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【世界の内部監査の潮流シリーズ】第1回:2024年の内部監査トレンドのトップ10ブログ記事

こんにちは、HIROです。私は現在、米国のシリコンバレーで「世界の内部監査のベストプラクティス」や「内部監査における生成AI活用」の研究とコンサルティングに取り組んでいます。
このシリーズでは、日本の内部監査人が普段触れる機会の少ない「世界の内部監査」に関する最新情報を、迅速かつ分かりやすくお届けします。特に、アメリカの内部監査はその進化が日本より10年以上先を行くと言われており、非常に参考になるケースが多いと感じています。
今回は、2024年に世界的に注目された「内部監査トレンドのトップ10ブログ記事」についてお伝えしたいと思います。この記事を読むことで、アメリカをはじめとする海外の内部監査人がいま最も関心を寄せているテーマや潮流、そしてそこに込められた実践的なアドバイスを理解することができます。



1. 2024年、監査業界を揺るがしたトレンドまとめ

1.1. 「内部監査の人間味」と「先端技術」の融合

2024年は、内部監査の世界において「人間味」そして「先端技術」が大きく注目された年だったと感じています。特に「共感力(エンパシー)」や「人間中心のアプローチ」というキーワードが高い評価を得ており、AIをはじめとする最新技術を活用しながらも、監査対象となる組織や従業員との良好な関係性をどのように築くかが議論されました。ここで言う「共感力」は単に相手の感情に寄り添うだけでなく、被監査部門や従業員の置かれた立場を深く理解し、対話を通じてリスクを効果的に把握しようとする姿勢を指しています。監査が機械的・事務的に進むのではなく、柔軟にコミュニケーションを取りながら問題の本質を探り、潜在的なリスクを抽出する手法が重要視されています。

一方で、AIによるデータ分析やロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)の活用など、効率化と高度化を両立する取り組みも加速しました。膨大なデータからリスクを予兆的に検知し、より戦略的かつ付加価値の高いアドバイスを行う──そんな「未来型の内部監査」の姿が、これらのトップ10投稿でたびたび言及されていたのが印象的です。監査のプロセスを自動化するだけでなく、監査人がより深い洞察や判断を下すための「データ駆動型アプローチ」をいかに洗練させるか、というテーマが議論の焦点になっています。

1.2. グローバル視点の多様性

さらに、今回のトップ10では、執筆者がイタリア、南アフリカ、トリニダード・トバゴ、イギリス、アメリカなど、世界各地で活躍する監査人だった点も大きな特徴といえます。各国の文化や組織風土、規制環境はまったく異なる場合が多いですが、それらを背景にした多面的な視点が記事に盛り込まれているため、どの投稿にも独特の“リアリティ”と“説得力”があるのです。

たとえば、ある国ではリモートワークがスタンダードになりつつある一方で、別の国ではまだまだ対面重視の企業文化が残っている──そんな状況下で「監査人として何を優先し、どこにリスクが潜んでいるのか」が異なる視点から示されているのは興味深いですね。「世界の内部監査」を研究する私としても、地理的・文化的な違いが生み出すイノベーションのタネを感じ取ることができました。


2. トップ10記事から読み解く、注目のテーマ

2.1. 共感と人間力がカギとなる監査アプローチ

今回1位に輝いたのは、Meghan Boyd氏による「Empathy in Audit」でした。共感力を軸に「人として相手に寄り添う監査」を追求し、単なる“問題摘発”ではなく、被監査部門との信頼構築と経営改善に役立つ施策提案を同時に行う手法が紹介されています。たとえば監査の現場で、「あなたの言っていることを正しく理解できているか」や「このリスクはあなたの部署にどのような影響を及ぼすのか」といった具体的な対話のフレームを取り入れることで、監査対象者の立場を理解するだけでなく、監査の信頼性自体を高めるのです。私自身も内部監査の現場で、あえて一呼吸置いて「これってどういう背景があるんだろう?」と相手に問いかけてみると、思わぬリスクや潜在的な問題点が表面化するケースに何度も出会ってきました。

そしてもう一つ注目すべきは、第5位のDina Marie Lam氏の「Human-centric Auditing」です。まさに人間中心の発想を取り入れ、リスクやプロセスの背後にいる「人」がどのように感じ、どのような動機や葛藤を持って動いているかを監査の一部としてとらえる手法が紹介されています。これにより「なぜ不正が起きるのか」や「どうすれば現場の負担を減らしつつガバナンスを強化できるのか」という問いにも、より実効性のある答えが導き出せるわけです。

2.2. “より少なく”が最大効果をもたらす監査手法

今回のランキングには第2位で「Be Lazier」という大胆なタイトルの記事も登場し、注目を集めました。執筆者のDavid Dufek氏によれば、監査において「もっとたくさんのことをやらなければ」という強迫観念は、必ずしも最良の成果をもたらさないとのこと。むしろ、リスクの優先順位を正確に見極め、最も影響度の高いポイントに絞って集中的に取り組むことで、最終的には被監査部門・監査部門双方の負担を下げつつ質の高い業務を実施できると論じています。

私自身、監査の現場で「この取引もチェックしたい」「あのドキュメントも見ておきたい」と欲張ってしまいがちですが、最終的に成果物がボリューム過多となり、経営層や関連部署に響きにくい報告になってしまうこともありました。結局、リスクアセスメントの段階で高い精度を追求し、監査範囲を「少なく深く」することが大切なのだと改めて実感します。

2.3. ESG監査とリモートワーク時代の不正リスク

近年注目されるESG(環境・社会・ガバナンス)に関しては、「No, You’re Not Auditing ESG」という挑発的とも言えるタイトルの記事が第4位にランクイン。これもDavid Dufek氏によるもので、“ESGを包括的に監査する”という曖昧な概念に囚われるのではなく、「自社にとって本質的に重要となるESG要素にフォーカスせよ」という提言が印象的です。具体的には、組織のビジネス戦略と照らし合わせて、どの環境リスク・社会的責任・ガバナンスの要素が企業価値に直結するかを見極めることが重要だと説いています。

また、リモートワーク時代ならではのリスクとして第8位の「Remote Worker Fraud」を取り上げたBeatrice Saredo Parodi氏の記事も見逃せません。リモートワークが広がると、物理的な目配りが難しくなる分、新たな不正手口が生まれやすくなる可能性が高まります。たとえば「在宅勤務を装って実際には違う業務(副業や不正行為)をしているのではないか」という懸念があるだけでなく、ITインフラのセキュリティや承認プロセスの一部が不完全になりやすいといった問題も顕在化しやすいわけです。この記事では、監査の観点から具体的なチェックポイントを設定する重要性が強調されています。

2.4. 継続学習とAI時代における監査人の役割

第6位の「A New CIA’s Love of Lifelong Learning」を執筆したKimberly Ellison-Taylor氏が訴えるのは、監査人が「学び続ける専門家」であるべきだというメッセージです。資格取得や継続教育を通じて新しい視点やスキルを身につけることは、急速に変化するビジネス環境に対応するうえで欠かせません。とりわけITの進化が速い米国では、ここで学習を怠ると監査の現場で話題にすらついていけなくなるのです。

一方で、第10位の「What AI Can’t Do」を執筆したAndy Kovacs氏は、AI時代における監査人の存在意義を改めて提起しています。AIが得意とする膨大なデータ分析やパターン検出は、監査の効率と網羅性を一気に高めてくれるかもしれません。しかし最終的に「リスクをどう評価し、どのようにコミュニケーションするか」は人間にしかできない仕事だというのです。これは私がシリコンバレーでコンサルをする中でも多くの企業が実感していることで、AIの助けを借りながら最終ジャッジを下すのは、監査人としての倫理観や共感力、そして組織を深く理解する洞察力だと認識されています。

2.5. 倫理と「価値創造」の担い手としての内部監査

第7位のChauke Deroul氏の「Ethics in Action」では、内部監査の現場でいかに倫理的な判断を組み込むかが具体的に示されています。監査計画の立案段階から、想定される倫理的ジレンマを洗い出し、事前に監査チーム内でディスカッションしておくことは、大小さまざまな不正リスクの早期発見にもつながります。

さらに、第9位のLarry Kowlessar氏の「Making a Difference」では、新しい基準(Standards)において“組織の価値を創造・保護・持続させる能力を高める役割”が内部監査に求められることが強調されました。単なるルールの遵守確認にとどまらず、組織が将来にわたり持続的な成長を実現するための助言を行う──これは日本の監査人にとっても非常に意義のある視点ではないでしょうか。日本ではまだ「指摘が多い監査=優秀」と見られがちですが、本来の監査は「企業価値向上」のパートナーとして機能することがゴールなのです。


この記事で取り上げたトップ10の投稿は、いずれも現代の内部監査人が直面している諸課題を多角的に捉え、解決策を提案しています。私たち監査人にとっては「人間力」「倫理観」「技術活用」「リスクの優先順位づけ」といったキーワードが、ますます重要になっていると言えるでしょう。

参考:
Building a Better Auditor: Top Ten Blog Posts of 2024 (InternalAuditor.org)

この記事は内部監査業界の発展のために、無料でボランティア的に記事を書いているので、「いいね」や「フォロー」で応援いただけると励みになります。それでは、次回の記事でお会いしましょう!

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