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【AI×IAシリーズ - 基礎編】第1回:生成AIとは何か ─ 内部監査が押さえるべき基本概念

こんにちは、HIROです。私は現在シリコンバレーで「内部監査における生成AI活用」の研究とコンサルティングをしています。今日は内部監査領域で押さえておきたい「生成AI」の基本概念についてお伝えします。
本シリーズでは、内部監査における生成AI活用に関して、基礎から応用、リスク管理、規制対応、将来展望までを段階的に解説していきます。
第1回目となる今回は、そもそも「生成AI(Generative AI)」とは何なのか、代表的なモデルや注意点、従来ツールとの違いを整理していきます。内部監査人として知っておくべき基礎知識をしっかり固めることが、今後の活用で大きな差を生みます。それでは、解説していきます。


1. LLM(Large Language Model)の基本的な理解

1.1. LLMの仕組み

生成AIとは、人間が行う「文章生成」や「アイデア創出」を人工知能が模倣する技術の総称です。その中核をなすのがLLM(Large Language Model)で、大量のテキストデータから言語パターンを学習し、文脈に応じた自然な文章を生成することが可能です。
イメージとしては、ありとあらゆる書籍やウェブ上の記事を「読み込んだ」上で、質問に答えたり、要約したり、新たなアイデアを出したりする「超優秀な文筆アシスタント」を想像してください。もちろん実際には機械学習アルゴリズムによって統計的なパターンを抽出しているのですが、結果として「言語を理解している」かのように見える振る舞いをします。

1.2. 代表的モデル

有名どころとしては、ChatGPT(OpenAI)、Claude(Anthropic)、Gemini(Google)、Perplexity AIなど多種多様なモデルが登場しています。これらは日々進化しており、モデルごとに得意分野が異なります。
たとえば、ChatGPTは汎用的な対話特化型モデルで、幅広いトピックに対応。Claudeは倫理的配慮を強化して誤情報を減らす工夫があるとされ、Perplexityは情報検索を得意とするなど、モデルごとの「個性」を理解することでより的確な活用が可能になります。

1.3. LLMが注目される背景

これまでのAIは、特定タスクに最適化された「狭いAI」でした。しかしLLMは、学習データが極めて膨大なため、ユーザーのプロンプト(命令文)次第で多様なニーズに応えられる「汎用性」を備えています。
内部監査で考えれば、膨大な過去報告書や規程類から必要な情報を抽出して整理したり、監査計画の立案で論点を洗い出したり、膨大な資料に埋もれた潜在リスクを文脈的に示唆したりと、まるで「優秀なチームメンバー」が加わるような感覚を提供します。


2. ハルシネーションとモデルバイアス ─ 信頼性を揺るがす要因

2.1. ハルシネーションとは?

LLMは「それっぽい」文章を巧みに紡ぎ出しますが、必ずしも事実に忠実とは限りません。ときに不存在の情報をあたかも事実のように語る現象を「ハルシネーション」と呼びます。
たとえば、「この会社の2020年度財務諸表ではXという不備がありましたか?」と問うと、LLMは根拠資料なしに「はい、そのような不備がありました」と答えてしまうことがあります。これは、モデルが言語パターンを予測するプロセスで、それっぽい文脈を選択してしまうからです。

2.2. モデルバイアスの影響

また、学習データに偏りがあれば、モデルが特定の結論や立場を過度に支持する「バイアス」が生じます。
内部監査で例えるなら、特定の国や業界に関するデータが少なければ、モデルはその分野に関して不正確な情報や差別的な表現を提示する可能性があります。監査人は、モデル出力を絶対的な真実として扱わず、常に一次情報や他の情報源と突き合わせる必要があります。

2.3. 監査実務での注意点

内部監査でLLMを活用する際は、モデルが示した指摘事項や論点を「参考情報」と位置づけるにとどめ、最終判断は人間である監査人が下すことが重要です。
たとえるなら、優秀なメンバーが「これ気になるけど、調べてみる価値あるんじゃない?」と提案してくれた感覚。その提案が正しいかどうかは、やはり監査人自身が社内文書や関連規定にあたる、ステークホルダーへ質問するなど、追加検証していくことが欠かせません。


3. 従来ツールとの違い ─ RPA・統計分析ツールとの比較

3.1. RPAとの比較

RPA(Robotic Process Automation)はルールベースで定型処理を自動化する技術です。特定の手順に沿って作業を繰り返す点は優れますが、新しい発想を生み出すことは苦手です。
一方、LLMを使った生成AIは、曖昧な要求にも柔軟に対応し、過去にないパターンを組み合わせて「新たな知見」を創出します。RPAが「正確な事務作業者」だとすれば、生成AIは「クリエイティブなアシスタント」と表現できます。

3.2. 統計分析ツールとの比較

従来の統計分析ツールやBIツールは、数値データをもとにグラフや指標を提示し、そこから人間がインサイトを得る流れです。
生成AIは、定量情報に加え、長文テキストや微妙なニュアンスを理解し、より自然言語に近い表現で「示唆」を与えることができます。統計ツールはあくまで判断の素材を提供する一方で、生成AIは言語的な理解力で、判断材料をストーリーとして紡ぎ出す役割も担えるのです。

3.3. LLMが内部監査で期待される新たな価値

例えば、監査報告書を要約して経営層向けにポイントを整理したり、過去5年分の在庫管理関連の監査調書から共通リスクを洗い出すなど、定性情報を整理・構造化する作業は、従来ツールでは難しかった領域です。
生成AIは、内部監査人が「この膨大な情報を一望して、何がポイントなのか?」と悩む場面で頼れるツールとなりえます。視界不良の海を航海するとき、AIが光を当てて潜在的な暗礁を浮かび上がらせてくれるイメージです。


4. 内部監査人として理解しておきたいポイント

4.1. 基本用語の整理(プロンプト、トークン、学習データ)

「プロンプト」とはモデルに指示を与える命令文のこと。質問の仕方や指示内容によって出力品質は大きく変わります。また、文章は「トークン」という最小単位に分解され、モデルはトークン列の確率分布を予測します。
学習データは、モデルが知識を獲得した「過去の文章群」ですが、その範囲はモデルごとに違い、学習時期までの情報しか知らない点に留意が必要です。

4.2. 導入前に知っておくべき組織的・倫理的配慮

AIが生成した文章はあくまで参考情報。社内機密データを外部のクラウドAIに入力する際は、情報流出リスクに留意することが大切です。また、モデルバイアスによる差別的な表現が出力されないよう、組織としてポリシーやチェック手続きを用意することも必要。
単にツールを使うのではなく、「このツールをどう使えば組織に益をもたらし、リスクを最小化できるか」を考える姿勢が不可欠です。

4.3. 日常的な応用のヒント

例えば、日々の内部監査で膨大な議事録や規定集に目を通す作業は非常に骨が折れます。しかし、生成AIに「この会議録から、在庫管理に関する論点を3つ箇条書きでまとめて」と指示すれば、数秒でエッセンスを提示するかもしれません。
その後、監査人は提示された3つの論点を「なるほど、ではこの中で最もリスクが高いのはどれか?追加でヒアリングする必要があるか?」と深掘りできます。AIが導入されると、監査人はルーティン業務を削減し、本質的な判断や分析に集中できるようになるのです。


5. まとめと今後の展望

5.1. 生成AIが広げる監査領域

今回お伝えしたように、生成AIは内部監査の業務効率化や洞察の質的向上に大きく貢献し得ます。ただし、ハルシネーションやバイアスなどのリスクもあるため、盲信は禁物。あくまで人間が判断の最終責任を持つことが前提です。
この技術がさらに進化していけば、リアルタイムで監査対象データを分析し、潜在リスクを先回りして知らせてくれる未来もそう遠くありません。

5.2. 次回予告

次回の記事では、なぜ内部監査に生成AIが求められるのかについて説明します。具体的な活用方法の話に入る前に、まずは改めてその必要性から考えていきたいと思います。
この記事は内部監査業界の発展のために、完全に無料でボランティア的に記事を書いているので、「いいね」や「フォロー」で応援いただけると励みになります。それでは、次回の記事でお会いしましょう!

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