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2030年の内部監査 ~AIがもたらす未来の内部監査の変革~
こんにちは、HIROです。私は現在、米国のシリコンバレーで「世界の内部監査のベストプラクティス」や「内部監査における生成AI活用」の研究とコンサルティングに取り組んでいます。
今日は少し視点を変えて、私が考える「2030年の内部監査」について書いてみました。未来から逆算することで、今のわたしたちに必要な取り組み、今のうちに磨いておくべき能力等も見えてくると思います。それではお楽しみください。
1. 2030年、ある内部監査人の視点から~
私が最後に手作業で監査資料をまとめたのは、もう5年も前になるだろうか。当時は年に数回実施する監査を、限られた人員でなんとか回していた。リスクアセスメントも、Excelや社内システムを使いながら手入力で分析をして、毎年の監査計画を立てるのに数か月かかったものだ。今振り返ると、それはもはや「懐かしい」記憶ですらある。。
現在、内部監査の大部分は自動化されている。私たち内部監査人は、その“結果”をレビューして承認し、必要に応じて経営陣とコミュニケーションを取り、最終的な責任を負う役割を担うのみだ。リスクアセスメントから年間監査計画の策定、さらには個別監査の通知や資料依頼・収集・分析、フィールドワークの実施、監査報告書の作成、報告に至るまで、ほとんどが各部門に配置されたAIエージェント同士のやり取りで完結する。監査のプロセスは常時稼働しており、私が出社した頃にはすでに前日の監査結果が自分のデスク(というよりクラウド上のワークスペース)に届いている状態になっている。
2. AIエージェント同士のやり取り
いまや各部門には「AIエージェント」が常駐しており、人間の担当者がいちいち資料をかき集める必要はない。それぞれのAIは自部門の業務データをリアルタイムに解析し、必要な情報を適切な形式で内部監査用のAIに連携する。ある部門が追加で資料を提出する必要が出れば、そのやり取りもAI同士が自動的に完結させ、照会や突合作業を進める。何か不整合や高リスクと判断される項目があれば、私たち人間の監査人のワークスペースに“アラート”として通知される仕組みだ。
以前は監査チームが部門に足を運び、「すみません、こちらの資料の提出をお願いします」とか「このデータの数字が微妙に合わないんですけど……」というコミュニケーションを何度も重ねていた。しかし今では、こちらからアラートの内容を確認し、疑問点があれば口頭やチャットで“念のため”確認する程度。ほとんどの場合、そこにすら人間が介在する余地はないほど、AIエージェントの精度は高い。
3. 全社規模でのアシュアランス
一番大きな変化は、監査のカバレッジが劇的に拡大したことだと思う。5年前は限られた部門しか、年に数回しか監査できず、フォローアップも遅れがちだった。「リソース不足でこの部門は見られない」「今年はこのリスク領域には手が回らない」という話が当たり前だった。しかしいまや、全社の主要リスクや統制はすべてAIエージェントが常時監査しており、必要があればリアルタイムに検知する。
経営陣にとっては、どんな分野のリスクも「監査が行き届いている」という安心感が得られるようになった。以前は「このリスクって本当に大丈夫?」と聞かれても、監査結果が古く、すぐには答えられないことも多かった。しかし今なら、常に最新の監査結果をダッシュボードで提示できる。さらにリスクが高まったと検知されれば、AIが自動的にプログラムを再設定して重点監査を実施し、数時間後には最初のレポートが出てくる。経営陣はそれをリアルタイムで確認できるから、スピーディに経営判断を下せる。その付加価値は、かつての内部監査とは比べものにならないほど大きい。
4. 人間の役割と必要スキルの変化
私たち内部監査人の仕事は、結果的に「高度な判断」と「責任を負うこと」にシフトした。AIが生成する膨大な分析レポートを読み込み、何が本質的な問題で、何が単なる数字上の誤差なのかを見極める。そのうえで経営層や取締役会に対し、監査の結果とリスクの意味合いをわかりやすく、かつ説得力のある形で伝えなければならない。
この過程で大事なのは、AIの出す結果の「妥当性を評価する」スキルだ。5年前までは、どちらかというと会計や財務知識、業務プロセスの理解が中心だった。今では、統計やデータサイエンス、そしてAIのアルゴリズムがどう動いているかを理解する能力が求められる。なぜAIがそのリスクを「高い」と判定したのか、あるいは「問題なし」と判定したのかを説明しなければ、経営陣も安心できないからだ。
さらに、倫理観やガバナンスに関する知識も欠かせない。自動化された監査は効率的だが、AIの判断が常に社会的・法的に妥当なものかは人間がチェックしなければならない。機械に「これは違法です」「これはコンプライアンス違反です」と即断させるわけにはいかないからだ。膨大なデータを瞬時に処理するAIの結果を、さまざまな角度から検証し、最終的に「これは経営陣に報告すべき重大なリスクだ」と判断するのは、人間にしかできない役割である。
5. フォローアップと組織へのインパクト
内部監査で指摘された改善点に対するフォローアップも、今や自動化されている。各部門のAIエージェントが改善アクションの進捗を管理し、期限が近づいているタスクの関係者に自動的にリマインドを送る。期限に遅れが出ている場合には、私たちのワークスペースにアラートを飛ばし、必要なら管理職とも直接やり取りを行う。
この仕組みによって、フォローアップが滞るケースはほとんどなくなった。監査指摘が形骸化しないため、会社全体のリスク対応力は著しく向上した。これによる経営への貢献度は高く、内部監査部門の評価は5年前とは比べものにならないほどだ。実際、経営陣からの相談事も格段に増え、私たちは以前より経営の重要意思決定の場に呼ばれることが多くなった。
6. 5年後のいま、振り返って
振り返ると、この5年で内部監査は「定期的に行う、形式的な業務」から「常に動いている、経営に貢献するシステム」へと変貌した。もはや「監査をするために部署を訪問する」というイメージは過去のものになり、各部門に常駐するAIエージェントが休まず働いている。その一方で、私自身はAIがはじき出すデータの妥当性を読み解き、経営に「リスクをいかにコントロールすべきか」を助言する存在へと進化を求められた。
この“未来”は、自動化がすべてをやってくれるという単純なものではない。膨大な情報を瞬時に分析するAIと、それを読み解き、説明し、責任をもって意思決定に反映させる人間とが協働する時代である。私たち内部監査人が果たすべき役割はむしろ重要性を増しているのだ。
今となっては、内部監査の仕組みが会社全体をリアルタイムに見守り、経営陣に“安心”と“根拠ある意思決定”を提供している。それこそが、5年前には想像できなかった内部監査の新しい姿だと言えるだろう。
この記事は、私個人の専門家としての継続学習のため、また内部監査業界の発展のために投稿しています。「いいね」や「フォロー」で応援いただけると励みになります。それでは、次回の記事でお会いしましょう!