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【世界一流の内部監査】第42回:記憶に残る内部監査レポートの作成方法とは?

こんにちは、HIROです。私は現在、米国のシリコンバレーで「世界の内部監査のベストプラクティス」や「内部監査における生成AI活用」の研究とコンサルティングに取り組んでいます。
このシリーズでは、日本の内部監査人が普段触れる機会の少ない「世界の内部監査」に関する最新情報を、迅速かつ分かりやすくお届けします。
特に、アメリカの内部監査はその進化が日本より10年以上先を行くと言われており、非常に参考になるケースが多いと感じています。
今回は、「ストーリーテリングのテクニックを活用して、記憶に残る内部監査レポートを作成する方法」についてお伝えしたいと思います。この記事を読むことで、報告書の“読みやすさ”や“行動を促す力”を高める具体的な手法を理解することができます。


1. レポートにストーリーを取り入れる意義とは?

1.1. 従来の監査レポートの課題

内部監査レポートといえば、「事実を正確に伝える」「改善提案を網羅する」といった点に力を入れるのが一般的です。ところが、関係者に配布されるとき、上層部から「読みにくい」「何がポイントかわからない」「最後まで読まれない」といった声が上がることもしばしば。
内部監査のプロセス自体は重要なリスク発見や改善アイデアを含むのに、肝心の“伝え方”が退屈であるため、せっかくの指摘や提案が十分に活かされないケースが珍しくありません。

1.2. ストーリーテリングがもたらす効果

心理学者ジェローム・ブルーナーの研究によると、「物語(ストーリー)の形で語られた情報は、単なる事実列挙のものよりも記憶に残りやすい」と言われています。また、ストーリーテリングは読者の感情や興味を引き込みやすく、実際の行動にも結びつけやすい特徴があります。
たとえば、ある監査レポートで“ヒューマンエラーによる財務リスク”を指摘するだけでなく、「実際に起きた事例をコンパクトに紹介し、その背景や被害状況を物語風に書く」ことによって、経営陣や現場が“他人事ではない”と感じるようになるのです。こうした読後感は、単なる箇条書きの報告では得られにくい大きな違いです。


2. ストーリーテリングを活かす具体的なポイント

2.1. レポート冒頭で心をつかむ

レポートの導入部分は、いわば絵本の「最初の一文」に相当します。ここで注意を引くことができなければ、最後まで読まれずに終わるかもしれません。

  • パンチのある事実やデータ: 「年間○○万円の損失リスク」というように、インパクトのある数値で始める。

  • 読者への問いかけ: 「もしこのリスクが現実化したら、経営にどんな影響があると思いますか?」と問いを投げ、想像させる。

  • 簡潔なエグゼクティブサマリー: 2〜3段落で、「今回の監査の要点」「最も重大なリスク」「即座に取るべき行動」を示す。

ストーリーでいえば「主人公(監査対象)とその課題」「緊張感」「期待感」が詰まっていると、読み手は先を知りたくなります。

2.2. “ストーリーフロー”を意識した構成

監査レポートにも物語のような起承転結(もしくは導入・上昇・クライマックス・結末)を意識すると、情報の流れが明確になります。

  1. 序章(Introduction): 監査の目的や範囲を明示し、組織の戦略目標やリスク方針とどう関連するのかを簡潔に語る。

  2. 上昇局面(Rising Action): 発見されたリスクや問題をわかりやすく示す。グラフやヒートマップなどのビジュアルを使い、どの程度の深刻さかを伝える。

  3. クライマックス(Findings & Implications): 最も重大なリスクや影響を強調する。ここが“読者が最も注目すべき要点”であり、一種の緊張感を演出する。

  4. 結末(Resolution): 推奨される改善策や次のアクションを具体的に示す。誰がいつまでに何をするのか、どんな効果が期待できるかをはっきり書く。

2.3. 読者の視点に立った言葉選び

監査委員会や経営陣に提出される監査レポートは、専門用語や略語が多すぎると負担になりがちです。特に、IT関連の監査ではシステム用語や技術的な概念が多用されますが、「読み手がどこまで理解しているか」を念頭に置き、やさしい言葉や注釈を使うことで可読性を上げましょう。

  • 専門用語の回避・解説: 新しい用語や略語を使う場合は、最初に定義を付けておく。

  • 例え話の活用: 難しい概念を説明する際、実際の業務や日常生活の場面にたとえて表現すると分かりやすい。

  • ボリューム調整: 文字数は多ければ良いというものでもなく、適度な長さで読み手の集中力を切らさない工夫を。


3. ストーリーテリング実装で直面する課題と対策

3.1. 組織の定型フォーマットとの両立

多くの企業では、内部監査レポートのフォーマットが予め決められている場合があります。コンプライアンスや法的要件もあるため、自由にレイアウトを変えることが難しいケースも。
しかし、「規定のフォーマットを守りながら、要点部分で物語風の表現を差し込む」というアプローチは可能です。例えば、“エグゼクティブサマリー”でストーリーテリング的な要素を強め、本文では定型的な文書構造を守るなど、柔軟な対応を試みましょう。

3.2. データとストーリーの両立

ストーリーテリングに力を入れるあまり、具体的なエビデンスやデータが疎かになっては本末転倒です。内部監査は、厳密な事実や数値をベースにした信頼性が命です。

  • ビジュアルデータの活用: グラフや表を見せるだけでなく、その裏にあるストーリーを簡潔に解説し、読み手がイメージしやすい形にする。

  • 定量と定性のバランス: 重大なリスクに対しては数値や金額を提示しつつ、背景にはどんな人やプロセスの問題があるのかをストーリー形式で補足する。

3.3. 時間やリソース不足を乗り越える

ストーリーテリングを意識したレポート作成は、通常の監査プロセスに加えてライティングスキルや編集作業が必要となり、リソース負担が増える可能性があります。

  • テンプレートや過去レポートの再活用: 過去に上手くいったストーリーテリング要素を部分的に流用する。

  • チーム内レビュー: レポート草案を他の監査メンバーに読んでもらい、読みやすさやインパクトをチェックしてもらう。外部の視点を入れると修正ポイントが見えやすい。


4. 日本の内部監査におけるストーリーテリングの可能性

4.1. 海外事例に学ぶ“読みやすさ重視”の流れ

海外の大手企業や国際機関では、監査報告書をストーリー仕立てにして発行する事例が増えてきています。そこでは、監査のリスク評価プロセスや発見事項が一目でわかるダッシュボードやインフォグラフィックを取り入れ、さらに主要登場人物(プロセスオーナー)や業務シナリオを物語調に紹介することで、監査結果の納得感を高めています。
日本の監査文化でも、形式的に堅い文書を作るだけでなく、経営層や現場が「思わず読みたくなる」仕掛けを作ることは、監査の価値を実感してもらううえで効果的と考えられます。

4.2. 変化を促す“物語”が行動を生む

「監査結果を報告しているのに、なかなか改善が進まない…」という悩みは多くの内部監査人に共通する課題でしょう。しかし、ストーリーテリングを取り入れることで、リスクや問題を単なるデータではなく“社内のリアルな課題”として伝えやすくなります。
人間は論理だけでなく感情にも動かされる生き物です。もし、監査報告に登場するストーリーで「このままだと顧客の信頼を失い、売上が減少する」などリアリティのあるシナリオを提示すれば、経営陣や担当者はそのリスクをより強く認識し、対策に動きやすくなるでしょう。


この記事は、私個人の専門家としての継続学習のため、また内部監査業界の発展のために投稿しています。「いいね」や「フォロー」で応援いただけると励みになります。
それでは、次回の記事でお会いしましょう!


引用元:
Jesse M. Laseman, “Crafting Memorable Internal Audit Reports with Storytelling Techniques,” InternalAudit360.com (January 29, 2025)
https://internalaudit360.com/crafting-memorable-internal-audit-reports-with-storytelling-techniques/

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