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【世界の内部監査の潮流】第2回:内部監査における共感の重要性とは?

こんにちは、HIROです。私は現在、米国のシリコンバレーで「世界の内部監査のベストプラクティス」や「内部監査における生成AI活用」の研究とコンサルティングに取り組んでいます。このシリーズでは、日本の内部監査人が普段触れる機会の少ない「世界の内部監査」に関する最新情報を、迅速かつ分かりやすくお届けします。特に、アメリカの内部監査はその進化が日本より10年以上先を行くと言われており、非常に参考になるケースが多いと感じています。今回は、前回紹介した「2024年の内部監査のトップ10ブログ記事」の中から、第1位のブログ記事をピックアップして、「監査における共感の重要性」についてお伝えしたいと思います。この記事を読むことで、共感の力が監査にどのような効果をもたらすのかを理解することができます。


1. 元となったブログ記事のご紹介

1.1. 「Building a Better Auditor: Empathy in Audit」

今回の記事は、米国の内部監査業界で注目されているブログ記事「Building a Better Auditor: Empathy in Audit」(執筆者:Meghan Boyd)をもとにしています。この記事では、内部監査における「共感」の重要性について、筆者自身の体験を交えながら詳しく解説されています。

筆者のMeghan Boyd氏は、米国フロリダ州にあるCarrier社で業務コントロールのシステム管理者を務める経験豊富な監査人です。彼女は、監査クライアントとの関係構築における共感力の重要性を実感し、それをどう実務に活かすかについて独自の視点を提供しています。

1.2. 共感がもたらす監査への変革

Boyd氏の記事では、監査人がクライアントに対して単にフィードバックを提供するだけでなく、共感をもって接することで、より効果的で建設的な監査を実現できることが強調されています。例えば、彼女が監査チームで経験した「クライアントが監査を侵入的と感じた事例」や、共感を取り入れたことで問題解決が円滑に進んだ具体的なエピソードが記されています。

また、記事内では、共感力を高めるための具体的な方法として「アクティブリスニング」や「共感的なコミュニケーション」の実践が提案されています。これらのスキルは、単に監査プロセスをスムーズに進めるだけでなく、クライアントとの信頼関係を深め、監査の価値を最大化するために欠かせない要素とされています。

次の章では、このブログ記事から得た知見をもとに、監査における共感力の具体的な効果やその活用方法について掘り下げていきます。


2. 監査における共感とは?

2.1. 共感がもたらす効果

監査人に求められるスキルとして、「共感力」がこれまで以上に注目されています。共感とは、他者の立場や感情を理解し、それに寄り添う能力のことです。監査業務では、被監査者(クライアント)との信頼関係を築くことが非常に重要です。共感をもって接することで、クライアントがリスクや課題について率直に話しやすい環境を作り出し、監査の質が向上します。

特に、昨今の「パーマクライシス(恒常的な危機)」と呼ばれる状況では、パンデミックや戦争、経済的な不安定要素が絡み合い、私たちが直面する課題はますます複雑化しています。このような環境では、単なる規範の遵守を超えた、真に役立つアプローチが求められます。それを実現する上で、共感は欠かせない要素です。

2.2. 実体験から学ぶ共感の重要性

ある監査人が、クライアントに監査結果を説明する際に、そのトーンやタイミングに配慮せず反発を招いたというエピソードがあります。このケースでは、共感を欠いたコミュニケーションが原因で、クライアントの反感を買い、最終的に問題解決までに余計な時間がかかりました。

一方で、クライアントの感情や状況を理解し、落ち着いた態度で接することで、同じ内容の指摘でもスムーズに受け入れられることがあります。このように、共感があるかないかで監査プロセスの進行が大きく変わるのです。


3. 共感力を高める具体的な方法

3.1. アクティブリスニングの実践

「アクティブリスニング」とは、相手の話をただ聞くだけでなく、その背景や意図に耳を傾け、理解を深めることです。監査現場では、クライアントが言葉にしない部分を察知する力が求められます。たとえば、クライアントが困惑している様子や、回答をためらっている場面では、背後にある理由を理解することで適切なフォローが可能になります。

また、「次に何を話すか」を考えながら相手の話を聞くのではなく、その瞬間の対話に集中することが重要です。このスキルは、監査の質を高めるだけでなく、クライアントとの信頼関係を築く基盤にもなります。

3.2. 相手の視点に立つための質問力

クライアントの視点に立つためには、適切な質問を投げかけることが効果的です。たとえば、「このプロセスを理解する上で重要なポイントは何ですか?」や「私の解釈に誤りがあれば教えてください」といったオープンな質問は、対話を円滑にし、クライアントの知識や洞察を引き出す助けになります。

さらに、観察や分析の結果を共有する際には、断定的な表現ではなく、「私たちが理解しているのはこういう点ですが、正しいでしょうか?」と確認する姿勢が大切です。このアプローチは、相手に対する敬意を示し、建設的な議論を促します。

3.3. 感情を受け止める共感的コミュニケーション

監査の指摘は、クライアントにとって厳しい内容となることが多いですが、その際に感情を無視してしまうと、協力的な関係を築くのが難しくなります。たとえば、「それは難しい状況ですよね」といった共感の言葉を添えるだけで、クライアントは「自分を理解してくれている」と感じ、前向きな対応をしてくれる可能性が高まります。

また、過去に自分が困難な状況でフィードバックを受けた経験を振り返り、その時の感情を思い出すことで、より自然な共感的態度が身につきます。


4. 共感を活かした監査の未来

4.1. 共感が導く革新的な監査手法

共感力を活かした監査は、単なるリスク検出にとどまらず、組織全体の成長を後押しする力を持っています。たとえば、生成AIやデータ分析ツールを用いた監査においても、ツールの結果をどのように解釈し、クライアントに伝えるかは人間の共感力に依存します。技術だけでは補えない「人間らしさ」が、監査の成功を分けるカギとなるのです。

さらに、共感的な監査は、クライアントとの長期的な信頼関係を構築する基盤となります。一度信頼を築いたクライアントとは、将来的な課題や改善点についてもオープンに議論できるため、監査の質が継続的に向上します。

4.2. 内部監査の価値を広めるために

監査プロセスにおける共感の重要性を広めることは、内部監査全体の価値向上につながります。日本の内部監査業界では、監査が「問題を指摘する役割」として認識されがちですが、共感を取り入れることで、監査が「組織を改善し、成長をサポートする役割」であることを周知させることができます。


この記事は内部監査業界の発展のために、無料でボランティア的に記事を書いているので、「いいね」や「フォロー」で応援いただけると励みになります。それでは、次回の記事でお会いしましょう!

引用元:
Meghan Boyd, "Building a Better Auditor: Empathy in Audit," Voices. Internal Auditor, February 12, 2024.
https://internalauditor.theiia.org/en/voices/2024/february/building-a-better-auditor-empathy-in-audit/

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