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【世界一流の内部監査】第34回:内部監査リーダーは誰をボスと呼ぶべきか?

こんにちは、HIROです。私は現在、米国のシリコンバレーで「世界の内部監査のベストプラクティス」や「内部監査における生成AI活用」の研究とコンサルティングに取り組んでいます。
このシリーズでは、日本の内部監査人が普段触れる機会の少ない「世界の内部監査」に関する最新情報を、迅速かつ分かりやすくお届けします。特に、アメリカの内部監査はその進化が日本より10年以上先を行くと言われており、非常に参考になるケースが多いと感じています。
今回は、「内部監査部門のリーダーは誰に報告すべきか?」という非常に根本的なテーマについてお伝えしたいと思います。この記事を読むことで、内部監査のレポーティングラインをどのように設定すべきか、その現状とメリット・デメリットを理解することができます。


1. レポーティングラインの在り方はなぜ議論されるのか?

1.1. 記事の概要:内部監査のユニークな立ち位置

 今回参考にしたのは、InternalAudit360.comに掲載されたハル・ガリン(Hal Garyn)氏による「Reporting Lines: Whom Should Internal Audit Leaders Call Boss?」(2024年12月5日付)という記事です。内部監査の最高責任者(CAE)は多くの企業でエグゼクティブ・チームの一員として扱われる一方、実際には監査を通じてエグゼクティブ自身やその部門を検証するという複雑な役割を担っています。
 これまでは、内部監査の起源が会計・財務部門にあることから、CAEのレポーティングラインはCFOに向かうケースが主流でした。しかし近年では、CEOに直接報告するケースも増えつつあります。あるいは、リスク管理部門(CRO)や法務部門(GC/CLO)がボス役を担う企業も存在します。

1.2. 新たな統計データとIIAのスタンス

 記事によると、IIA(国際内部監査人協会)の2024年版北米パルスオブ内部監査レポートでは、レポーティングラインとして41%がCFO、37%がCEOとなっています。特に金融サービス業や公共セクターでは、CEOへの報告が多いことが注目ポイントです。さらに、IIAが新たにリリースしたグローバル内部監査基準(Global Internal Audit Standards)では、「CEOあるいは同等の最高責任者が望ましいが、別の上級管理職への報告が組織上適切であればそれも認める」というスタンスが示されています。つまり、IIAとしてはCEO報告を推奨しているものの、現実には柔軟な運用を容認していると言えるでしょう。


2. レポーティングラインに関する4つの主要パターンと考察

2.1. CEOへ報告するメリットとデメリット

2.1.1. メリット
 - 独立性の確保: CEOへ直接報告することで、CFOや法務など特定部門の影響を受けにくくなります。内部監査の目的である「組織全体を俯瞰する視点」を保ちやすく、監査対象に自分のボスが含まれるリスクが減少するのは大きな利点です。
 - 組織内での地位向上: CEO直轄であることは社内的に「内部監査は戦略的にも重要だ」というメッセージを発信します。これにより他のCXOクラスからの情報アクセスや協力を得やすくなり、監査結果の受容度も高まる傾向にあります。

2.1.2. デメリット
 - 時間的リソースの制約: CEOは企業経営全般を担っており、多忙を極めるケースがほとんどです。CAEとしては、こまめな相談や指示を仰ぎたい場面でCEOの時間を確保できない可能性があります。
 - リーダーシップの育成機会: CFOと比べると、CEOは内部監査特有の知識やノウハウに深く踏み込んでコーチングを行う時間を取りにくいかもしれません。CAのキャリア形成を支援する体制が整いづらい恐れがあります。

2.2. CFOへ報告するメリットとデメリット

2.2.1. メリット
 - 歴史的背景と業務範囲の近さ: 内部監査はもともと財務報告の正確性やコンプライアンス確認から発祥した経緯があり、依然として多くの監査領域がCFOの担当領域と密接です。共同作業や情報共有がスムーズになりやすいでしょう。
 - CEOが望む構造: 経営トップから見ると、監査委員会や外部監査との連携を担うことの多いCFOと内部監査の連携を重視するケースが多く、CFOへの報告ラインを維持したがる傾向もあります。

2.2.2. デメリット
 - 独立性の懸念: CFOの管轄領域を監査する際に、CFOが無意識に影響力を及ぼしたり、情報をコントロールしたりするリスクがあります。直接的な圧力というより、「報告タイミングを調整する」といった微妙な干渉が生じやすいです。
 - 監査結果の透明性に影響: CFOがフィルタリング役となり、監査委員会や取締役会への情報伝達が遅れる、あるいは内容が意図せず改変されるリスクもゼロではありません。

2.3. CRO(Chief Risk Officer)へ報告するケース

 金融機関などリスク管理が重要視される業界では、CAEがCROに報告することも一部見られます。リスク関連の部署同士が協力しやすくなるというメリットがありますが、一方でCROがリスク評価の考え方を監査チームに押し付ける形となり得る懸念も指摘されています。また、「第2線(リスク管理)」と「第3線(内部監査)」を同一組織体制下に置くことが、独立性や客観性を損ないかねないという声もあるのです。

2.4. CLO/GC(Chief Legal Officer / General Counsel)へ報告するケース

 コンプライアンス重視の業態や、法務部門が巨大な権限を持つ組織では、CAEがGCに報告するというパターンも考えられます。ただし、法務部門は「法的リスクから組織を守る」ことが主眼であり、監査部門が求める「問題の積極的な開示やエスカレーション」と利益が対立する場面が起こりやすいです。GCが情報をコントロールし、組織の“表面的なリスク低減”を優先するあまり、監査としての真の目的が達成できない恐れがあります。


3. 日本の内部監査人への示唆:組織文化と人間関係が鍵

3.1. 理想と現実のギャップをどう埋めるか

 「CEO直轄が理想」というのは、内部監査に従事している方なら一度は耳にしたことがあるでしょう。独立性とステータスが確保され、監査の影響力が高まるというメリットが明快だからです。しかし、ハル・ガリン氏も強調するように、企業文化やトップの性格、人材の相性、組織内政治などの現実面を無視して理想論だけを押し通すことは難しい場合が多いです。
 私自身、様々な企業とのプロジェクトに携わってきた経験から、CEOが監査部門と密接に連携して成功を収めたケースもあれば、CFOとの信頼関係が強固でむしろ効率よく監査が回っている組織も見てきました。要は「誰がどの役職を担っているのか」「どれだけお互いの役割を理解し、尊重し合えるか」がカギと言えます。

3.2. 日本企業でよくある「CFO報告」の事例

 日本企業の場合、内部監査部門と財務・経理部門との結び付きが依然として強いことが多く、CFO報告の形態が未だに多いといえるでしょう。一方で、経営トップが非常に現場志向で「数字以外のリスク」にも関心がある場合は、CAEを直接管理するケースもあります。特に、ITリスクやサプライチェーンリスクが経営に直結する状況では、CEO直轄の形態が増える可能性も高いと考えられます。

3.3. 役割分担と情報共有のポイント

 - 機能的報告(ボード・監査委員会)との二重構造: レポーティングラインがCFOやCLOであっても、監査委員会への機能的報告を確保することで独立性を担保する仕組みは不変です。日本でも監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社など、ガバナンス形態によって報告経路が異なる場合がありますが、重要なのは「ボードや取締役会との直接的対話をどれだけ確保できるか」です。
 - コミュニケーション頻度と透明性: ガリン氏が述べるように、ボス側(CFOやCEOなど)とCAEの相互理解と尊重が欠かせません。CAEが過度に“構ってちゃん”状態になるのは問題ですが、逆にボスがCAEを軽視してしまえば、監査部門が必要とする情報やリソースが得られません。定期的なミーティングの場を設け、リスクや課題をオープンに話し合える文化づくりが大切です。

3.4. 将来的視点:人事異動とレポーティングラインの変化

 日本企業では、人事異動によってCFOやCEOが入れ替わることもしばしばあります。前任者が監査を理解していても、後任者が全く理解を示さないケースも起こり得ます。企業文化自体を変えることは短期では難しいですが、レポーティングラインを固定化しすぎず、「最適な形を都度検討し直す」柔軟な姿勢が求められます。
 現状でレポーティングラインがうまく機能していないならば、組織改編のタイミングや、トップマネジメントが交代する機会を見計らって、CEO直轄に再編することも選択肢の一つでしょう。逆に、CEOがあまりにも忙しすぎる場合、CFOや別のエグゼクティブの元でしっかりサポートを受けるという方が実践上は合理的かもしれません。


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それでは、次回の記事でお会いしましょう!


引用元:
Hal Garyn, “Reporting Lines: Whom Should Internal Audit Leaders Call Boss?” (December 5, 2024)
https://internalaudit360.com/reporting-lines-whom-should-internal-audit-leaders-call-boss/

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