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【AI×IAシリーズ - 基礎編】第3回:内部監査プロセス全体と生成AI導入の俯瞰

こんにちは、HIROです。私は現在シリコンバレーで「内部監査における生成AI活用」について研究およびコンサルティング活動を行っています。
今回は【AI×IAシリーズ - 基礎編】の第3回として、「内部監査プロセスを俯瞰し、生成AIがどのフェーズで効果を発揮できるか」についての概要をお伝えします。この記事をお読みいただくことで、「内部監査のどのプロセスで生成AIを活用すべきか」を明確にイメージできるようになるはずです。


1. 内部監査プロセスを分解して考える

1.1. 計画、実施、報告、フォローアップ──4つの基本フェーズ

内部監査は大きく分けて「計画」「実施」「報告」「フォローアップ」という4つのフェーズで構成されます。これは多くの組織で共通する流れで、いわば内部監査という一連の“旅路”の地図のようなものです。
計画フェーズでは、監査対象の選定やリスク評価を行い、監査範囲や手続を明確にします。実施フェーズで、監査チームは証拠収集やインタビュー、データ分析などを行い、問題点や改善余地を洗い出します。報告フェーズでは、その発見事項を整理し、経営層や監査委員会に対してわかりやすく伝達します。そして、フォローアップフェーズで、指摘事項に対する改善策が適切に実行されたかを追跡・検証するわけです。
このプロセス自体は長年変わらず、多くの内部監査人が「いかに効率的かつ高品質にこの流れを回せるか」と格闘してきました。

1.2. なぜ生成AIが注目されるのか

生成AIは、膨大なテキストデータを瞬時に要約したり、新たな示唆を与えたり、既存ワークフローの中でブースターのような役割を果たせる可能性があります。
シリコンバレーで私がコンサルティングしているある企業では、過去3年分の監査報告書を生成AIで分析し、「繰り返し指摘されている潜在的リスク領域」を抽出しました。それまで分析に何日も費やしていた作業が、わずか数十分で“整理された知見”へと変わったのです。
また、フィールドワークにおいて、インタビューから調書・報告書作成までの一連のプロセスで生成AIを活用することで、文字起こし~翻訳~要約~報告書作成を自動化し、作業時間を70-80%削減できた事例もあります。


2. 計画フェーズでの生成AI活用

2.1. リスク評価支援と監査範囲設定

計画段階で最も骨が折れるのは、膨大な社内規程、過去の監査報告、業界動向、法規制要件などを読み解きながら「どの領域を重点的に監査すべきか」を見定める作業です。
ここで生成AIを活用すれば、「過去5年分の監査報告書から、繰り返し発生した不備項目」を瞬時に要約させたり、「新たに施行された法規則がどの業務領域に影響するか」を問いかけることで、リスク評価の精度とスピードが格段に向上します。
たとえば、ある金融系企業では、内部監査計画を立てる際に生成AIを使い、最新の国際規制や内部統制フレームワーク等を参照しながら、「最もリスクが高まっている領域」を特定しました。その結果、計画立案の初期段階からリスク感度の高い監査範囲設定が可能になったのです。

2.2. 参考資料の自動要約とチェックリスト生成

計画フェーズでは、監査手続を策定するための参考資料が山ほどあります。従来は、これらを一つひとつ読んで要点を整理する必要がありましたが、生成AIなら「この規程集から在庫管理に関連する内部統制要件をピックアップして」と指示すれば、即座に箇条書きで抽出してくれます。
これにより、監査チームは「読む時間」から「戦略的判断を下す時間」へとリソースをシフトでき、計画フェーズ全体がスマートになります。


3. 実施フェーズでの生成AI活用

3.1. 証拠収集・インタビュー準備の効率化

実施フェーズでは、現場担当者へのインタビューや多種多様な証拠書類のレビューが不可欠です。生成AIを活用すれば、被監査部門の過去の課題や特性を素早く整理できます。
「この部門が直近3年で繰り返し受けた指摘事項は?」といった問いかけに、生成AIは瞬時に回答。これにより、インタビュー前に押さえるべき論点が明確になり、「あれもこれも確認しなければ」と無計画に質問を重ねる非効率さを削減できます。

3.2. ドキュメントレビューのスピードアップ

大量の契約書、稟議書、報告資料からリスクに関するキーワードを拾い出したり、特定プロセスに関する記述箇所を要約させたりすることで、証拠収集が一気に加速します。
実際、ある製造業企業の内部監査チームは、数百ページにわたる品質管理記録を生成AIで要約し、品質上の潜在リスクを抽出。それまで1週間かかっていたレビューを、実質半分以下の時間で終えることに成功しています。

3.3. インタビュー・課題抽出の効率化

フィールドワークでは、経営陣から現場マネージャーまで多様な相手にインタビューする必要があり、特に海外子会社への訪問ともなると、言語や文化の壁が大きな負担となります。これまで、インタビュー結果の整理や課題抽出は非常に骨の折れる作業でした。
しかし、生成AIを活用すれば、このプロセスが劇的に効率化します。具体的には、インタビュー音声を自動で文字起こしし、必要に応じて母国語へ翻訳。そのうえで要点を要約し、さらにディスカッションを通じて課題を精査できます。
私の実務経験から言えば、これらのステップに生成AIを導入することで、作業時間をおよそ70~80%も削減できました。限られたフィールドワークの時間を、より本質的な議論や分析に振り向けることが可能になり、全体として非常に有意義な活動へと変わります。


4. 報告フェーズでの生成AI活用

4.1. ドラフト報告書の初稿生成

報告フェーズでは、監査結果を明確で伝わりやすい報告書にまとめる必要があります。生成AIは、箇条書きの発見事項やノートを整理し、初稿レベルの報告書案を提示することができます。
もちろん、生成AIが出した初稿をそのまま使うわけにはいきませんが、ベースとなる文章があることで監査人は表現の微調整や事実確認に集中でき、結果として報告書のクオリティと速度が向上します。

4.2. 経営層向け要約とビジュアル化の補助

経営層向けのエグゼクティブサマリーやスライド作成では、短時間で的確な要約が求められます。生成AIに「この100ページの報告書から、経営層が知るべき3つの重要ポイントを挙げて」と指示すれば、骨子がすぐに手に入り、そこから短時間でプレゼン資料を仕上げることが可能となります。
また、最近ではプレゼン資料の骨子を与えれば、そこから自動でプレゼン資料を作成してくれるGammaのようなツールも登場しています。それらを活用することで、劇的な効率UPが可能となります。


5. フォローアップフェーズでの生成AI活用

5.1. 改善策実行状況のモニタリング支援

フォローアップフェーズは、指摘事項に対して改善策が適切に実行されたかをチェックする段階です。関連資料や進捗報告書をAIに要約させ、「改善策Aはどの程度進んでいるか?課題は残っているか?」と尋ねれば、追跡が効率化します。
とあるクライアント企業では、改善進捗レポートを生成AIで分析し、どの改善施策が遅延しているかを瞬時に把握できるようになりました。これにより、フォローアップ報告書作成にも弾みがつき、継続的な改善サイクルが回りやすくなっています。

5.2. 教訓の蓄積とナレッジシェア

フォローアップが終わった後の学びは、次回の監査計画に役立てるべき貴重なナレッジです。生成AIに蓄積された過去の監査知見を問うことで、「前回の監査改善策から得られた教訓」を振り返り、次の計画に反映できます。
こうして、内部監査は“点”ではなく“線”や“面”として知見を積み上げ、継続的な高度化を遂げられるわけです。


6. 既存ワークフローへの組み込みイメージ

6.1. フローチャートで俯瞰する

今回の話をフローチャートにまとめると、計画→実施→報告→フォローアップという流れの各所に生成AIが差し込まれ、情報整理・要約・示唆抽出を行う構造が見えてきます。
たとえば、「計画フェーズ」では「過去報告書分析→生成AIに要約指示→リスク絞り込み」と矢印で繋ぎ、「実施フェーズ」では「インタビュー準備→生成AIで過去指摘事項抽出→質問精緻化→インタビュー実施→翻訳・要約→課題抽出」など、ステップごとの具体的組み込みが可能です。

6.2. 組織文化・教育との相乗効果

とはいえ、技術は道具であり、それを使いこなせる人材と組織文化が伴わないと成果は半減します。生成AIを導入する際は、監査チーム内での教育やガイドライン整備、情報セキュリティ対策、必要なアクセスコントロールなども同時に進める必要があります。
特に現役のコンサル兼内部監査人として活動している筆者の経験から言うと、内部監査人の教育・マインドセットの変革が最も重要な変革のファクターになると感じています。多くの内部監査部門では、まだまだ生成AIを活用に懐疑的だったり、反発する人も多くいます。このような状況では、生成AIの果実を得ることは難しいでしょう。
これらの点をクリアできれば、生成AIは単なる“自動化ツール”ではなく、“知的パートナー”へと進化し、内部監査部門を新たな次元へ引き上げる力となると確信しています。


7. 今後の展望

7.1. さらなる拡張可能性

今後、生成AIはマルチモーダル化(テキスト以外にも画像や音声の理解)、特化型モデル(特定業界や領域に特化したLLM)など、ますます進化していくと考えられます。
これにより、内部監査が扱う証拠資料の範囲も広がり、動画ミーティングの議事録化や画像資料からの情報抽出など、より多面的なサポートが可能になるでしょう。
また、エージェントAIという概念も現実味を帯びてきています。詳しい解説はまた後日しますが、もはや人間が具体的な指示を与えなくても、目標やゴールだけを与えれば、あとはAIが自分で考えて仕事を進めてくれる世界が2-3年後にはくるでしょう。

7.2. 次回予告

次回は、今回の続きとして、生成AIの特性をより具体的に解説する予定です。内部監査での生成AI活用が有効な領域について、さらにイメージがもてるようになるでしょう。
この記事は内部監査業界の発展のために、完全に無料でボランティア的に記事を書いているので、「いいね」や「フォロー」で応援いただけると励みになります。それでは、次回の記事でお会いしましょう!

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