導入する一方、犯罪者側はより巧妙な手口をAIで創出するという激しい攻防が存在しました。日本の金融機関や関連業界も、このAIを使ったハイレベルの“サイバー犯罪”に対処するべく、内部監査部門が先頭に立って管理体制をチェックし、最新のツール導入を提案していく必要があります。内部監査は、単なる監査手続きの実行だけでなく、“リスクを察知して予防策を提示する”役割へシフトしていくことが求められるでしょう。」


3. まとめ

3.1. 2024年の監査トレンドを押さえる

今回紹介したポッドキャストの内容から、2024年の内部監査の主要トピックは以下の3点に集約されます:

  • AIの活用とガバナンス(監査の自動化、リスク評価の強化)

  • ESG監査の進化(グリーンウォッシングの監視、環境報告の信頼性確保)

  • 次世代技術の監査適用(量子コンピュータの影響、金融犯罪対策)

3.2. 監査の未来に備えよう

内部監査の世界は急速に変化しています。AIや量子コンピュータのような新技術を適切に監査できるよう、監査人自身が学び続け、スキルをアップデートすることが不可欠です。


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引用元:
Catherine Brown, "On the Frontlines: Top 5 Podcast Episodes of the Year," Voices. Internal Auditor, January 2025.
https://internalauditor.theiia.org/en/voices/2025/january/on-the-frontlines-top-5-podcast-episodes-of-the-year/

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