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【世界の内部監査の潮流】第3回:内部監査における良い怠けとは?
こんにちは、HIROです。私は現在、米国のシリコンバレーで「世界の内部監査のベストプラクティス」や「内部監査における生成AI活用」の研究とコンサルティングに取り組んでいます。このシリーズでは、日本の内部監査人が普段触れる機会の少ない「世界の内部監査」に関する最新情報を、迅速かつ分かりやすくお届けします。特に、アメリカの内部監査はその進化が日本より10年以上先を行くと言われており、非常に参考になるケースが多いと感じています。
今回は、以前紹介した「2024年の内部監査のトップ10ブログ記事」の中から、第2位のブログ記事をピックアップして、「監査における“良い怠け”の実践」についてお伝えしたいと思います。この記事を読むことで、効率的かつ価値の高い監査のアプローチについて理解することができます。
1. “良い怠け”の概念とは?
1.1. 元となった記事の紹介
今回のテーマは、David Dufek氏が執筆した「Building a Better Auditor: Be Lazier」というブログ記事をもとにしています。このタイトルにある「Be Lazier(もっと怠けよう)」という言葉に驚かれる方もいるかもしれません。しかし、ここで言う“怠け”とは単なる手抜きではなく、不要な作業を減らし、本当に価値のある仕事に集中することを指します。
Dufek氏は、「無意味な作業を減らし、本質的に重要なことに集中することは、決して怠惰ではない」と述べています。この記事では、監査の効率性を高めるための考え方や具体的な方法論が、具体例を交えて紹介されています。
1.2. 良い怠けと悪い怠けの違い
良い怠けとは、監査の目的を達成しつつ、不要な作業を減らすことです。一方で、悪い怠けは責任を放棄し、必要な監査手順を怠る行為を指します。良い怠けを実践することで、監査の質を維持しながら、時間やリソースをより効率的に使うことが可能です。
たとえば、すべての取引を手作業で確認するのではなく、データ分析ツールを活用してリスクの高い項目に絞り込むことは、良い怠けの典型例です。これにより、重要なリスクに集中できるだけでなく、チーム全体の生産性も向上します。
2. 良い怠けを実践するための方法
2.1. 過剰な監査を避ける
監査でありがちな失敗の一つに、「必要以上に多くのことを監査しようとする」ことがあります。以下は、過剰監査の兆候です:
詳細に没頭しすぎる: 主要リスクではなく、些細な問題に時間を費やしていませんか?
既知の問題を再確認する: 管理職がすでに把握している問題を繰り返し指摘することは価値を生みません。
同じ手順を繰り返す: リスクに基づかない定型的な監査は、時間と労力の無駄です。
Dufek氏は「何を監査しないかを知ることが、監査の価値を高める鍵である」と強調しています。具体的には、次のような観点を取り入れると良いでしょう:
重要でない領域の排除: 影響が軽微なコントロールは監査対象から外す。
冗長なテストの削減: 問題が明確に判明している場合、さらなるテストは不要です。
2.2. テクノロジーの活用
現代の監査において、テクノロジーの活用は欠かせません。以下のような兆候がある場合、テクノロジーの活用を見直す必要があるかもしれません:
手作業へのこだわり: 紙の記録や手計算に依存していませんか?
データ分析を避ける: ExcelやPower BIなどの基本的なツールさえ使わずに、手間のかかる作業を続けていませんか?
既存のシステムを無視: クライアントが使用しているダッシュボードやシステムを活用せず、重複作業を行っていませんか?
テクノロジーを適切に活用することで、単調な作業を省き、リスクの高い領域に集中することができます。特に、生成AIや自動化ツールを活用すれば、監査の効率は飛躍的に向上します。
2.3. 効率性のための自己評価
監査人自身が、どれだけ効率的に業務を遂行しているかを定期的に評価することも重要です。以下の質問を自問してみてください:
どの作業が不要か?
どのプロセスが遅れているか?
チームのニーズや期待に応えられているか?
効率的な監査の実践は、監査人自身の成長だけでなく、組織全体の改善にもつながります。
3. 良い怠けがもたらす監査の未来
3.1. 協調とイノベーションの促進
良い怠けを実践することで、監査チームは管理職や他部門とより緊密に協力する余裕が生まれます。この余裕は、監査業務の枠を超えたイノベーションを生む土壌となります。
例えば、管理職とリスク評価を共有しながら新しい監査方法を開発することで、従来の監査手法では気づけなかった潜在的なリスクを発見できるようになるかもしれません。
3.2. 監査の価値を再定義する
「良い怠け」を取り入れることで、監査は単なる業務チェックから、組織の目標達成を支援する戦略的な役割へと進化します。不要な作業を排除し、リソースを重要な課題に集中させることで、監査の真の価値を示すことができるのです。
この記事は内部監査業界の発展のために、無料でボランティア的に記事を書いているので、「いいね」や「フォロー」で応援いただけると励みになります。それでは、次回の記事でお会いしましょう!
引用元:
David Dufek, "Building a Better Auditor: Be Lazier," Voices. Internal Auditor, April 2024.
https://internalauditor.theiia.org/en/voices/2024/april/building-a-better-auditor-be-lazier/