英語リーディングとリスニングの関係
北村一真という方の「英語の読み方ーリスニング篇 話し言葉を聴きこなすー」という本を何回も読み返しています。それは、私が英語講師として働く中で、この2つの技能の関係について、非常に重要だと常々考えてきたらかです。そういう意識があったので、この本のタイトルが刺さったのだと思います。
この本と、さらにその前編にあたる「英語の読み方ーニュース、SNSから小説までー」の中で著者があげているポイントの一つに、「音として入ってくる英語の速さで読めなければ、『英語を読めている』とは言えないということがあります。つまり、よく「日本人は英語は読めるけど、聴けない」という言説に対し反駁しているのです。
つまり、読んで理解するとはいっても、それを際限もなく時間をかけて読み、その意味を読み解いても、実務的ではないということと理解しました。指摘されてみると、確かに学校教育を中心とする日本の英語教育の中で、リーディングとリスニングという2つの技能の結びつきについてはあまり教えられず、われわれはともすると、これら2つが別のものだというふうに捉えているのではないかということに思い至りました。
よく考えてみると、入力が文字という媒体か音という媒体かの違いはあっても、外からのインプット(情報)の意味を頭の中で理解するという作業とするという点で、両者は同じことなので、一方ができれば他方もできそうな気がします。しかし、「読めても聴けない」ということになるのは、「聴く」ことに求められる「インプットの速度についていく」という要素の故なのだと思います。
これをどう克服するか。
この観点から教室で学生諸君に練習してもらっているのは、「チャンク・リーディング」という練習法です。「チャンク」とは塊という意味です。練習法のポイントは以下の通りです。
(1)英語の文章を前から意味の塊(チャンク)に区切って読む。
(2)後戻りしない
(1)は例えばこういうことです。Steve Jobsのスピーチの下りを材料にしてみます。
This is the day I've been looking forward to for two and a half years.
これを意味の塊に分解すると
This is the day
I've been looking forward to
for two and a half years
通常の訳読では、英語の語順を日本語の自然な語順に変更する意識があるので、「今日は、私は2年半も待ち続けていた日です」とするのが通常です。しかし、チャンク・リーディングでは次のように行います。
This is the day 今日はその日なんです(何の日?)
I've been looking forward to 楽しみにしていた(どんなに?)
for two and a half years 2年半も
違いに気づいていただけたでしょうか。チャンク・リーディングでは、英語の語順のままで、意味を捉えているということです。この際には、訳読に慣れた私たちがよく行う「返り読み」ということを行わないという点がポイントで、これが上記(2)になります。
このように読んでいくと、次に文字ではなく音で同じテキストを流し、その際に意味の塊ごとに止めながら聴き、そこまでを日本語にするという作業(元々通訳の訓練法で行われていた手法で「サイト・トランスレーション」と呼ばれています)に抵抗を感じなくなります。
例えば、2人でペアを組んで、一方が"This is the day"と英語で言ったところで、もう一人が「今日はその日なんです」と声に出していう。こんな練習を教室では行っています。長いテキストを通して流して、「はいここまでを訳して」と指示しても、なかなかできないものですが、細かく切っていくと、その部分を日本語にすることは、ほぼ瞬間的にできるようになっていきます。
これを繰り返しながら、最後のピリオドのところまでいくと、テキストの意味が理解できた状態になる。これが目指すところです。
まず、北村さんの著書を読まれることをお勧めします。その上で、ここでお示しした「サイト・トランスレーション」、ぜひやってみてください。これで、英語情報が入ってくるスピードで理解できるという状態に少しずつですが、近づけるはずです。
「サイト・トランスレーション」への導入として「チャンク・リーディング」の方式で読むことに励めば、読むスピードも上がるという効果も期待できます。読むスピードと聞くスピードの合致を目指しましょう。