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【AI×IAシリーズ - 基礎編】第2回:なぜ内部監査に生成AIが求められるのか?
こんにちはHIROです。私は現在シリコンバレーで「内部監査における生成AI活用」の研究とコンサルティングをしています。今日は「なぜ内部監査に生成AIが求められるのか?」というテーマでお話ししていきます。
本記事は「【AI×IAシリーズ - 基礎編】」の第2回目となります。ここでは、内部監査現場で直面する従来の課題を見つめ直し、生成AIの活用がどのような効率化と品質向上をもたらすのか、その基本概念や用語を整理します。
この記事を読むことで、読者のみなさんは「生成AIを導入すると内部監査のどこが変わるのか」を言語化し、明確なビジョンを持つことができます。
1. 内部監査における従来課題を見つめ直す
1.1. 膨大な文書レビューの負担
内部監査は、企業内の業務プロセスや内部統制の有効性を確認するために、膨大な資料に目を通すことが日常茶飯事です。監査報告書、規定集、手続書、会議議事録、マニュアル、関連法令ドキュメントなど、文字情報が山積みになっています。
この「紙の山」に挑む監査人は、短期間で情報を取捨選択し、問題点を抽出しなければなりません。しかし実際には、読み込む段階で相当な時間と労力がかかり、分析フェーズに入る前に疲弊してしまいます。
例えば、「在庫管理プロセスの監査」をするとします。関連部署から提出された報告書が何十冊もあり、その一つ一つに目を通すことが必要ですが、それだけで数日、あるいは1週間以上を費やすケースも珍しくありません。結果的に、監査人は「本質的なリスク抽出」や「改善提案」に割く時間が減り、価値創造よりも「読み込み」作業に多くのリソースを使ってしまうのです。
1.2. 報告作成負荷とタイムプレッシャー
監査終盤には、経営層や監査委員会向けに報告書を作成します。このレポートは、多岐にわたる事実関係、指摘事項、リスク評価、改善提案をまとめるため、情報整理からドラフト作成、レビュー、修正といった工程を何度も踏みます。
締め切りが迫る中、報告書の文章表現を洗練するのは大変なストレスです。誤字脱字はもちろん、指摘事項を適切な文脈で伝えるために、何度も書き直し、上長とのやり取りを繰り返す。この過程で、監査人は細部に追われ、本来の戦略的思考力や分析力を発揮しづらくなります。
1.3. 本質的業務へ時間を割く難しさ
こうした課題が積み重なると、内部監査部門は単なる「チェック屋さん」に陥りがちです。本来、内部監査は組織の健全性を高め、中長期的なリスク低減やガバナンス強化に貢献する存在。しかし、日々の膨大なルーティンに追われると、「どうやったらもっと経営に価値を提供できるか?」という根幹的な問いに割く時間が減ってしまいます。
2. 生成AI導入による効率化・品質向上のイメージ
2.1. 生成AIがもたらす「超優秀なアシスタント」像
生成AI(Generative AI)を活用することで、監査人が情報整理やドキュメント要約を自動化・効率化できるようになります。
想像してみてください。あなたのそばに、過去数年分の監査報告書や関連規定類を一瞬で読み込み、要点だけをわかりやすくまとめてくれる「超優秀なアシスタント」がいたらどうでしょう?報告書ドラフトを丸ごと初稿作成し、それをベースに微調整すれば、作業時間は大幅に短縮できます。
2.2. 知識ベースを活用しやすくする
内部監査の現場にはナレッジ(知識)が蓄積されているはずです。しかし、そのナレッジは多くの場合、人の頭やバラバラのファイルに格納され、生かされていません。
生成AIを利用すれば、大量の文書やナレッジベースを自然言語で問い合わせて即座に回答を得ることができます。例えば「過去3年分の在庫管理監査報告から、繰り返し指摘された共通課題を3つ教えて」と指示すれば、秒単位で要約結果を提示できるでしょう。
2.3. 品質向上への期待
さらに、生成AIは言葉の選び方や文脈構築を得意とし、監査報告書の初稿を高品質で生成できます。もちろん全てを鵜呑みにしてはいけませんが、初稿として高い完成度を出せれば、監査人は校閲・改善に集中できます。その結果、報告書全体の質が底上げされ、経営層や関係者に伝わりやすいアウトプットへと仕上げることが可能です。
3. 基本用語のおさらい(LLM、プロンプト、ハルシネーション)
3.1. LLM(Large Language Model)
LLMとは、大規模なテキストデータを用いて学習した巨大言語モデルのことです。ChatGPTやClaudeなどが有名です。これらは、言語を統計的にモデル化し、自然な文章を生成する「汎用的な言語エンジン」です。
内部監査人にとって、LLMは「必要な情報を自然な対話形式で取得できる窓口」として機能します。
3.2. プロンプト(Prompt)
プロンプトとは、「モデルに対する指示文」のこと。たとえば「過去の在庫監査で繰り返し指摘されている論点を教えて」といった問いかけはプロンプトになります。プロンプトをどう設計するかで、モデルの出力品質が大きく変わります。
プロンプトは、AIに「何を望んでいるか」を明確に示す設計図であり、内部監査人は質問力・指示力を磨くことで得られる情報の質と精度をコントロールできます。
3.3. ハルシネーション(Hallucination)
LLMはときに「存在しない事実」をそれらしく語ることがあり、これをハルシネーションと呼びます。
たとえば、実在しない文書や規定を持ち出してくるなど、誤情報を平気で提示することがある点に要注意。内部監査で活用する際は、AIが出した結果を必ず確認・裏取りするプロセスを組み込むことが必須です。
4. 他にも押さえておきたいポイント
4.1. モデルバイアスとセキュリティリスク
LLMは学習データに基づき出力を行いますが、学習データに偏りや古い情報が混在していれば、そのままバイアスや時代遅れの見解を提示するかもしれません。
また、外部のクラウドAIサービスを利用する場合、社内機密情報を入力することで情報漏えいリスクが懸念されます。これらの点は、後々の記事で詳しく解説しますが、導入前から心に留めておきましょう。
4.2. 導入プロセスの見取り図
生成AIを導入する際には、IT部門や法務部門との連携、ツール選定、ポリシー策定、利用マニュアル整備など、いくつかのハードルがあります。ただ、最初から完璧を目指す必要はありません。
まずはパイロットプロジェクトとして、小規模な業務にAIを試してみて、効果やリスクを測定する方法もあります。少しずつ成功体験を積み重ねていくことで、組織として適切な運用ルールが育まれます。
5. 今後の展望
5.1. 次回予告
次回は、内部監査プロセスを段階的におさらいしながら、どのフェーズで生成AIが最も力を発揮するかを深掘りします。「計画立案」「リスク洗い出し」「報告書作成」「フォローアップ」など、具体的なシナリオを想定し、実務へ生かせるヒントをお届けします。
この記事は内部監査業界の発展のために、完全に無料でボランティア的に記事を書いているので、「いいね」や「フォロー」で応援いただけると励みになります。それでは、次回の記事でお会いしましょう!