語用論(Pragmatics)って知ってますか?
昨日はある学会のオンライン勉強会に出席していました。主題は、「語用論」。英語ではpragmaticsといいます。基調講演者の言いたかったことは、「わが国の英語教育では、もっと語用論を意識した教え方が必要だ」というものでした。
ことばは難しいのですが、こんな例を考えてもらえると、語用論の必要性がわかってもらえると思います。
例えば、私が学生で、教室の窓際の席に座っていたとします。その時教壇にいる先生が「戸田君、今日ちょっと暑いね」と言ったとします。その時に、私が「はいそうですね!」と元気よく答えたとしたら、先生はどういう反応をするでしょうか?おそらく「…こいつ空気読めねえな」でしょうか。もちろん先生の期待していた答えは、「窓開けますか?」だったと思われます。
語用論では、会話(発話ともいいます)の文法的な正しさ、語彙の正しさには問題がなくても、話者同士の関係において、あるやりとりが「間違っている」という場面を問題にします。
また、私の友人が突然「戸田君、電話持ってる。僕の携帯、電池が切れたんだけど」という発話は、「電話貸してもらえない?」と聞いている(あるいは許可を求めている)趣旨だと理解するのが通常で、私が「あ、そう」とだけ答えて、自分の携帯を差し出さなければ、友人は怒る可能性があります。
しかし身も知らない人から、同じような状況で「あんた電話持ってる。俺の電池切れたんだけど」と言われたら、「何ですか?」とだけ受け答えして別に電話を貸さなくても、私は非難されないと思われます。ここでの友人の発言も赤の他人の発言も文法上の間違いはありませんが、語用論から言えば友人の発言はOK、他人の発言は「間違い」あるいは「不適切」と言えるということになります。
こういう議論は、じゃあ、本質的にはどういうことなんだとまとめようとすると、案外説明が難しくなるものですが、そういう時に、最近では、便利なものがあります。YouTubeです。YouTubeを見ると、例えば言語学の権威が「語用論とは何か?」ということを、スッキリとまとめてくれていたりします。そのように思って、昨日"What is pragmatics?"とYouTubeを検索したところ、次の動画が出てきました。David Crystalという言語学では著名な先生が、これに答えるものでした。なるほどと…細かく言えば、ツッコミどころはあると思いますが、門外漢がまず糸口を掴むにはいいと思います。
先生は、言語の学習をする上で、学習者にとっての最も重要な動機付けは何であるかという質問に対して、それは文法でもなく、語彙でもなく、発音でもなく、音声学でもなく…これらもそれぞれに重要だが、このどれよりも重要なのが(=これらが全て正くても、間違ってはいけないのは)語用論であると言っています。
その理由として、先生は、語用論は「なぜ」ある人がある言葉を使うのか、「なぜ」ある文法構造を使うのか、「なぜ」ある言葉をある方法で使うのか。こうした質問の「なぜ」に答えを与えるのが語用論であるからという説明をしています。そして語用論の定義として「あなたが言語を使う時の選択に関する研究」としています。その選択の理由とその効果(影響)についての研究であると。
ある人が受身の形を多用するのはなぜか、なぜある表現を使わずに別の表現を使うのか…これらはコミュニケーションにおける前後関係(context)、意図された意味、強調したいポイントによるとしています。語彙も。例えば、人の呼び方も、こうした理由によって異なってきます。自分を俺、僕、わたし、わたくし、手前などと区別する、その選択に関わる研究です。相手との関係、歴史などを反映したものになるわけです。
敬語などの指導は時折しますが、これも語用論の範疇に入りそうですね。ハマりすぎてもいけないですが、でも学会の講演者が述べたように、学校での英語教育の中で、まったく触れないのも、やはり問題なのだと感じました。
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