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【世界一流の内部監査】第28回:説得力のある内部監査レポートとは?
こんにちは、HIROです。私は現在、米国のシリコンバレーで「世界の内部監査のベストプラクティス」や「内部監査における生成AI活用」の研究とコンサルティングに取り組んでいます。このシリーズでは、日本の内部監査人が普段触れる機会の少ない「世界の内部監査」に関する最新情報を、迅速かつ分かりやすくお届けします。特に、アメリカの内部監査はその進化が日本より10年以上先を行くと言われており、非常に参考になるケースが多いと感じています。
今回は、先日紹介したIA 360°の2024年トップ5の記事の内、4位の「魅力的な内部監査報告書の作り方」についてお伝えしたいと思います。この記事を読むことで、読み手を引き込みながらも要点をしっかりと伝え、組織全体の改善を促すための報告書の作り方について理解することができます。
1. 世界が注目する「魅力的な内部監査報告書」作成のポイント
1.1. 記事が示す「5つのC」の重要性とは
今回参考にしたのは、内部監査情報サイト「Internal Audit 360°」に掲載された“A Guide to Crafting Compelling Internal Audit Reports”という記事です。ここでは、IIA(Institute of Internal Auditors) が推奨する「5つのC(Criteria, Conditions, Cause, Consequence, and Corrective Action)」というフレームワークの活用を強く推奨しています。
Criteria(基準)
監査の土台となる“何をもって正しいとするのか”の定義です。会社のポリシーや関連法規、業界標準など、評価のものさしを明確に示すことで、なぜその指摘が妥当なのかを説明しやすくなります。Conditions(現状)
監査で実際に観察・検証した事実や数値データを示します。報告書の読み手がイメージしやすいように、具体的な事例やエビデンスを添えることがポイントです。Cause(原因)
なぜ問題が起こったのか、その根本要因を掘り下げて明らかにします。単なる「現場のミス」で終わらせず、業務プロセスや組織の仕組みに起因していないかを確認するのが重要です。Consequence(影響)
発生している問題が、企業にどのようなリスクや損失をもたらすかを評価します。財務面だけでなく、ブランドイメージやコンプライアンス上の問題に発展する可能性があることを示すと、社内の理解が高まります。Corrective Action(是正策)
原因を踏まえたうえで、具体的に何をすべきかを提案します。対策の優先度や担当部署、実施タイムラインなどを明確にすることで、すぐに行動に移せる内容になるでしょう。
1.2. “魅力的な報告書”に欠かせない構成と表現
記事では、読み手が負担なく情報を吸収できるよう、以下のような構成を推奨しています。
エグゼクティブサマリー
監査の目的や範囲、主要な指摘事項と対応策を簡潔にまとめる部分。経営陣や役員はまずここから読み始めるため、短くてもインパクトのある内容が求められます。イントロダクション
監査の背景、対象領域、使用した監査手法などを説明します。ここで監査範囲を明示しておくことで、あとから「なぜこの領域が監査対象になったのか?」という質問にも答えやすくなります。詳細な監査結果(Findings)
5つのCフレームワークを用い、指摘事項を体系的に説明します。視覚的な図表やグラフを使ってデータを示すと、読み手が内容を理解しやすくなります。推奨する改善策(Recommendations)
各指摘事項ごとに、どのような手順で是正策を進めるかを提示します。マネジメントの回答(Management Response)
経営側や担当部署の同意・意見、対応方針、スケジュールなどを記載することで、責任所在と実行計画が明確になります。
また、記事では「言葉遣い」や「レイアウト」も強調されていました。専門用語や長ったらしい文章を多用せず、できるだけ平易で説得力のある言葉を選ぶことが大切だというわけです。読者に負荷をかけない工夫として、表やチャート、箇条書きを積極的に使い、必要に応じてビジュアル要素(例:動画リンクなど)を導入している先進企業もあるそうです。
2. 日本の内部監査人にも役立つ「報告書作成テクニック」の具体例
2.1. 事実と意見を明確に区別する
日本の内部監査報告書は、どうしても長文化する傾向があります。そこには現場ヒアリング内容(事実)と監査人の考えや分析(意見)が混在してしまい、読む側が「これは客観的なデータに基づくものなのか、それとも監査人の推測なのか」が分からなくなるケースが少なくありません。
例: ある製造ラインの在庫管理プロセスを監査した場合、まず「在庫管理システムと実在庫に5%の差異があった」と事実を明示。次に「差異が生じる原因は部品発注時の入力ミスが主因と考えられる」という意見・分析を示す、といった具合に切り分けると読み手にとって分かりやすくなります。
2.2. レポートの短さを意識しつつ、補足資料を有効活用する
記事では「分かりやすく、短めに」という点が強調されていますが、日本の組織文化では「詳細な経緯やデータもすべて含めたい」というニーズが根強いかもしれません。そこで活用したいのが付録(Appendix)です。
メイン本文は“コア”だけを書く: 指摘事項の背景、発生リスク、改善策など必要最低限のポイントに絞る。
付録で詳細をサポート: もし興味を持った人がさらに深掘りできるよう、検証データやインタビュー記録、運用フロー図などを付録にまとめる。
こうすることで、忙しい経営者や監査委員会メンバーには短くインパクトのあるレポートを提供し、詳細を知りたい担当者や関係部門には付録を参照してもらう形をとれます。
2.3. “5つのC”を活かした日本流アレンジ
「Criteria, Conditions, Cause, Consequence, Corrective Action」は非常にロジカルなフレームワークですが、日本企業ではやや抽象的に感じる場合があるかもしれません。そこで、日本では以下のようにアレンジすると分かりやすいことが多いです。
Criteria(基準) → “方針・ルール”として具体的に列挙
Conditions(現状) → “監査時点での観測結果”と表記し、写真やデータなども添付
Cause(原因) → “実務上の課題・盲点”としてヒアリングした内容をまとめる
Consequence(影響) → “想定される問題・損失”とし、金額やリスクレベルを定量的に示す
Corrective Action(是正策) → “具体的な改善提案と担当者”を対表形式で提示
こうした形にすることで、日本の現場がすぐに実行しやすい報告書になるでしょう。
3. 報告書作成を組織文化の変革へつなげるには?
3.1. 報告書は「出したら終わり」ではない
記事でも指摘されているように、監査報告書はあくまでスタート地点です。日本の多くの企業では、監査報告書が提出された後、なかなか改善アクションに結びつかないケースが見受けられます。そこで注目したいのがステークホルダーとのコミュニケーションの強化。
報告会・意見交換会の実施: 報告書を投げるだけでなく、改善策の意図や優先度などを関係部署とすり合わせる場を設ける。
フォローアップの仕組み: 一度指摘した問題がその後どうなったか、定期的に進捗を確認し、結果を経営層にも共有する。これにより報告書の“インパクト”が持続する。
3.2. 組織全体を巻き込む工夫
監査報告書が“強制的な改善指示”と捉えられると、現場は抵抗感を抱くことがあります。むしろ“自分たちの業務をより良くするサポート”として受け止めてもらうためには、対話型アプローチや協働が有効です。
改善タスクチームの編成: 現場担当者を含めたタスクチームを立ち上げ、監査の提案をベースに具体的な改善策を共同で練る。
成功事例の共有: 過去の監査報告を受けて業務が大幅に改善した事例や、不正リスクを回避できたエピソードを社内報や全社ミーティングで発信。すると「監査報告は役に立つ」という認識が広がる。
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(引用元:
“A Guide to Crafting Compelling Internal Audit Reports,” Internal Audit 360°.
https://internalaudit360.com/a-guide-to-crafting-compelling-internal-audit-reports/ )