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【AI×IAシリーズ】第15回:AI導入時のデータガバナンスの重要性とは?
こんにちは、HIROです。私は現在、米国のシリコンバレーで「世界の内部監査のベストプラクティス」や「内部監査における生成AI活用」の研究とコンサルティングに取り組んでいます。
このシリーズでは、内部監査における生成AIの活用に関して、基礎から応用、リスク管理、規制対応、将来展望まで幅広くに解説していきます。
今回は、企業のトップがAIを導入するうえで必ず押さえておくべき「データガバナンス」に関してお伝えしたいと思います。この記事を読むことで、AI導入時のリスクやガバナンスの重要性について理解することができます。
1. データガバナンスを欠くと「AI導入」がギャンブルになる?
1.1. 記事の概要:CEOが“AI導入”を急ぐ背景とそのリスク
今回参考にしたのは、Forbesに掲載されたゲイリー・ドレニック氏(Gary Drenik)の記事「The High-Stakes Gamble For Today’s CEOs – Going In Blindly With AI(2025年1月9日付)」です。タイトルにもあるように、多くの企業トップがAIの導入を「いわば危ういギャンブルのように進めている」現状が指摘されています。
なぜ「ギャンブル」なのか。その理由として、AI導入に不可欠な「データガバナンス」の整備が追いついていないことが挙げられます。データガバナンスとは、企業が扱うデータの品質、管理方法、利用ポリシーなどを体系的にルール化し、倫理的かつ安全に運用する仕組みのことです。記事によると、新たな調査結果では32%のビジネスリーダーがAI導入を急ぎすぎ、49%が「自社がAIを責任を持って使える体制が整っていない」と回答しているとのこと。こうした数字からもわかるように、組織的なサポート体制なしにAIを走らせてしまうことが、大きなリスクにつながっています。
1.2. データ品質が命運を左右する:具体的な事例
記事は、データ品質や倫理面の不備により引き起こされた具体的な失敗例をいくつか挙げています。
たとえば2023年、オンライン教育サービスの企業iTutor Groupで、AIを用いた採用プロセスにおいて多数の応募者が「年齢」という要素だけで自動的に不採用とされるという事件が起きました。同社は訴訟に発展し、最終的に約36万5千ドルの支払いで和解に至っています。
また、ある自動車ブランド(Chevy)のチャットボットにいたずらを仕掛けたユーザーによって問題を露呈した例も紹介されています。こちらは大事に至る前に迅速な対応を行い、大きな損失を免れたとのことです。
これらの事例が示すのは、「AIのアルゴリズムをどう設計し、どんなデータを入力するか」が企業の評判や財務に直結するという厳しい現実です。AIが間違った判断を下す原因の多くは、“データのバイアス”や“不適切なデータ処理”にあるといえます。
1.3. データインフラ整備とガバナンス体制
記事によれば、AI導入の際に企業が真っ先に取り組むべきなのがデータインフラの整備とガバナンスです。しかし、Salesforceの調査では「経営陣の多くがAIの重要性を理解していながら、実際にAIを本格的に導入できているのはわずか11%」という結果が出ています。その理由の一つが「情報セキュリティやデータ管理体制が整わないまま、先端技術導入だけが先走ってしまう」構造にある、と指摘されています。
AIであれどんなデジタルトランスフォーメーション(DX)であれ、“データ”という基礎がしっかりしなければ危うい橋を渡ることになるというわけです。さらに、データ監査や品質チェックを継続的に行う仕組みづくり、業務部門とIT部門、そしてセキュリティ部門が密に連携して透明性を確保する体制が求められます。
1.4. AI活用の「ルールブック」を作る
記事では、急務として「AIに関するプレイブック(運用指針)」を作り、それを経営層が率先して守るべきだと提言しています。具体的な要素として、
従業員および経営陣を対象としたAIリテラシー向上の研修
データ品質保証プロセスの構築(定期的なクリーニングや品質チェックを含む)
セキュリティ・プライバシーポリシーの刷新(アクセスコントロールや暗号化、モニタリング体制)
メタデータ管理ツールへの投資(どんなデータがどう使われているかを可視化)
などを挙げています。こうした施策を確立しなければ、AIの進化速度に組織が振り回され、結果的に大きなダメージを被るリスクが高まる、という論調です。
2. 日本の内部監査人が押さえるべきポイント
2.1. データガバナンスこそ“内部監査の腕の見せどころ”
日本企業でもDXやAI活用が叫ばれて久しいですが、経営層や現場が「とりあえずAIを使いたい」と先に走り出し、監査部門が後追いでリスク管理を強いられるケースは少なくありません。しかし、本来の内部監査の役割は「組織のガバナンスやリスク管理が適切に機能しているかを評価し、必要な提言を行う」ことです。AI導入の計画段階から内部監査が関与し、“データ品質や利用方針に潜む問題点”を早期に洗い出すことが重要になります。
たとえば、私がコンサルティングに関わったある製造業の事例でも、海外拠点ごとにフォーマットの異なる顧客データを混在してAIに読み込ませようとしていました。その結果、一部のデータが欠損、あるいは重複し、意思決定の精度を大きく落としてしまうリスクがありました。そこに内部監査が介入し、ガバナンス強化と標準化の必要性を指摘したことで、AI導入の方向性を修正できたのです。
2.2. 倫理リスクを把握する:現場視点の監査アプローチ
記事でも触れられているとおり、AIが生み出すリスクには「バイアス」や「不当な差別」が含まれます。年齢や性別、国籍などのデータ項目が不適切に扱われると、差別的な結果を助長する可能性があります。
内部監査人としては、システム監査やデータ解析の知識だけでなく、法的・社会的なリスクを視野に入れたモニタリングが不可欠です。たとえば採用システムにAIを導入する場合、訓練データに年齢層が偏っていないか、潜在的な偏見を誘発する要素が含まれていないかを点検し、経営陣に報告する必要があります。これには人権問題やコンプライアンスの観点も絡むため、他部門との連携を密に行うことがカギとなるでしょう。
2.3. AI導入前に求められる内部統制再構築
AIを導入する段階で、内部統制自体をアップデートする必要があります。というのも、AI活用が進むほど業務プロセスの自動化が進展し、従来のヒューマンチェックだけではリスクを捕捉しきれなくなるからです。
具体的には、
AIモデルの開発プロセスにおけるステージゲート(設計→検証→導入→改善)の整備
モデルのバージョン管理や再学習(リトレーニング)の履歴管理
データセットの由来(データソース)と品質監査の定期的実施
など、新しいルールを内部統制フローに埋め込む必要があります。ここで内部監査の役割が大きくなるのは言うまでもありません。たとえば「AI判断の根拠を人間が追跡できる状態に維持する」という要求は、多くの企業で実現が難しいとされます。しかし内部監査としては、いわゆる「説明可能なAI(Explainable AI)」の概念を最低限意識し、どの程度までの説明責任が求められるかを明確化しておくことが大切です。
2.4. 社員教育と継続的改善へのモチベーション
経営層のみならず、中間管理職や現場レベルで「AIとは何か」「どこまでが安全な範囲か」を理解する教育が必要になります。たとえば、AIが提示した数値だけを鵜呑みにして意思決定するのではなく、「本当にこの結果は妥当か?」と疑問を持てるかどうかが、バイアス防止やミス防止の第一歩です。
私自身も企業とのやり取りのなかで、AIに強いリテラシーを持った人材が現場にしっかり根付いている企業ほど、監査プロセスがスムーズで、問題が起きたときのリカバリー速度が速いことを感じます。逆に“AI担当は一部の専門家に任せればいい”という風土の企業では、現場レベルで誤った使い方が横行し、リスクマネジメントに支障をきたす傾向があります。
内部監査人としては、企業全体を見渡し、AIを安全かつ効果的に活用するための「学習機会の提供」や「運用ルールの点検と改定」を継続的にリードしていくことが求められます。AI導入は単発のプロジェクトではなく、ビジネス変革そのものです。だからこそ、末端まで浸透したガバナンスと教育体制こそが、その変革を成功に導く鍵になるのです。
この記事は内部監査業界の発展のために、無料で記事を投稿しているので、「いいね」や「フォロー」で応援いただけると励みになります。
それでは、次回の記事でお会いしましょう!
引用元:
Gary Drenik, “The High-Stakes Gamble For Today’s CEOs – Going In Blindly With AI,” Forbes (January 9, 2025)
https://www.forbes.com/sites/garydrenik/2025/01/09/the-high-stakes-gamble-for-todays-ceos--going-in-blindly-with-ai/