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【オリジナル小説】令和な日々 女子高生編

令和3年8月31日(火)「滅べ生徒会」森薗十織


「生徒会って生徒の代表なんじゃないの? 生徒のことなんてこれっぽっちも考えていないでしょ」

「声が大きいよ。十織ちゃん」

 蘭花は慌てたような顔でそう言うが、教室内に生徒会長の姿はないし、初瀬紫苑はいつものように大きなヘッドフォンをして机に突っ伏している。
 わたしは「本当のことでしょ」と言い返す。

「いろいろ考えがあるんだよ」

「どんな考えがあったとしても、生徒の自由を奪う権利はないでしょ」

 わたしが蘭花に言い返すと、背後にぬっと人の気配がした。
 山のような巨体。
 女子高である臨玲では一二を争う存在感を放つ安藤がわたしの後ろに立っていた。
 振り向いてわたしは大きく仰け反る。

「驚かせてごめんね」とその隣りにいた日々木が申し訳なさそうに声を掛けてきた。

 日々木は安藤とは対照的に際立って小柄だ。
 小学生が紛れ込んだのではないかと思ってしまうほどだ。
 腰まで届く茶髪と脱色したように白い肌。
 瞳の色も鳶色で、顔立ちも日本人とは思えないものだった。

「べ、別に驚いてないよ」と机の横に回った日々木に答える。

 前の席に座り振り向いていた蘭花はおっとりした声で「日々木さんはいつも可愛いね」と褒めている。
 日々木は「蘭花ちゃんのその髪飾り、素敵だね。初めてだよね。どうしたの?」と蘭花のサイドテールをまとめている花をモチーフにした髪留めに目をやった。
 蘭花は嬉しそうな顔で「誕生日プレゼントとしてお友だちからもらったの」と答えた。

「蘭花の誕生日っていつ?」とわたしが割って入ると、彼女は「8月の上旬だったの」とこちらを見た。

「あー……、ごめん、気づかなくて」

「言っていなかったからね。聞かれないのに言うのはどうかなって……」

 気まずそうに顔を見合わせるわたしと蘭花に「おめでとう。遅くなっても気持ちは伝えることができるよね」と日々木が微笑みかけた。
 蘭花もニッコリ微笑んで「ありがとう」と答え、わたしは少し照れながら「おめでとう」と伝える。
 すると蘭花はさらに満面の笑みで「ありがとう」と声を弾ませた。

 こういう時はプレゼントを用意するものだろうが、これまであまりそういうことをした経験がない。
 何を渡したらいいだろう。
 本人に聞いていいものかと思っていると、日々木が「森薗さんの不満って部活動への強制参加に対してだよね?」と話し掛けてきた。

 わたしは気を取り直し、「そうよ」と非難する。
 2学期になった途端、1、2年生は部活か委員会のどちらかに必ず所属するようにと言われた。
 西口によると生徒会の方針らしい。

「生徒会の横暴でしょ。即刻取り消してよ」

「気持ちは分かるよ。わたしも中学まで帰宅部だったし」

「だったら……」

「でも、部活や委員会活動を頑張っている子を見ていたら羨ましい気持ちもあったの。打ち込む姿が格好良かったし、クラスとは別に同じ目標を持つ仲間がいることも」

 日々木の意見に蘭花が「分かる」と賛同した。
 わたしはますます顰めっ面になって「そうだとしても強制する必要はないじゃない」と反論する。

「いろいろ理由はあるんだけど、生徒会としては新しいことに挑戦したり出会ったりする機会になって欲しいと思っているの」

「余計なお世話よ」

「そうなんだけどね」と苦笑した日々木は「だけど、臨玲は昔は部活動に力を入れていたのよ。学生時代に様々な体験をすることを推奨していたし」と説明した。

「昔のことなんて関係ないでしょ」と突っぱねていると、「日々木さんを苛めたらこの学校にいられなくなるよ」と物騒なことを口にしながら西口がやって来た。

「お話をしているだけだよ」と日々木はニコニコしている。

 わたしも「生徒会の横暴に対して抗議しているだけだから」と西口の言葉を受け流す。
 西口は笑って「だったら日野さんを呼んでこようか?」と言い出した。
 わたしは大きな声で「余計なことはしないで!」と怒鳴る。

「可恋はちゃんと話を聞くよ。みんな怖がりすぎだよ」と日々木が落ち込み、慌てて西口が「そんなつもりじゃないから」と取りなしている。

 わたしがそれを見て西口を鼻で笑っていると、「十織ちゃんも同罪じゃないかな」と蘭花が言った。
 慌てて「わたしは怖いなんて思ってないよ」と弁明すると、「十織ちゃんなら日野さんの前でも意見を言えるよね」と蘭花はこちらをジッと見た。
 この流れで「できない」なんて答えられるはずもなく、わたしは「当然よ」と胸を張る。

「放課後、3人を生徒会室に招待するね」

 日々木が晴れやかな表情でそう口にする。
 蘭花は楽しそうな顔で、西口は諦め顔で頷いた。
 わたしは……。

「部活に入ったことがないのに批判するのもどうかと思うの。とりあえずどこかに体験入部してみて、それから批判するかどうか考えるよ。蘭花、今日の放課後つき合って」

 蘭花は残念そうに肩をすくめたが、すぐに笑顔になって「いいよ」と答えた。
 わたしは蘭花の回答にホッとする。
 そして、日々木に「そういう訳だから」と告げ、「西口、ひとりで絞られてきてね」と西口にすべてを押しつけた。

 君子危うきに近寄らず。
 西口相手なら言い争って勝つことがある。
 だが、生徒会長はヤバい。
 ほとんど話したことはないが、あれは危険だ。
 わたしの本能がそう言っている。

 日々木は「いつでも遊びに来てね」と言いながら安藤を連れて自分の席に戻って行った。
 蘭花は手を振ってふたりを見送っている。
 西口は意外とサバサバした顔で「森薗さんの分まで話してくるわ」と語った。

「こんなふざけたルール、無くしてきてよ」

 わたしが彼女にだけ聞こえるように囁くと、「それは自分でどうにかしたら」と見下すような視線を送ってきた。
 睨み返すわたしに「批判ばかり口にしていても誰も助けてはくれないわよ」と捨て台詞を吐いて彼女は背中を向ける。

 ……あんな魔王みたいな女にわたしが太刀打ちできる訳ないじゃない。

 直視したくない現実から目を背け、わたしは「西口のバカ」と口の中で呟いてほんの少し溜飲を下げた。


††††† 登場人物紹介 †††††

森薗《もりぞの》十織《とおる》・・・臨玲高校1年生。強気な態度を取れる相手には強い。

染井《そめい》蘭花《らんか》・・・臨玲高校1年生。中学時代は陰湿な人間関係に心が削られた。十織は裏表があるタイプではないのでつき合いやすいと感じている。

日々木陽稲・・・臨玲高校1年生。生徒会副会長。休み時間によくクラスメイトから話を聞いて回っている。

西口凛・・・臨玲高校1年生。クラス委員長。中学時代は自分がしっかりしていると思っていたが、高校では何人も上には上がいて井の中の蛙だと思い知った。

日野可恋・・・臨玲高校1年生。生徒会長。十織に限らずクラスメイトの大半が彼女を恐れている。高校生離れした威圧感の持ち主。

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